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魔兵機士ヴァイスグリード  作者: 八神 凪


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第1話 壊滅

――グレイスⅠ 周辺宙域


「――っている! これはなんだ! うお!?」

「防衛隊はなにをしているんだ!」

<ダ、ダメです! 戦闘機で迎撃を行っているのですが、人型の機動兵器は小回りが――>

「……くそ!」


 突如、宇宙に浮かぶ居住機構グレイス周辺に謎の機動兵器が襲来。

 地球に近いグレイスⅡと地球から一番遠いグレイスⅣが直接攻撃を受けたのである。

 そこで緊急迎撃(エマージェンシー)を発令する|世界防衛機構《World Defense Mechanism》だったが、縦横無尽に宇宙空間を動ける戦闘機は次々と撃墜されていた。


「な、んだ……!? 人型であんなにでかいのに何故あれほどの機動力を……!」

「……やられましたね」

「どういうことか、エルフォルク!」

「でかい声を出さんでください。一見、人型は鈍重に見えますが戦闘機に比べると汎用性が高いんですよ。手足や背中にブースターをつけておけばその場で停滞できて武器も指のある手のおかげで取り回しが利く。我々の動きをでかい図体でやっているんですよ。単純な作業用としても優秀だと考えています」


 WDMの司令部の一つ。

 白衣を着てとんぼ眼鏡をかけた赤い髪の女性が眼前のモニターを見ながら肩を竦める。

 説明を受けた将校が拳を握りながら冷や汗かき、目を細めて先ほどとは打って変わって静かに口を開く。


「……お前達、フェルゼ・ゼネラルカンパニーはこれを予見していたということか?」

「流石にそこまでは。とはいえ何者かはわかりませんが我々は《《先を越された》》形になりましたね」


 電子工学のトップクラスを誇る会社『フェルゼ・ゼネラルカンパニー』

 そこの技術主任であるエルフォルクは地球と近辺の宇宙の平和を維持するために必要なモノだと思い、人型機動兵器の開発を上層部に進言し開発を行っていた。

 あと一息で完成というところまできていたが、理想とも呼べる《《それ》》がほぼ完全な形で敵として現れたことに驚きと興奮を隠しきれない。


「(我々の技術の上を行くか。地球の平和維持のため、そして抑止力としてWDMに卸すつもりだったが、これは違う形の運用になりそうだ。数は八機。それで攻めれると思ったのだから有用性は思った通り――)」


 エルフォルクは危機的状況ながらも外の様子を伺いながら胸中でそんなことを考えていた。開発については間違っていなかったと。

 

