仮想彼氏・只今・戦闘中 第2回 イベントなのかエラーなのか
これはリレー小説ですよー。この作品を読む前に、1話目の「わたしの彼氏はパトリック」を読むことをお勧めしまーす。これは2話ですからね?
DIGクリエイティブアワード2012投稿作
「君たちは世界を変えることができる」
もう一度そう言って、斧を振りかぶるラドクリフ。ちょっと、言ってることとやってることに矛盾が生じてるんだけれど。
期待しているかのような言葉とは裏腹に、重い一撃が地面に落とされる。私とパックンを引き裂くように間に衝撃波が生まれ、私たちは思いっきり避けるしかなかった。
「バグでも起こしたの!?」
システムエラーなのだろうか。ラドクリフはパックン同様、高性能のAI| (人工知能)だ。言動がおかしいうちはまだいいが、本格的にエラーを起こしているならばエラー報告を早めにしなければならない。
エラーの修理が長引いてパックンに会えないのは嫌だ。そんなの耐えられるわけがない。快適に過ごすためには、パックンとの生活を楽しむためには、些細なエラーでも見逃さずに報告するのが一番だ。エラーがひどくなってからでは遅い。
とりあえず、他のエラーが無いかの確認をしなくては。何か行動を起こして確認するのが手っ取り早いだろう。
ここは戦場だ。そしてラドクリフは敵。ならば、取るべき行動は一つだけ。
「レイ、飛び込むな!」
「……ごめんね、パックン!」
日本刀を振りかぶる。パックンの制止を無視した。これは愛情の裏返しなの。
「チェストッ!」
気合いを込めてラドクリフに突進する。ラドクリフは微動だにしない。AIだから恐怖が無いのか、普段のプレイヤー相手にしているときと違って、ラドクリフは余裕綽々だ。
一分の隙もなく刃を降ろす。当たった歯ごたえがあった、なのに。
「ラドクリフ様ぁ、ここで何をしていらっしゃるのん?」
甘い声が刃の下で聞こえた。
そう、私の攻撃はラドクリフではない別人によって止められたのだ。
「皆、ラドクリフ様を待っておられますわぁ?」
言うならば花魁、花街の遊女。華やかな薄紅の衣装の袖から伸びる細く白い腕が、小太刀で私の日本刀を防いでいた。
「こんな下品な女なぞ、ラドクリフ様がお相手する必要なくてよん?」
流し目を送ってきた花魁の放つ殺気を感じ取った瞬間、私はとっさに飛び退いて、コマンドコールをした。
「コマンドコール・マップ!」
コマンドコールはメニューを起動させるための合図だ。アイテムやステータスの管理など基本的な物から、パーティー編成などなど。使いたい機能の名前を言うだけで薄っぺらいウィンドウが出現する作りとなっている。
今回私は相手の名前を確認しようと、フィールドマップを開いた。マップには地形は勿論、周囲のプレイヤー名及びAI名が現れる。ただし、周囲の定義はせいぜい半径十メートルほどだ。
《オリン》
ギリギリ範囲内に相手を納めると、AIを表す青文字の中に、見知らぬ名前を見つけた。相手の陣や自分の陣のAI、プレイヤーは日頃からよく知っている。見知らぬこの名前こそ、この花魁のキャラネームなのであろう。
「君たちは世界を変えることができる」
もう一度、ラドクリフは言った。
「ラドクリフ様ぁ、お時間ですのん」
オリンが艶めかしく話す。知らないキャラの出現にに、ラドクリフの今までとは違う言動。 これは何か新しいイベントの合図なのだろうか? それともやはりエラーなのだろうか?
颯爽と踵を返すラドクリフと、その後ろを恭しくついていくオリン。中世の騎士と日本の花魁が並ぶ光景はちぐはぐに見えるが、このゲームの趣向上、そんなのは日常茶飯事だ。
姿が見えなくなった後、緊張を解いてマップを閉じる。愛するパックンを見れば、彼はひどく悲しそうな顔で怒りを露わにしていた。