おっさん冒険者、カーバンクルになる2-3
灰の迷宮で少女を救出した一行は、そのままダンジョンの攻略を中断し、町へと引き返すことになった。怪我を負った少女を放っておけるはずもない。
ルヴェルムの町に戻った彼らがまず向かったのは、冒険者ギルドだった。
ティナの簡単な回復魔法で止血などの処置はしていたが、あくまで応急手当の域を出ない。深層に近い階層で魔獣に囲まれた状態から救出した少女は、体力も限界を迎えていた。
ギルドの受付に急ぎ、専属の回復術士を手配してもらうと、フィサリスは治療室に運ばれ、しばらくしてから穏やかな寝息を立てて眠りについた。
「回復術士の方がすぐに目を覚ますって言ってました」
ティナが小さくほっとしたように呟く。彼女は戦闘よりも知識と分析を得意とするタイプで、仲間の身体の心配はすぐ顔に出る。
「……ここは……」
程なく少女は目を覚まし、その瞳がゆっくりと焦点を結び、天井を見上げる。
「安心して、ギルドの治療室だよ」
セリスが椅子から立ち上がり、やわらかく微笑んだ。
「あなた、助けてくれた人……?」
フィサリスはゆっくりと上体を起こし、周囲を見渡した。白い寝台、窓のない石の壁、ベッド脇には剣士らしき少女と魔法使いらしき少女、そして不思議な瞳の宝石を額に持つ小動物、カーバンクル。
「……夢じゃない、んだ……」
「ええ。あなた、本当に危なかったんですよ」
ティナがそっと水差しとコップを差し出す。フィサリスは少し迷った後、それを両手で受け取り、こくりと一口。
「助けてくれて、ありがとう。……ボクは……」
「冒険者は助け合いだからね」
セリスの言葉に、フィサリスは目を伏せながらも、かすかに笑った。
「私はセリス。こっちはティナ、そしてこの子が……ディラン。カーバンクルでビーストテイマーとして契約してて」
「……凄い、幻獣なんて珍しい」
フィサリスはディランを見つめて、少しだけ微笑んだ。ディランは何も言わず、ただ静かに尻尾を揺らしていた。
「……フィサリス。ボクの名前」
「フィサリスちゃん、よろしくね」
「よろしく……セリス、ティナ。あと、ディラン」
「冒険者なの?」
「……ポーター、ポーターだった」
「パーティーに、置いていかれたんですね」
ティナが言葉を継ぐと、フィサリスは静かに頷いた。
「あんな場所に、一人で放置されるなんて。普通じゃないです」
ディランは何も言わないが、そっとフィサリスの足元に座った。そのぬくもりに、フィサリスは一瞬だけ涙ぐんだ。
「これからどうするんですか?」
ティナが静かに尋ねる。
「とりあえず……どこかのパーティーで、またポーターを……」
その答えに、セリスとティナが顔を見合わせた。
「なら、私たちのパーティーに入りませんか?」
ティナがまっすぐにそう提案した。
フィサリスは驚きに目を丸くする。
「いいの……? ボク、戦えないし……強い魔法も使えないし……」
「ポーターとして経験があるなら、それだけで十分。私たちは人数もまだ少ないし、手が足りてるわけじゃない」
セリスがにこやかに言う。
「それに、今ここで一人にする方が、よっぽど不安でしょう?」
フィサリスは言葉を失い、目を伏せて肩を震わせた。
「……うん……ありがとう……うれしい……」
そして彼女は小さく頭を下げた。
「ボク、がんばる」
「うん、一緒にがんばろうね」
セリスがその言葉に頷く。
ティナがディランへと視線を向けた。
「ディランさん、反対しませんか?」
ディランは無言でしっぽを一振りする。それだけで充分だった。