おっさん冒険者、カーバンクルになる2-4
「凄い、喋るカーバンクル……」
ぽつりと漏らしたフィサリスの声に、セリスが顔を引きつらせた。
「えっと……その……ビーストテイマーの契約が、なんかして喋れるようになったの!」
言いながらも自分で無理があるとわかっているのか、セリスの視線が泳ぐ。
ディランは机の上で宝石を光らせながら(やっぱりこういうのはティナに任せるべきだった)と内心で嘆息した。
「スキルは女神様の加護ですから。まだ我々の知らない力が働くこともあります」
隣にいたティナが、さらりとした調子で話を引き取る。
この落ち着き、やはり頼れる。ディランは耳をぴこりと動かした。
「そういうスキルも、あるんだ……」
フィサリスは感心したように目を丸くし、ぴくぴくと揺れる耳を押さえるようにして言った。
「ただ、喋れるカーバンクルなんて珍しすぎるから……これは私たちだけの秘密、ってことで」
セリスが人差し指を口に当てると、フィサリスはこくりと頷いた。
「ナイショ、だよ」
耳がぴんと立ち、尻尾がふわりと揺れる。フィサリスの素直な反応に、三人の空気が少し和らいだ。
* * *
数日後――。
フィサリスの傷も癒え、主人公たちは再びダンジョン攻略へ向けた準備に取りかかっていた。
ギルドのロビー、朝の光がステンドグラスを通して床に色を落とす。
ティナが手際よくチェックリストを読み上げ、セリスは大きく頷く。
「うん、あとは……フィサリスの装備か」
セリスの言う様にフィサリスの装備はボロボロで新調が必要だった。
彼女のパーティー内での役割はポーター。物資の運搬等のサポートが仕事だ。
とはいえ冒険者である以上戦闘をしなければならない場面も出てくる。パーティーの人数が少ないディラン達のパーティーなら尚更だ。
「武器なら俺の使ってた短剣がある」
そう言ってディランは、ティナに目配せする。
ティナは鞄の中からディランからの預かり物、彼が以前使用していた一対の短剣をフィサリスに差し出した。
銀色の刃は控えめながら研ぎ澄まされており、軽量で扱いやすい。フィサリスの獣人としての高い身体能力と合わされば強力な武器になるだろう。
「それ……」
「俺が昔使ってたやつだ。今の俺には、もう必要ない」
「カーバンクルが短剣?」
「まぁ色々あってな。使ってくれ」
フィサリスは両手で丁寧に短剣を受け取る。
まるで宝物のように、それを胸に抱えて一礼した。
「ありがと。大事に使う」
彼女の真っ直ぐな眼差しに、ティナとセリスもどこか嬉しそうに笑っていた。
「じゃあ、次の目標はダンジョン攻略だね!」
セリスが拳を掲げる。
「まずは深層到達です……」
ティナが小声でツッコミを入れた。
「にぎやか……悪くない、かも」
そのやり取りに、フィサリスも小さく笑った。
剣士、魔術士、ポーター、カーバンクル。変な編成になってしまったがこういうダンジョンパーティーも悪くないと、ディランはさく息をついた。