おっさん冒険者、カーバンクルになる2-1
「師匠、失礼しますね」
そう言いながら、セリスはおずおずと手に持った首輪を取り出した。
「……なんだ、それは?」
ディラン――現在は小動物の魔獣カーバンクルとして活動している彼は、首をかしげた。
「これは……その……ティナさんが作ってくださった魔道具です。魔力を込めることで簡易的な魔法が使えるようになるって」
「つまり、カーバンクル用の魔法道具、というわけか」
ティナは恥ずかしそうに目を逸らしながら、ディランの首元にカチリとそれを装着する。
「……なるほど、ペット感がすごいな」
「ちゃ、ちゃんと魔術刻印を刻んだ、正式な支援具なんですよ」
「わかってるよ。確かにナイフはカーバンクルの体だと使いにくいからな。助かるよ、ありがとなティナ」
ディランが視線を向けた先、ティナは少しそっぽを向きながらも、照れ隠しに口元を押さえていた。
今回のダンジョン攻略の目的は、灰の迷宮の深層到達。
セリス、ティナ、そしてディラン――三人は再び迷宮の浅層を進んでいた。
「――はっ!」
セリスが「聖剣」のスキルを発動し、魔力の刃をその手の剣に纏わせる。
浅層の魔獣――スモールオーガの体躯を、一閃で断ち切る。
その姿はあまりに鮮やかで、眩しかった。
(……ほんと、かっこいいなぁ、セリスさんは)
ティナは内心そう思いながら、魔力のこもった杖を握りしめた。
“聖剣”はレアなユニークスキル。対して、ティナが持つのは“魔力操作”という一般的なスキルだ。魔法の汎用性を上げるために必要不可欠ではあるが、華々しさはない。
だからこそ、学んだ。術式、詠唱の短縮、詠唱破棄魔法。今回の幻獣用魔道具の製作も、自分なりの努力の結晶だった。
(……でも、やっぱり、目を引くのは“聖剣”なんだよね)
同じAランク冒険者ではあるものの活躍が違う。
どこか寂しげに視線を下げたその瞬間――
「ティナ、今度の分岐、罠の気配はない。だが念のため、後方の気配を警戒してくれ」
「っ……わかった」
ディランの助言に、ティナはすぐさま魔力を巡らせる。
中層に差し掛かるにつれ、魔獣の気配は一段と強くなっていた。
まもなく現れたのは、シルバーウルフの群れ。知性を持ち、集団戦術を行う中層の強敵だ。
「させません!」
ティナは杖を振り上げ、詠唱を省略した中規模魔法を発動。
《アイス・ストーム》
氷の礫が暴風により銀色の狼たちが吹き飛ばされ、石床に叩きつけられる。
「おお、流石だな。範囲魔法の扱い、随分磨いたじゃないか」
ディランが素直に称賛する。ティナはその言葉に、小さく笑みを浮かべた。
(そうだ。私だって、私のやり方で頑張ってきた)
「範囲攻撃は、任せてください!」
胸を張ってそう言ったティナに、セリスもにっこりと笑い返した。
「頼もしいです、ティナさん。私ももっと頑張りますね」
二人の少女に囲まれながら、ディランは首にかかった“魔法の首輪”を少しだけ意識する。自分が世話をした少女達の活躍に誇らしい気持ちを感じた。