3話
面と向かって心を告げることは少し恥ずかしいけれど。
「ダイアには感謝してる、ありがとう」
それでも、今はただ、伝えたかった。
「あ、ああ……」
「今さらこんなことを言うなんて変かもしれない。でも言わせて。ダイアへの感謝は言葉では表現できないほどのものなの。ダイアとの出会いは私の人生を大きく変えてくれたの」
本当のことだから。
そして。
人生における大きなことだから。
「それは」
「だからどれだけ感謝してもし足りない」
「そうか……」
「いつかお返しの方法が見つかればいいのだけれどね」
大事に抱えている感謝の気持ちでも、言葉にして伝えなければ伝わらない。
だから私は真っ直ぐ伝える。
多少の恥じらいはあっても、それでも、この胸にある大きな感謝をどうにかして少しでも伝えたいと強く思うから。
彼に出会えて本当に良かった。
命を捨てようとしていた私に彼が声をかけてくれたから、今がある。
あの時私は光ある未来のことなんて欠片ほども想像しなかった。
もうすべてが嫌だった。
もうすべて捨ててしまいたかった。
この世界には希望などありはしないのだと思い込んでしまっていた。
……でも違った。
その時は見えなかっただけで。
この世界から希望が消滅したわけではなかった。
それを教えてくれたのは、目の前にいる彼だ。
絶望の淵にあった私の行動をダイアが制止してくれたからこそ、私は希望に出会うことができ、穏やかな幸せに満ちた日々を手にすることができた。
この大きな感謝はどうすればきちんと伝えられるのだろう?
……いつの日か、きっと。
必ずお返しをしよう。
救ってくれた彼に。
さすがにそれだけのために生きるわけではないけれど、彼に恩返しをするということを生きるうえでの目標の一つとしたい。
◆
あの後聞いた噂によれば、ローズンとリリアは破局したそうだ。
婚約した途端、リリアはわがままさを隠さないようになり、ローズンは驚くと同時に幻滅したそう。
ただ、それでもローズンは、最初は彼女の言うことを聞くよう気をつけていたらしい。リリアを怒らせないよう努力して。彼女の言うことにできる限り従い、刺激しないように日々を過ごしていたのだとか。
けれどもリリアのわがままさは日に日に悪化していって。
やがてどうしようもない状態になっていってしまったそう。
そんなある夜、リリアに当たり散らされたローズンはついに爆発。
凄まじい口論になり、その中で我慢しきれなくなった彼は目の前の彼女を何発か殴ってしまったそう。
で、その一件により、ローズンは逮捕されることとなってしまった。
殴られたリリアとリリアの両親が通報し大騒ぎしたことによってローズンの行いは世に出ることとなってしまった、ということのようだ。
まぁ、リリアのわがままは時にかなり酷いものなので、ローズンが殴ってしまった気持ちも分からないではないのだけれど……。
ただ、男が女を殴ったとなると、どうしても問題にはなってしまうだろう。
いずれにせよローズンは終わった。
命は尽きずとも。
社会的には完全終了したと言っても過言ではない。
――そしてその後リリアが亡くなったという情報も入ってきた。
ローズンに殴られたダメージがかなり重いものだったようで。早く対処できたためその日に死亡することは避けられたものの、元の状態に戻ることはできなかったらしい。加えて、怪我によって容姿が変わってしまったことへのショックもあり、リリアはかなり落ち込んでしまっていたようで。
心身共にダメージを受けることとなったリリアは、やがて、衝動的にその命を投げ捨てた。
……という話だったようだ。
私を虐め傷つけてきたリリアも。
私を突然切り捨てたローズンも。
共に幸せな未来は掴めなかった。
きっと、それが、神の出した答えだったのだろう。
三人の中で悲劇に見舞われた私だけが幸せを手に入れることに成功した。
それを考えると、あの辛い経験も無駄ではなかったのだと思えてくる。
人間というのは不思議なもので。
未来に光があるならば、未来に希望があるのなら、どんな辛いことも無駄ではなかったのだと思える。
終わり良ければ、とは、上手く言ったものだ。
その言葉は見事に人というものを表現していると思う。
◆終わり◆




