十九話 雪崩
ハルの提案により、逃がしてもらうことになった。決行は今夜。皆が寝静まった頃。ハルは家に帰っている。
しかし寒い。暖房はついていないのだ。食糧を新鮮に保つためだろうか?それとも単にケチっただけだろうか?なんであれ、見張りのシギも大変そうだ。見張りの交代は無いようだ。ずっとシギが見張っている。コンビニだったら訴えられてるだろう。
そして夜がきた。シギは入口から戻ると、監獄の鍵を外した。
「ほら、これで自由の身だ。」
なんだか悪いことをしたみたいな言い回しだ。
「ありがとよ。娑婆の空気は美味しいな。」
「冗談言ってねぇでさっさと行くぞ。」
最初に言ってきたのはどっちだ。
外にはハルが待っていた。
「シギはここで待ってて。」
「いや、俺も食糧逃がした罪人だからな。一緒に行かせてもらう。」
ハルは無言で頷いた。
私達はひたすら走った。雪に足をとられながら。雪が音を吸収してくれて助かった。なにもなかったら足音でバレていたかもしれない。
遠くで、叫び声がした。どうやら私達を探しているようだ。これはまずい。早く村を抜け出さなければ。
「ちょっと待っててください。スイを連れてきます。」
ハルがスイの眠る離れに向かった。
「いたぞぉー!ここだー!」
見つかった。
「ハル!早く戻ってこい!見つかった!」
ここで言わなければ良かったと後悔した。おそらく村の者は、ハルが首謀者だと知らないはずだ。だが言ってしまったものは仕方がない。ハルはスイをその場に置いた。私達は走り出した。
「シギ!そやつらを捕まえぃ!皆飢えてしまうぞ!」
シギが立ち止まった。
「おい!何やってる!逃げるんだ!」
「ダメだ。村を捨ててはいけない。」
ハルまでもが立ち止まってしまった。追っ手はすぐそこまできている。遠くで地鳴りのような音もしている。
「シギ!お願い!お願いだから来て!ねぇ!お兄ちゃん!!」
なんだって?お兄ちゃん?これにはシギも困惑している。
「お兄ちゃんって、どういうことだ?」
「そんなのいいから!お願い!」
ここからシギはだいぶ離れた所に居る。地鳴りが大きくなる。見上げると、木々をなぎ倒し、雪が物凄い勢いで落ちてくる。
「雪崩だ。」
「お兄ちゃん!!」
シギ、それに村全体が雪崩に飲み込まれた。私達は偶然助かった。奇跡と言えるほどであった。
ハルは泣いている。
「ハルさん。辛いとは思いますが、お兄さんとは誰のことです?教えていただけませんか。」
「そんなの、シギのことに決まっています。」
目の前で起きたことがあまりにも大きいことで、私は妙に冷静だった。
「しかしあなたはシギと結ばれたかったと」
「シギは、私と兄妹であることを知りません。私は、私に好意を寄せてくれるシギを、助けたかっただけなのです。」
「助けたかった?」
「ええ、シギは幼い頃、この村とは別の所に住んでいました。それが十四の時にこの村につれてこられて。村の者の扱いはひどいものでした。それでも兄がこの村に居られたのは、私と兄弟だったからです。でもそれはシギに伝えられませんでした。私はなんとか、シギの苦しみを和らげようと、毎朝シギの元へ通いました。いずれ、私と夫婦になればこの村にも認められるだろうと思ったのです。しかし、あの男にそれを阻まれたのです。あのフユゴモリ様に。長く苦しい時でした。今日、せっかくチャンスを掴んだと思ったのに、見ての通りです。何もかも失ってしまいました。ダメですね、私は。」
「ハルさん…」
私はそんな彼女にかける言葉を持たない。何もしてやれないのだ。ただ隣で、彼女の孤独がすこしでも和らぐように、ただ突っ立っているしか無いのだ。




