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一話

カラスは城を迂回して、二階の窓から城内に入っていった。背伸びをしてその様子を見ていたネロは、どうするべきか考え、困り果てていた。とはいえ折角もらったばかりのペンダントを無くしたとなれば両親に合わす顔がない。ネロはいざというときのため長めの棒を拾うと、それをベルトの間に差し込んだ。

さながら、魔物を討伐しにいく勇者のようだ。ネロは自嘲気味に笑った。

丘をあがると益々その姿は不気味で、誰の足も拒むような蔦が絡まっていた。

ネロは蔦やまろわりつく虫などを木の棒で払いながら、ついに門前へ辿り着いた。


門は当然閉まっていた。門は長年開閉されていないのか、こちらもまた蔦が絡み、とても子供が手で押したぐらいでは開きそうにもなかった。

ネロは門から入るのを諦め、どこか抜け道がないか、ぐるりと城壁の周りを歩き出した。どこもかしこも手入れがなってなく、城壁もくすんでレンガがすこし崩れかけている。ネロはそのレンガが崩れた箇所を触ってみた。気がひけたが壊れそうなので、ネロは思い切ってそのレンガに向かい両足で蹴りを入れた。

すると予想以上にもろかった城壁は難なくネロの一撃で崩れ去り、勢いのあまったネロはそのままごろごろと転がってしまった。


やがて転がり止ったネロは、節々痛む体を起こして吸血城内部を見て、思わず驚きの声を上げた。

あんなに手入れされていなかった外見が嘘のように、ネロが転がってきた庭はとても綺麗だった。

陶器のプランターからはいくつもの鮮やかな花が輝き、規則的に木が植樹されている。また外の外壁を使ったと思われるレンガが敷き詰められ、道を作っていた。

ネロはここが吸血城だと忘れるほどその美しい庭に見入っていると、背後からとんとん、と肩を叩かれ、飛び跳ねるように後ずさった。



その男はもしかしたら村民全員のイメージを守ってこういう格好をしているのでは、と思われるいかにも吸血鬼らしい出で立ちでネロを見つめていた。

片手にはジョウロ、肩には黒いマントを羽織り、赤いリボンでまとめた黒い燕尾服。その髪は白に近い銀髪で、顔は女性を惑わせそうなほど整っていた。

ネロはこいつこそ間違いなく吸血鬼なのだと瞬時に理解し、驚いているその男へ木の棒を突きつけた。


「…お、お前がこの城の吸血鬼かっ」


震える手で握られた木の棒を威嚇のつもりで振り回したネロは、これまた震える声でそう尋ねた。

男は何を思ったのか、ジョウロを手から落とし、ネロに近づいた。

ネロは近づいてくる男に怯えて、更に棒を振るった。


「く、来るなよ!来たら目ン玉突くからなっ!」


しかしそんなネロの脅しなど聞こえないように歩みを止めない男に、ネロはついに尻餅をついてその場に倒れ込んだ。ネロは殺されるのを覚悟して目をつぶったが、何も起きない。

恐る恐る目を開けると、きらきらと目を輝かせた男が、しゃがみこんでネロの顔をじっと見つめていた。


「…君は、…あの村の子かい?」

「そ…それが何だよ?」

「そ、それは本当?」

「……えっと…ああ、」

「そうか!やったぞソフィア!ついにお客様だっ!」


急に喜び出した男は強引にネロの手を取り、嬉しそうにぶんぶんと上下に揺さ振った。

ネロは何が何だが理解できなかったが、まだ男が信用できないため、再び棒を拾い上げてベルトにさした。男は立ち上がって勢いをつけると、ネロの手を取って歩き出した。


「僕の名前はエドワード!さあ、城内へ、沢山見せたい物があるんだ!」


まるで久々に再会した親友を促すように明るく言うエドワードに、ネロは不信感を抱きながらも、

虎穴はいらずんば虎子を得ず、の心得でエドワードについていくのだった。




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