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おっさん冒険者、カーバンクルになる4-1

 灰の迷宮深層まで到達した一行は、束の間の休息に街へ戻っていた。


 その日の午後、陽射しがまだやわらかい時間帯。ディランたちは街の武具通りをのんびり歩いていた。


 ティナがふと隣を見て、小さく笑う。


「……ふふっ、ディランさん、しっぽがふわふわしてます」


「む……触るな。今は真剣な話をしている」


 ティナにふわりと撫でられた尻尾を、ディラン(カーバンクル)がきゅっとたたむ。耳もほんのり赤く色づいているように見えるのは、気のせいではない。


「セリス、まだその剣を使ってるんだな」


 ディランがフィサリスの肩に乗ったまま、セリスが背負っている剣に目をやる。


 セリスは少しだけ頬を染め、はにかんだように答えた。


「はい。師匠にいただいた剣ですし……手になじむんです。使ってると、なんだか落ち着くというか」


 その言葉に、ディランの耳がわずかに揺れる。


「ふっ、なるほどな。……ただ、そろそろ限界じゃないか?」


 セリスは剣をちらと見下ろし、少しだけ目を細める。


「そう……かもしれません。でも、使えなくなったら買い替えようと思っていたのですか、頑丈で良い剣なので……」


「そういうのは嫌いじゃないが、剣は命を預ける物だ良いものを持っておいて損はない」


 確かに、ディランも当時は初心者こそ良い武具を使うべきだと、それなりのモノを渡していた。


「そう、ですね」 


 そうと決まれば善は急げと一行は武具屋に立ち寄る事にした。

 訪れたのはあまり客入りの良くない武器屋。こう言う所が穴場なのだと、フィサリスが推すのでこの店に決めた。

 扉をくぐると、からんと小さなベルが鳴る。


「うわぁ……剣、たくさん……!」


 フィサリスが小さく目を輝かせる。小柄な見た目と相まってまるでお菓子屋に来た子供のようだった。


 その後ろでは、セリスが剣をひとつずつ丁寧に見ては、軽く構えて感触を確かめている。


(悪くない……けど、やっぱりあの剣ほどしっくり来ない……)


 そんなとき。


「ん? そっちのお姉さん、聖剣の使い手さんでしょ?」


 店の奥から、元気な少女の声が響いた。


 現れたのは、つなぎ姿に赤いスカーフを巻いた少女。頬には煤がついているが、瞳は赤くガラスのように澄んでいた。


「え、あ……はい!」


 セリスが少し驚きながら返事をする。


「だったら! よかったら、あたしが打った剣を試してみてほしいんだ! ずっといい使い手が現れないかって待っててさ!」


 少女は照れくさそうに笑いながら、棚の下から数本の剣を両腕で抱き上げる。


「こ、これ……わたしが頑張って、いっぱい考えて、打った剣で……聖剣の魔力にちゃんと反応するように作ったんだ」


 言葉を重ねるごとに、少しずつ頬を赤らめていく姿がどこか小動物のようで、ティナが思わず「かわいい……」と漏らしていた。


---

「師匠はどれが良いと思いますか?」


 セリスが小声でディランにたずねる。


(そうだな……)


 ディランは並べられた剣を吟味する。

 どれも端正に造られていて良いモノだとわかる。


(これとか、良いんじゃないだろうか)


 ディランが一振りの剣を指す。


「この剣、ですか?」


 セリスがその剣を握ると──手にすうっと、魔力が馴染む。

 魔力を良く通す銀の装飾が細身で片刃の刀身に刻まれており、聖剣の媒介に使う事に適していた。


「……すごい。力が、すごく自然に集まってくる……!」


 空気中の魔力を集めるアダマンタイトが素材に使われているのかセリスが柄を握るだけで魔力を感じる事ができた。


「本当!? よかった……!」


 少女鍛冶師がぱぁっと笑顔を咲かせた。


 その姿に、ディランが小さく耳を揺らす。


「……気に入ったなら買った方が良い。古い剣を大事に使う事も良いが実力に合わせた武具を使うのも重要だ」


 ディランが小声でセリスに言う。


 セリスがぱっと表情を明るくし、両手でその剣を抱きしめる。


「師匠の選んでくれた剣、大切に使いますね」


 微笑むセリスの頬は、ふんわり桜のように色づいていた。


---


 帰り道、カバンの中で尻尾を揺らしているディランに、少女職人がそっと手を振って見送る。


「がんばってね、みんな! また来てねっ!」


「にゃっ……」


 ディランが不意に小さく鳴いた。


 それを聞いた少女がぱちくりと目を瞬かせたあと──思わず、にこぉっと笑う。


「えへへ、かわい~……!」


 セリス、ティナ、そしてフィサリスも思わず微笑みを浮かべながら、ゆっくりと歩き出す。


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