第12話 知らない世界
「なんだありゃ……!?」
<大きな亀、みたいですね?>
サクヤが疑問形で返事をする。
そう、俺の目には荒野に近い地面をでかい亀が走っている光景が映っている。この距離であの大きさなら二十メートルはありそうな感じがする。
<マスター、亀の前方を>
「なに? ……あ!?」
視線を動かすと亀の前に人間が居た。
さらに言うと馬に乗った人達が亀から逃げているような感じだった。
「追われているのか……? 弓で牽制しているみたいだが……」
<あ、突き上げられましたね>
「やべえなありゃ!? 助けにいかないと! ……お!?」
ちょっとダッシュをかけた瞬間、一気に加速する俺の身体。
まだ斜面が残っているのでつまづきそうになりながらバランスを取る。
「よっ! ほっ!」
<バランサーがあるので一気に抜けちゃいましょう!>
「おっしゃ! 行くぜ!」
<ブースター使用可能を確認。『使って』ください>
「よっし! ……どわあ!?」
使い方が脳裏に浮かぶ。なるほどこれはパイロットの時と同じでスイッチを押す感覚でいいのか。
そのまま地面を蹴って荒野に躍り出た俺は背面と脚部のブースターを起動させる。
自分の身体とは思えないほどの速さで巨大亀へ接敵する。態勢を整えた俺は拳を突き出した。
「食らえぇぇぇぇ!」
【グォァァァァァ!?】
<見事なグーパンですね>
サクヤの言う通り俺の拳が亀の左頬に突き刺さる。そういやあの時メインブースターが動かなかったのに今は快適に動いたな。
「な、なんだ……!?」
「おい、あんた達! こいつは俺が引き受けた! 早くここから離れな! っとぉ……!!」
【ガルゥッゥ……!!】
タフだな……! 亀の体当たりを両腕で頭を押さえて止める。というかヴァイスの一撃を受けて口から謎の体液を吐く程度に留まっているとは……!
「なにを――」
「全員撤収を! 何者かわかりませんが感謝いたします!」
困惑している鎧兜をつけている人達へフードを被った人物が大声を上げた。
それに続き爺さんの声が響き渡る。
「しんがりはワシが務める! さあ行け!」
「了解!!」
その一声でバラバラだった鎧兜の人達が一斉に動きだし、キレイな扇状に部隊編成したような感じで遠ざかっていく。
車とかじゃないんだな……? いったいここはどこなんだ?
<マスター!>
「!!」
【ブルォォォォ……!!】
ちょっと考え事をしていると、止められていることに苛立った亀がいきり立ち、パワーを上げてきた。
「お、おお……!? さ、がる……だと?」
<見た目通りの強さってことですね。しかしヴァイスならこれくらいは返せます>
「エネルギーが怖いけど……やるしかねえか……!! そういやなんか武器は――」
<……ありません。ここに来た時に一通りチェックしましたが外付けのものは>
「マジか……!? せめてディストラクションくらいあれば楽なのに!」
【ブモォォォ……】
「つあ!」
さっきの人達がかなり遠くなったのでそろそろいいか。俺は頭から手を放すと同時にもう一度顔面をぶん殴って身を翻す。
すると亀は勢い余って物凄い速度で滑っていく。だがドリフトをするように砂埃を上げながらこちらに視線を向けると再び突撃して来た。
「速い……!? ぐあ!?」
<損傷軽微。ですが、連続でヒットすると危険です!>
【グォァァァァァ!】
ひき逃げアタックを食らって地面に転がる俺。これが全力か? 拳だけで止めるのは結構、骨だぞ。
最新鋭機とはいえ武装は欲しい。
「すれ違いざまに殴っても効果があるかわからないな」
<血のようなものは出ていますけどね>
これじゃいつまでたっても倒せない。そう思った時、視界に森が見えてひとつ思い当たる。
「いけるか……!」
<なにを――>
俺は亀に背を向けるとブースターをふかして森へ向かう。そして勢いそのままで大木をへし折る。
「こいつで決めてやるぜ!!」
【ブォォォ!】
大木をバットのように振り回し、突っ込んでくる亀の顔面にミートさせた! 肩のブースターを使っているので威力は恐ろしいはずだ、どうだ……!
【グガ……!?】
その瞬間、首がぐるんと回り亀は舌を出しながら地面を転がっていく。そのまま白目を剥いて仰向けになった。
「よし! ……お!?」
「チェァァァァァ!!!」
<おお、お爺さんが飛びましたね……!>
サクヤの言う通りさっき大声で叫んでいた爺さんがでかい剣を頭上に掲げて飛んでいた。そのまま重力を利用した振り下ろしが亀の頭を両断した。
「マジか……」
<一撃で割りましたね>
着地と同時に亀の頭から血が流れだし、体を痙攣させる。死んだと一目で分かる状態だ。俺は大木を捨てて爺さんに近づいていく。
「すげえ一撃だな」
「む? なんの。お前さんが転がしてくれたから倒せたんじゃ……さて、ワシ一人の命でどこまで耐えられるか」
亀の頭を割った爺さんを讃えていると、そのまま大剣をしまわずに俺の方へ歩いて来た。
「なんだ爺さ――」
「グライアードの刺客よ。ゲイズタートルを倒してくれたことは感謝するが、姫様を渡すわけにはいかん……!」
「なに!?」
<警告、三時の方向から接近。後方へ回避を>
サクヤの音声を聞いて俺は《《垂直》》に飛ぶ。勘というやつだろうか?
眼下ではとんでもない速さで大剣が振り回され、さっきまで俺が立っていた場所と、恐らく一足飛びの範囲あたりを薙ぎ払う。
「避けたじゃと……!? 空を飛ぶ新型……!」
「ま、待ってくれ爺さん! 俺は敵じゃない!」
ブースターを動かして離れたところに着地する。俺は慌てて声を上げるが、爺さんはさらに踏み込んで来た。くそ、どうする……!?




