第10話 絶息
<出力低下。推力80%ダウン>
「嘘だろ!? なんで!」
AI音声で絶望的な声を聞いた俺は冷や汗が噴き出す。
機体が反転した瞬間、急激にブースターの出力が落ちてきた。みんなの背を見ながらブースタースロットを踏むが回復する見込みが無かった。
「リク!?」
「くっ……ダメだ、これ以上は上がらない!? うわ……!?」
<ダメージ軽微>
なんとかしようと操作パネルをいじっていると、後ろから射撃を受けて機体が揺れる。追いつかれた……!
「くそ、待っていろ! すぐに行くぞ!」
「ダメだって隊長! 行ってくれ! ここで全滅するわけにはいかない! 俺一機だけなら損害は少なくて済む!」
「出来るわけ無いじゃない!?」
「いいから! エイヴァさん達のブースターなら全速力でここか離脱できるだろ! うお!?」
さらに攻撃を受ける。
チッ……動けないのいいことにやってくれるぜ。さすがに距離があるからアサルトライフル程度とペイント弾じゃ戦いにならないだろうが――
「時間の問題、だな」
「なにやってんだ!?」
「俺はこのままペイント弾をぶち当ててやる! メインカメラらしきところに当てりゃ邪魔はできるだろ」
「死ぬぞ……!」
「黙っててもな」
<リクさん……>
俺がそう言うと通信が沈黙する。四機残れば御の字だと思ってくれれば幸いだ。
「馬鹿野郎が……! また俺に仲間を見捨てろってのか! 責任は俺が取る! ケーニッヒとユーシェンはリクを両脇で挟んで移送。エイヴァは後退しながらライフルでメインカメラを狙え」
「りょ、了解……! それならまだなんとかなるか。くう……!?」
「い、急ぎましょう!」
戻って来たケーニッヒとユーシェンが俺の機体を掴む様子が分かり、俺は困惑する。
『訓練でロクな装備が無いようだな! 新型らしいがここで潰す!』
「いいって! みんなやられっちまう!」
「ケーニッヒ、その肩のヤツは置いていけ。俺が使う」
「……! 了解……!」
相手の通信が耳に入り、俺は慌てて二人へ言葉を放つ。
そこでガルシア隊長がケーニッヒの機体に装備されていたまともな武装、ムラマサソードを肩から外して手に持つ。刀を模した抜き身の刃は機体を斬り裂く超鋼。
その威力は――
「ハッ!」
『……!? 腕が一撃で!?』
「行かせるかよ」
『な――』
――推して知るべし。
突出して来た一機を上下半分にして爆散させた。俺は引きずられながらその光景を見ているとガルシア隊長が叫んでいた。
「行け!」
「す、すみません……!」
「話は後だ。一気に行くぞ! ユーシェン、合わせろ」
「はい! 1、2……」
<警告。九時の方角より高速で飛来する物体を検知>
「え!?」
まずい……!? それはユーシェンの居る方向だ!
俺はケーニッヒを振り払い、ユーシェンの機体を掴むと肩ブースターを作動させるためレバーを引く。一瞬だけならどうだ!?
「あ!」
「よし!」
出力は落ちているものの、肩のブースターはきちんと作動した。その反動でぐるりと向きを変えて、ユーシェン機をかばう形になった。
なにが飛んでくるか分からないがもう一度、肩ブースターを上手く使って離脱――
「がっ……!?」
――そう考えていた瞬間、機体が大きく揺れ体に鋭い痛みを覚えた。急に……前が見えなくなった……。
「これ……俺の、血、か……」
口から出た血がヘルメットの前面に付着し、見えにくくなっていた。逃げないと……そう思って右手を動かそうとするが、動かない。
「な、んだ……」
意識が飛ぶ。
そう感じた俺はどうなったのかと、なんとか頭を動かす。すると、機体の右半分になにかが突き刺さっており、右腕はちぎれかかって……いた……。
「きゃああああああ!? リクさん!!」
<なに? どうしたんですか!? 凌空さん! 返事を!>
ああ、若菜ちゃん……すまねえ……親父さんの仇を、取れず――
「……い、行ってくれ……ケーニッヒ……ユーシェン……。お、俺は、もう……」
「はあ……はあ……。これでメインカメラは使えないでしょ……!!」
「うおおおお!! くたばれ貴様等ぁぁぁ!! おい、リク! しっかりしろ! 敵は倒した! 戻るぞ!」
「あ、はは……。すんません、隊長……もう、ダメみた――」
「い――! 死……な――!」
<さん! リ……さん!>
こりゃダメだ……もうなんも聞こえねえ……
こんなイレギュラーがあるとは……でも四人は逃げ切れるだろう。ユーシェンも守れた。それだけでも十分――
(助けて……! 誰か……!)
なんだ……? 声が、聞こえる……? 女か……。幻聴?
(国を……民を助けて……!)
今度はハッキリ聞こえた。
助けてほしいのはこっちだっての……神様も意地悪なもんだ、助けて欲しい人間に助けてなんて声はよ――
<損傷甚大。生命維持不可>
なぜかハッキリとAI『SAKUYA』の音声が脳裏に響く。目の前は真っ暗。もうこれが《《聞こえている》》のかどうかすら分からない。
どちらにせよ俺は死ぬということを告げている。
<機能テイシ……シシシシシシ死死死死>
その瞬間、AIが壊れたのか同じ言葉を繰り返す。折角の新型を壊しちまった。
薄れゆく意識の中、それは起きた。
<緊急事態。システム『CHIRUYA』起動。生命維持を優先>
なんだ? 聞いたことが無いシステ――
(お願い……強き人! 私の声に応えて――)
また女の子の声が聞こえた瞬間、俺の意識はぷっつりと途切れた――
◆ ◇ ◆
「リク、返事をしろリク!」
「救援に来たぞ……!」
「くそったれ! ラウダー小隊んとこへ行け! こっちは俺が始末した!」
「りょ、了解! 後退どうぞ!」
ガルシアが怒声をあげると、救援部隊は急ぎ現場へ急行。そこでケーニッヒが口を開いた。
「……すみません」
「馬鹿野郎! 謝るのは後だ! まだなんとかなるかもしれねえ、連れて帰るんだ!」
「う……ひっく……で、でも、コクピットが……」
「……!?」
ユーシェンが機体を引っ張りながら嗚咽をあげていた。長身の矢のようなものが右腹部に刺さり、コクピットを半分潰していた。命はもうないと誰もが思う状況。
「そんなはずはねえ! そんなはずは……」
「……」
ガルシアもそれは分かっていたのだろう。声色が酷く落ち込んだものに変わっていく。せめて連れて帰ってやろうと機体を掴んだ瞬間、奇妙なことが起こった。
「なんだ……? 色が、変わる……!?」
『ヴァイス』の各部発光部は緑色をしている。だが、今、この瞬間それは赤一色に変わっていた。
<システム――>
「なんだ、と……?」
凌空の機体のAIがなにかを発した瞬間、彼の『ヴァイス』は忽然と姿を、消した――




