おっさん冒険者、カーバンクルになる3-3
ティナのアイスストームがスキルゲイナーを包むように降り注ぐ。何度目かの魔法攻撃――効果がないとわかっていても、ディランの指示通り、動きを封じるための牽制だ。
「かまわない、そのまま釘付けにしろ!」
回り込みながらディランが叫ぶ。
「はい!」
ティナが躊躇なく次の魔法を詠唱し、連続して魔力を放つ。スキルゲイナーは防御の構えを解かず、巨大な盾でそれらを受け止めていた。
その隙に、フィサリスが地を蹴る。素早く、静かに、鎧の隙間へ潜り込むように接近する。
――獣のような気配遮断、荷運びの任務で培った最小限の動作。
彼女の手には、ディランから預かった小さな短剣。刃の根元には、細く巻き付けられたワイヤーが固定されている。
「ん、もらう」
フィサリスの跳躍。狙いは――スキルゲイナーの脇腹、鎧の可動部。
しかし。
「……っ!」
直前、スキルゲイナーが人間ではあり得ない身体を捻った。スキルゲイナーは鎧により人の形をしてはいるが、鎧の中身は軟体動物のそれに近い。
フィサリスの短剣はわずかに逸れ、音を立てて鎧の外殻に弾かれた。
弾かれた短剣が空中に舞う。
「任せろ!」
ディランが即座に跳躍。フィサリスの肩を踏み台にして舞い上がり、宙に浮かぶ短剣を咥え、そのままスキルゲイナーの背へと着地。
――項、胴と頭の繋ぎ目であり、装甲が薄くなる部位。
「裏切ったとはいえ、一度は仲間だった……。せめて、楽に逝かせてやる」
短剣を――突き立てた。
金属の擦れる音。刃が深々と鎧の合わせ目に沈む。
「フィサリス!」
「ん!」
ディランを抱えるように、彼女が跳躍。そしてすぐさまセリスの背後へ滑り込む。
セリスは聖剣を構える姿勢のまま、魔力を転じて盾を形成。その後方で、フィサリスが爆薬の導火線に火をつけた。
「喰らえ、爆導索」
火花が走り、鎧の背に括り付けられた爆薬が、絡み付いたワイヤーと共にスキルゲイナーの背面に広がっていく。
――次の瞬間。
轟音。
短剣に仕込まれた爆薬が鎧の内部を破壊し、重厚な装甲を内側から押し広げるように爆ぜた。
爆風と爆煙がダンジョンの空気を巻き込み、視界を覆う。
全員が低姿勢になり、盾の裏で息を潜める。
「大丈夫ですか!?」
ティナの声。
「ああ、問題ない」
ディランが息を整えながら立ち上がる。
「……ん、大丈夫」
フィサリスも頷く。
煙の中に、崩れ落ちた鎧の残骸が見えた。
セリスがそっと、剣を下ろす。
「これで、帰れますね」
ティナが言った。
ディランは、仲間たちをゆっくりと見渡す。
「そうだな。帰ろう。……ここでの目的は果たした」
「はい師匠」
「了解」
「そうですねディランさん」
こうして、深層での戦闘は幕を閉じた。