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二話


城内は少し肌寒かった。庭から察する通り、城内は想像していたものとは違い清潔でとても一人で住んでいるとは思えない美しさがあった。案内されながらネロはその隅々まで怪しいものがないか目をやって、更にここへ飛んでいったカラスを捜した。しかしカラスが住み着いているなど想像も出来ないような絢爛豪華な城の内部に、ネロはただただ視線を奪われるばかりだった。

やがてエドワードはどこか部屋の前で立ち止まり、その扉を開け放った。

ネロは最初、眩しさでなにがあるのか分からなかったが、置いてある物を目にした時、思わず言葉を失った。


「何だ…これ…」

「君が住んでる村の、模型さ」


その一つ一つは寸分の狂いもなく、村の様子を写していた。まるで、村そのものが小さくなってここに飾られているような精巧さがあった。

ネロはあまりに良く出来たその村の模型に賞賛する言葉が思い浮かばず、ただ黙ってため息をもらすことしか出来なかった。


「何年もかけて、この城から見える村に憧れて作ったんだ。どうかな?」


ネロは声を掛けられ、ハッと我にかえるようにそしらぬ態度に変わった。


「別に。」

「そうか、またうまく作れるようにしなきゃね…。そうだ!お腹空いるかい?良かったら夕飯なんてどうかな?」

「…俺、この城に用事があってきたんだ。そんなに長居はしない」


エドワードはきょとんとしてネロの顔を見遣った。ネロは辺りを見渡して、エドワードに告げる。


「この城に、俺のペンダントを持っていったカラスが入り込んでる。だからカラスからペンダントを取り返しに来たんだ!吸血鬼なんかと仲良くなんてしない!」


エドワードは緩く笑んだ。ネロはもう一度木の棒を振りかざすと、何も言わなくなってしまった。エドワードは少し残念そうな表情で、首から提げた銀の笛を取り出して、ピュウと鳴らしてみせた。

するとどこからともなく羽音が響き、あの漆黒のカラスが舞い戻ってきた。

ネロは驚いてエドワードの腕にとまったカラスを見つめる。

カラスは顔を逸らし、まるで澄ました顔をしているかのようだった。エドワードは続ける。


「吸血鬼、か…。確かにそう不気味がられても仕方が無いね。ソフィア、返してあげて」



しかしソフィアと名づけられているカラスはそれが不服だったのか、再び飛び去ってしまった。

エドワードはもう一度笛を吹いてソフィアを呼んだが、帰ってくることはなかった。

ネロはぎろりとエドワードを睨みつける。


「あのカラス、あんたが飼ってんのか?」

「と、とんでもない、飼ってるだなんて…ソフィアは僕の奥さんだよ」

「か、カラスと夫婦なのか?」

「そうだよ、美人なひとだろう?」


やはり吸血鬼の考えることは分からない。ネロは首を振った。

しかし母の形見を取られたままでもいれない。既に外は暗くなり始めていたが、ここで引き下がるわけにもいかないネロは棒をおろしてエドワードに向かった。


「夕飯、付き合ってやってもいい」

「えっ?」

「だけどペンダントを返してくれるのが約束だ。いいな?」

「うんうん、分かった!じゃあソフィアを呼んでくるから、君はダイニングでくつろいでいてよ!」


エドワードは次にネロが何を言うのを待つでもなく、喜び急いで走っていってしまった。

ネロはどこか情けないその背中を見つめながら、食事に毒を盛られないだろうかと心配した。

だが、何だか間の抜けた吸血鬼である。ネロは次第にエドワードに心を許していくのを感じて、自分を叱咤する。

そして、何が待ち構えているのか分からないダイニングへと、足を運ぶのだった。




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