表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/22

おっさん冒険者、カーバンクルになる1-1


 俺の名前はディラン。

 スキルなし、魔法なし、剣も平凡。戦闘で目立つようなことは、何一つできない。


 だが、ダンジョンでの地図作成、罠解除、古代語の読解、魔物の生態把握――そういう「地味な仕事」なら任せろと胸を張れる。

 この道二十年。冒険者として、若者たちの支えになって生きてきた。


 そう、そのはずだった。


 


 * * *


 


「おっさん、こっちの道……罠があるって言ってませんでしたっけ?」


 先頭を歩くカイラが、振り返って文句を言ってきた。険のある声だ。


「罠はある。けど、それを外れたルートで通れば安全だ。確認したか?」


「してないけど……」


「じゃあ黙ってついてこい」


 俺は壁に張りつけた紙の地図に目を走らせながら、深層第九層への階段を下りていた。


 リーダーのロイドと、斧使いのジグも無言だったが、雰囲気はずっと重いままだ。


 嫌な予感が、ずっと胸を締めつけていた。


 


 * * *


 


 そして、それは現実になった。


「……ここまででいい」


 後方から聞こえたロイドの低い声。振り返った瞬間――


 ズバッ


 背中に、鋭い痛みが走った。


 熱と冷たさが一度に押し寄せ、視界がぶれた。


「……がッ……!?」


 振り向けば、血に染まったロイドの剣があった。


 信じられず、言葉が出なかった。

 カイラとジグは、目を逸らしていた。


「すまねえなぁ、ディラン。俺たちは、この先を生きて越えたいんだ」


「……な、ぜ……」


「お前が足手まといだからさ。カエラは魔力を無効化スキル「聖女の盾」、ジグには「怪力」、俺には「炎刃」がある。だが、お前になんのスキルがあるんだ? おっさん」


 そう言って、ロイドは俺のポーチを引ったくり、回復薬と食料を奪い取った。

 足元がふらついて、膝をつく。体が、どんどん冷えていく。


「物資も全部もらってくぜ。……お疲れさん、おっさん」


 最後に、そう呟いてロイドたちは背を向けた。

 誰も振り返らず、誰も名を呼ばず、ただ無言で階段を下っていった。


 


 * * *


 


 暗闇の中、魔物の唸り声が近づいてくる。

 もはや立ち上がることもできず、剣も握れない。


 ああ……俺の人生、こんな形で終わるのか。


 誰にも知られず、誰にも感謝されず、ただ“使い捨て”として――


 


 * * *


 


「ディランさん。お疲れさまでした」


 次に目を開けたとき、そこには光に包まれた神域が広がっていた。


 目の前には、白銀の衣をまとった女性――女神ノアが微笑んでいた。


『あなたは長いあいだ、誰かのために歩んできました。けして華やかではない、でも確かな足取りで』


「……俺が? 俺なんか……」


『けして報われなかった人生かもしれません。だからこそ、あなたに、もう一度歩む権利を』


「生き返るのか……?」


『いえ、形は変わります。ですが、魂はあなたのままです』


 その言葉を最後に、意識が深く沈んでいく。


 


 * * *


 


「ぴゃっ……!?」


 目を覚ました俺は、自分の姿に唖然とした。


 手足は短く、体毛は柔らかく、額には宝石が輝く。


 水たまりに映ったのは――ふわふわの魔獣、カーバンクルだった。


「マジかよ……これ、俺……?」


 喋ればちゃんと声が出る。記憶も残ってる。

 だけど、もう人間には戻れないらしい。


「もういいさ……誰にも使い捨てにされない場所で、のんびり暮らそう」


 俺はちぎれそうな心を抱えながら、ダンジョンの出口へ向かって歩き出した。


 


 * * *


 


 数日後。浅層に差しかかる通路で、俺は出会った。


 剣を携えた、銀髪の少女――セリス。


 その顔を見て、俺の心は跳ねた。


(あいつ……あの子は……)


 かつて、初心者の頃に数日だけ俺のパーティーにいた、あの少女。


 彼女は俺の姿を見て、一瞬驚き、そして――


「……カーバンクル? でも、そんな瞳……もしかして、師匠……ですか?」


 俺は、静かに頷いた。


「おう。喋るカーバンクル、ってやつだ。正体は、ディランだ」


「……やっぱり、師匠……!」


 セリスの瞳が潤む。


「たとえお姿が変わっても、私にとって、師匠は師匠です!」


「お、おい……いきなり何を……」


「私、今は一人で冒険しています。でも、もしよろしければ――私と一緒に、ここから脱出していただけませんか?」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