おっさん冒険者、カーバンクルになる4-2
ルヴェルムのギルドロビーには緊迫した空気が流れていた。
冒険者たちのざわめき、壁のクエストボードに張り出された緊急依頼、そしてその文字列──
『討伐対象:グランドドラゴン』
それを見上げたまま、セリスがゆっくりと呟いた。
「師匠、私たちも参加しますか?」
その声に、カバンの口から顔を出していたディランの長い耳がぴくりと揺れる。
「そうだな。気持ちはわかるが……」
ディランの視線が依頼書からセリスに向けられる。
確かに、グランドドラゴンは恐ろしく強大な存在だ。討伐隊の一員として名を刻むことは、冒険者としての誇りにもつながる。
だが──理想と現実は違った。
「たしかにディランさんの言う通り、今の私たちでは……戦力が不足してますね」
隣でティナが言葉を継いだ。
剣士であるセリス、魔術師であるティナ、ポーターのフィサリス、そしてカーバンクル──ディラン。
「わたしがポーターじゃなかったら……もっと戦えるのに……」
しゅん、と肩を落とすフィサリスの尻尾が垂れ下がる。
ポーターとして、戦闘のサポートとしても十分活躍しているフィサリスだが、彼女なりの葛藤があるのだろう。
「それを言ったら、俺なんてカーバンクルだぞ。頭数にすら入らない」
ディランがひょこっと飛び出して、フィサリスの頭の上にぴょこんと着地した。
その柔らかそうな毛並みがフィサリスの頬にふわりとかすめる。
「確かに俺達のパーティーだと力不足だ。……けどな、参加しないとは言ってない」
「え?」
三人の視線が一斉にディランに向く。
「直接参加しなくても、方法はある。情報を集めて、地図を調べて、迷宮の構造を分析する。討伐隊のために下準備を整える手もあるんだ」
ディランが肉球のついた手で指す先には『キャンプ設営』の
依頼が貼られていた。
「なるほど……支援任務ということですね」
ティナが軽く頷く。
「それなら、わたしも活躍できる……かも」
フィサリスが顔を上げる。その目に、少しだけ光が戻っていた。
「うん。今の私たちにできることを、ちゃんとやるべきです」
セリスがきっぱりと言い切る。
「無理に戦場に出るより、勝てる布石を打つ方がずっと意味がある。だから俺たちは、俺たちのやり方でグランドドラゴンと向き合う」
「──了解です、師匠!」
「ディランさん、私も頑張ります!」
「任せて。いっぱい調べて、いっぱい役に立つ」
それぞれが頷き、足元をしっかりと踏みしめた。
討伐隊に名を連ねるのは別のパーティーかもしれない。
だが、その陰で“確かな支援”を行う者たちがいる。
そして、それが今回の自分達の役目だとディランは考えていた。