十六話 摂理
祠の奥に連れて行かれた。壁が赤く塗られている。あれは血の臭いだったか。ここは牢獄のようだ。男達は、私を牢獄に入れた。シギに見張っておくように言っている。シギが頷いた。男達は帰って行く。
「よう!シギ。昨日は悪かったな。ここから出してくれないか?」
シギの目には哀れみの色があった。
「すまないな、それはできない。村のためなんだ。」
「どうしてもか?」
「あぁ、食糧が無いんだ。このままでは皆飢えてしまう。」
「食糧なら俺の車にたくさん積んでるぞ?どうしてもと言うならくれてやらんでもない。雪が積もって車は出せなくなったが、歩いて山を越えられんわけでもない。」
「もちろん車の食糧も貰う。だがそれだけじゃ足りないんだ。」
「そんなこと言われてもな、俺にはどうしようも無いぞ?そもそもなんで俺は捕らえられてるんだ?」
「お前にだってできることはあるさ。例えば食糧とかな。」
シギは顔を背け、あっちを向いてしまった。
「だから、俺には車の食糧しか無いんだぞ?」
「何言ってるんだ。あるじゃないか、ここに。」
何言ってるんだは私のセリフだ。なんなんだ一体。
「何も持ってないぞ?」
「俺達は、俺達の村は、人を食う鬼の村だ。」
なんだって?人を食う?
「それって、カニバリズムってやつか?」
「なんて言うのかは知らん。ただ俺達は、冬の間だけ人を食わねばならん。そうでもしなけりゃ生きていけんのだ。」
「そんな」
「すまないな、悪く思わんでくれ。生きていくためなんだ。仕方のないことなんだ。許してくれ。」
そう言ってシギは、こちらを振り向きながら、膝を地面に付ける。そして両手を付け、頭を下げた。
「土下座なんて止してくれ。冷たいだろう。頭をあげてくれ。」
シギはそれでも止めなかった。地に頭を付けたまま、こう言った。
「命を、人の命を貰うんだ。それなりの覚悟が無きゃいけないんだ。これは俺の、僅かばかりの礼だ。」
礼?何の話だ?
「礼なんて知らんがな、俺がお前の立場だったらきっと同じようにするさ。人まで食わねば生きていけないのなら、知り合いよりも、村に迷い込んだ赤の他人を食うだろうよ。」
怖い。怖くてたまらないのだ。本当は。しかし、私は精一杯強かってみせた。これは自然の摂理なのだと。生きるために、私だって何かの生物を食らっていかねばならないのだ。食われる側に、今私は立っている。




