厳冬籠もり春を待つ

一話 厳冬の村

　厳しい冬の訪れるこの村には、冬眠する男がいる。冬の色が見え始める頃、ひどい眠気に襲われ、長く深い眠りにつく。男の名はスイという。冬の間、彼が目覚めることはない。

　彼のことを知ったのは、三月ほど前の秋であった。生物研究者である私のもとへ、「冬眠する男がいる」といった噂が舞い込んできた。バカバカしいとは思ったものの、研究に行き詰まっていた私は、マウスの管理を助手に任せ、息抜きのつもりでその男がいるという村へ車を走らせた。