 しかし――


「ぐぬ……! こ、このままではグレイスⅠが」

「スッダー将軍、このままではここも危険です。一旦非難をしましょう……!!」

「馬鹿な、敵に背を向けて逃げるというのか!?」


 ――この状況をなんとかしなければすべてが無駄になってしまう。そしてそれが現実になりつつあった。

 将校のスッダーが退避を提案した兵士の胸倉を掴んで持ち上げる。それをエルフォルクが手を添えて抑えた。


「その人の言う通りだ。見ろ、戦闘機も健闘しているが殆どダメージを取れていない。ここもじきにやられるぞ」

「……」


 モニターの向こうでは何十機もの戦闘機が攻撃し命中させていく。敵は機動兵器の扱いにまだ慣れていないのか弾は当たっていた。

 それでもダメージにはなっていないようで何機もの戦闘機が落とされ、残骸が宇宙空間へ漂うことになる。

 数は少ないが圧倒的戦力を目の当たりにした形だ。


「ぜ、全滅か……!?」

「退きましょう。この光景を上層部に届けて対策をしなければ」

「おのれ! おのれぇぇぇぇぇ!!」

「皆さんデータの抜き出しを。ここもすぐに破壊されるでしょう」

「い、一般市民は……」

「WDMが出来る限り避難できるよう船を用意している!」

「……逃げ切れるかはあちらさん次第だろうけどね。……ん?」


 そこでエルフォルクの通信端末が震える。

 状況が状況だけに取るわけにはいかないとデータ収集を急ぐ。だが、通知が止まらないので仕方なく出ることにした。


「私だ。急ぎか? ああ、こっちもやられていて脱出をするところだ。それで……? なに……!? それは本当か! ……そうか」

「なんだ、どうしたというのだ!? お前が叫ぶとは珍しいな」

「ちょっとね。……急ごう、私の仕事が増えたらしい。……くそっ!」

「う、うむ」


 先ほどまで激昂していたのはスッダー将軍だったが、今はエルフォルクが物凄い形相で指令室の壁を拳で殴りつけていた。

 スッダー将軍はその剣幕にぎょっとする。エルフォルク達はそのまま部屋を後にする。

 通路に出た瞬間、独特の浮遊感により白衣と一緒に浮かんだ。


「……シンジの乗っていたシャトルが落とされただと……あいつが居なければプロジェクトに遅れが出る……そのまま私がやるしかない……! くそ……! 後一か月あれば……こんなことには……」


 人型ロボットの基礎になるコンピュータ開発を高柳 真司が担っていた。もちろん主任であるエルフォルクにも出来なくはないが、彼は天才と称されるレベルの人間だった。

 開発されていたコンピュータは本人以外に理解できない箇所がいくつもあった。

 その内、真司がマニュアルを作成する予定だったが文字通り藻屑となった。


「ぐっ……!? もう来たのか……!」


 そんなことを考えている中、通路が大きく揺れる。

 いよいよこのグレイスにも攻撃の手が伸びてきたのだ。彼女は急いで脱出艇まで行くと、宇宙服を着て乗り込んだ。


「逃げるアテがあるかねえ……グレイスⅢはまだ狙われていないようだけど」

「チィ、民間人をなんとかせねばならんだろうが!?」

「ダメです! 将軍だけでも! あいつら、グレイスの居住区にはまだ手を出していないんです、なんとかなりますって!」


 口うるさいのに民間人を気遣うとは軍人としては珍しい男だなと、エルフォルクは端末を取り出しながらスッダー将軍を見る。

 

「うお……!?」

「うわあ!?」


 そこで爆発音が鳴り、その場に居た全員が大きく揺さぶられた。

 

 そして――


「ぐぬ……好き放題やってくれる……!」


 憤慨するスッダー将軍をよそにエルフォルクは納得がいったという表情を見せる。

 脱出艇のエンジンに火が入ったその時、彼女が口を開く。


「将軍。申し訳ないがこのままグレイスⅢへ行ってもらえるだろうか?」

「なんだと? 我々は本部へ――」

「無理だ。見てください」

「……なんと」


 端末をスッダー将軍に見せると、彼は渋い顔で冷や汗を噴出させた。

 地球に一番遠い場所にあるグレイスがあちこちで爆発していたからだ。そこには本部が、あった。


「通信が……!」

「スッダー将軍!」

「し、指令! この騒動は一体!?」

「こちらもわからん! しかし、これは明らかな宣戦布告。我々はアレを排除せねばならん」

「もちろんです! 私もそちらへ――」


 瞬間、船内の通信が回復し、スッダー将軍が指令に敬礼をしながら口を開く。状況を確認しようとしたが、指令は首を振って答えた。


「そこに技術屋のエルフォルクが居るな? 彼女とフェルゼの本社へ向かってくれ。こうなったら開発を急がせるしか――」

(し、指令! 奴等がこちらに……!!)

「ぐぬ……! ここはもう駄目だ。だが、こちらも開発中の人型ロボットを戦闘用にすれば……奴等も機動隊の戦――」


 その瞬間、脱出艇に備え付けられていた通信モニタの向こう側が消えた。スッダー将軍はなにも言わずに壁を拳で叩いた後、帽子の位置を直しながら言う。


「……グレイスⅢへ向かう。急いでくれ」

「は、はい……」

「……」


 程なくして脱出艇がグレイスを出発。

 窓の外では他にも民間の船が出ていくのが見えた。それでも数隻は流れ弾に当たり撃沈される。


「……くそ……しかし、シンジ抜きで完成できるか……?」


 端末を握りしめて呟くエルフォルク。

 そこへ、ひとつのURLが、送られてきた。


「これは……!? まさか――」


 ――この日、地球人は謎の勢力に敗北した。たった八機の人型機動兵器によって。


 七つあった居住用スペース・グレイスの二つが全壊。そして三つが半壊していた。

 死者の数は約三千万とも五千万ともされた。

 WDM本部が失われたことで指揮系統も狂い、後はただ相手に蹂躙を許すだけ。


 誰もがそう思っていた。

 それほどの大敗。


 そして――


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