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十二話


 「どこ行ってたんだ、遅いじゃんか!」


ネロはソフィアと別れ、玄関で待っていたハロルドと再会して、苦笑する。ハロルドは大きくため息をついて迷子になったと言い訳をしたネロを見つめて笑う。


「まあ、無事でよかったぜ、お前もニンニク持っておけよ、魔よけだ魔よけ」

「い、いい。手が臭くなるから…」


ハロルドから手渡されたニンニクをつき返して、ネロは城を見上げた。これが魔法の力。そんな魔法や悪魔なんて神話の話か何かで、自分たちにはなんら関係ない生活を送っていたネロにとって、なんだか不思議なことに思えた。こうしてみると、順応している自分がいて、またそれがなんだか滑稽に感じるのだった。


「あーあ、なんか興ざめ。帰るか、ネロ。誰も住んでなかったし、やっぱり母さん達の噂は嘘だったんだな」

「だろうな、うん帰ろう。腹、減ったし」


ハロルドは近くの小石を蹴り上げて、つまらなさそうに舌打ちをした。

待ってる間に気が変わったのか帰ることになったネロは安心してため息をついた。

ハロルドの大きな鞄をもってやり、レンガの隙間から城を出たネロは帰宅するべく顔を上げて凍りついた。



「随分楽しそうだったな…ネロ」

「とうさ…」

「…来い、てめえはやっぱりこんな所に来て…ハロルド、てめえも母ちゃんに言いつけるからな」


門の前で両手を組んで仁王立ちしていたのは、ネロの父親だった。ネロは一気に青ざめた頭で、様々な言い訳のパターンを考えてその場に立ち尽くした。

ネロの父はずしりとまるで重りをつけて歩くようにゆっくりとネロに近づくと、力いっぱいネロをひっぱたいた。その衝撃でネロは倒れ込み、側には金色のペンダントが転がって落ちた。


「…ネロ!」

「てめえは友達を危険な目に合わせてそれで満足か」


ネロは顔を上げた。自分でもわかるほど情けない顔をしたネロは震える声で返した。


「ちがう…きゅうけつきなんて…いない…から…」

「来い、お前には見合った罰が必要だ」


ネロは無理やり父にてをひかれて、歩き出した。ハロルドはそんなネロの父にすがりつくようにつかみかかり、涙でくしゃくしゃな顔をして訴えた。


「おじさん…、俺が、俺が誘ったんです!どうかネロを…許してくれよ!」

「いいや、それは出来ない、ハロルド。てめえも母ちゃんから罰をあたえられるような身だ、勘違いすんじゃねえぞ」

「ネロ、ごめん、ごめんよ、ネロ!」


ネロはそれより大きな不安に心臓が破裂しそうだった。これは自分が一番恐れていた事態だと、ネロは胸の中で祈った。どうかどうかエドワードがこのことに気づいて犬の姿でいますように。そして城に魔法をかけませんように!…と。







 「ネロは帰ったかい?」


エドワードは銀色の狼のような姿をしていた。尾には真紅のリボンが結んであり、しゃべらなくとも彼を知る者ならばエドワードだとわかる目印にもなった。

エドワードの頭の上で身づくろいをしていたソフィアはカアと鳴き声をあげて飛び立つ。

城を空からぐるりと一周したソフィアは、再びエドワードに降り立ちもう一度鳴いた。


「そうか、よかった!」


エドワードはすっと立ち上がるように自然に人間に戻ると、大きく手をかざす。すると美しい庭が蘇り、その茂みに身を潜めていたエドワードは大きく伸びをした。


「あはは、久しぶりに犬になると体が痛いや。」

「エドワード、雲行きが怪しいわ、中に入りましょう」

「そうだね、美しい僕の奥さん」


曇天はいつにもまして分厚く城の上を覆っていた。まるで、今からくる災厄を警告するかのように雷を遠く鳴らした雲は、今にも嵐を呼ぼうと黒雲を集めている。ソフィアはエドワードの肩からその様子を見上げて、胸を嫌な気持ちが流れるのを感じて目を閉じた。







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