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第三話 戦闘報告と名演技

アストラ議会国・中央区――白亜の十議円卓。

帰還直後、報告に立つのは護衛官カムイだった。膝をつき、静かに口上を述べる。


「――サイザール軍、戦意喪失により撤退。自軍の損害、軽微。殲滅および追撃は、レオン様の御判断により不実施。以上でございます」


第五席・国防省の将官が、椅子の肘掛を軋ませて身を乗り出した。

「なぜ“皆殺し”にせなんだ。二度と牙を剥けぬように、徹底せねば抑止にならん」


カムイは視線を落としたまま、淡々と答える。

「抑止は達成いたしました。必要以上の流血は、将来の恨みを増やします」


「甘い!」将官が卓を小さく叩く。

「初陣の童に政治を語らせるな」



沈黙を破ったのは、第八席・心器省のアルノルド・デ・ラングレーだった。声は穏やかだが、刃のように真っ直ぐだ。


「では、技術の話をしましょう。――戦場の武器はなぜ押収しなかった? 特に、願式刻印のあるものを」


仮面越しにレオンが僅かに首を傾げる。

「押収より、退路を空けることを優先した。戦端を閉じるには、その方が早い」


アルノルドは瞬きもせずに続けた。

「早さは理解した。だが、戦利品は失われた。君ほどの腕なら、奪うことをできたはずでは?」


「奪うことで恨みを買うのでは?」


「例え恨みを買ったとしても、敵国の心器を奪えれば、この国の為になるのではないかね?」



空気が硬くなる。

レオンが反論しようと試みた瞬間、第七席・産業省の長 ルイス・カーサルが間に割って入った。


「――国防省、心器省のお二人とも。初陣の場に過剰な期待は酷でしょう。彼は今日初めて国璧外へ出たのですよ?今は国境が鎮まった事実を讃えるべきでしょう?なにより、魂心器の脅威を敵国に知らしめるという当初の目的は達成されてるのではないか?」


円卓からは2人を除き、納得の声が漏れる。


第零席・議長シルバが短く頷く。

「本件、他に意見があるものはいるか?この場は、戦闘報告の場であることを鑑みても、当初目的は達成されておるし、追加の対処事項はないように思うが」


円卓の10人は声を上げない。


「それでは本日はここで閉廷とする。レオン、カムイ、ご苦労だった。引き続き、国家に貢献するように。以上」


議場に安堵の吐息が広がる。扉が開き、風が白亜の床を撫でた。




カムイがレオンに駆け寄る。

「将官が厳しい意見を仰るのは、どうかご理解ください、レオン様」


カムイはレオンの護衛となるまでは、国防省で働いていて、将官慕っているのをレオンは知っている。


「なんともないさ。意見は理解できる」


カムイは少し安堵した表情をした。

その後、目を細めながら語る。


「ただ、アルノルド様は、意地悪な方ですね。静かに、陰湿に、苦しいことをおっしゃります。一方で、ルイス様には助けられましたね。後で私からお礼を申し上げておきます。」


レオンは静かに笑った。



夜――中央区、国立アルマノート心器院の院長室。

街の灯が星のように散る中、レオンは、ある人物に会いに、秘密裏にこの部屋に忍び込んだ。

仮面は外され、レオンの眼差しは冷静に澄んでいた。


レオンは、真実の扉を開き、中に入ると、そこにはアルノルドが微笑んで立っていた。


2人は対峙し、アルノルドが先に口を開いた。

「――見事な芝居だった。君が“押収を怠った未熟な子”を演じ、私が“容赦ない技術官”を気取る。『仲裁』がどこから飛ぶか、思いのほか、簡単に答えはわかったな」


レオンは小さく笑う。

「仲裁は第七席から。速すぎたね。議題が“押収の是非”に触れた瞬間だった」


「理由を聞こう。なぜ産業省だと踏む?」


レオンは腕を組んで答える。

「サイザール名産の“爆弓ばくきゅう”が、前線に一張りもなかった。あれは願式を内蔵した爆発する弓で、彼らが“重要な戦闘”に必ず連れてくる部隊だ。

なのに――いなかった。つまり『アストラに奪われる恐れがある』と、彼らは事前に知っていた」


アルノルドの目がわずかに細くなる。

「誰が知らせた?」


「“押収”の可能性と、狙いが“心器の武装”であることを知り得るのは、報告系からして国防省・心器省・産業省に限られる。

その中で、“爆弓がアストラに渡ると困る”のは誰か。――輸入した武器を、転売して利を得ている者だ」


アルノルドが静かに続ける。

「つまり、産業省の監督下で不正な輸入と転売が行われ、利益を得ている者がいたと?」


レオンは頷く。

「議場での素早い仲裁は、議論の焦点が“押収=証拠集約”に踏み込むのを嫌った反射だ」


アルノルドは口元を押さえて笑った。

「君は現場で押収せずに、議場で押さえる材料を育てたわけだ。いやはや、十歳にして政治が過ぎる」


「武器で押さえるより、風で包む方が早い夜もある」


アルノルドが真顔に戻る。

「状況証拠は揃うが、裏どりが要る。産業省のどの線か?」


レオンはアルノルドに、考えてきた明日の策を伝える。


アルノルドは「ようやく十歳になり、自由が効くようになったな」と返答し、不敵に笑った。


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