突然の訪問は招かれざる客
秘密の場所から馬車で帰るとエルディアス家の屋敷の前に一台の馬車が止まっていた。
「客人か…?いや…今日はどの予定もなかったはずだが…」
そう呟くレオン様の顔は嫌そうだった。
それもそのはず。
約束もしていないのにも関わらず、突然訪問してくるなど失礼極まりなく、先約があれば嫌だろう。
そんな失礼をする人とは一体誰なのかしら…。
馬車が止まり、またレオン様が手を差し出してくれる。
「足元には気をつけてくれ。」
「ありがとうございます。」
手を握り屋敷の中へ入っていくと、目に入ったのは突然訪れたであろう客人の姿だった。
だけど…私は一人の女性の後ろ姿に見覚えがあった。
(あれは……!でも…どうしてここに……。)
レオン様と握った手に力が入る。
そんなとき、その女性が振り返った。
「あら?ユリアさん〜。お久しぶりですね。」
やっぱり…
「アリスさん。お久しぶりですね。」
疑問でしかなかった。
どうしてアリスがここに…。
「レオン王子、お久しぶりです。アルガド・ヨバンナです…。ああ…そちらの女性が婚約者の…確か…ユリア・フレインだったか。」
アルガド公爵…
アリスのお父様…。
「一体、何の用だ。」
「実はですね…。娘があなたと婚約したいと。」
(どういうこと…。アリスにはリュークが…。)
「その話は断ったはずだ。それに俺には婚約者がいる。帰れ。」
そう言うレオン様の目は冷たく怒りを露わにしていた。
「まあ、そう仰らずに…。レオン王子。よろしいのですか?そのご令嬢が婚約者で…。」
「どういう意味だ。」
「そのままですよ。」
不気味な笑みを浮かべながら話すアルガド公爵。
「彼女を侮辱するということは我がエルディアス家を侮辱するということだ。」
レオン様の言葉には重みがあった。
この身体が動けなくなるほど固まる感じ…
それは、この屋敷に来てレオン様に会ったときみたいだった。
「まさか。そんなつもりは1ミリもございません。ただ…。そこのご令嬢は大した公爵家の出ではありませんし、夜会の場で皆の前で婚約破棄されるという恥をかいたご令嬢ですよ…。そんな令嬢と婚約する方がおかしい。それこそ、エルディアス家に対する侮辱だ…」
婚約破棄…
そうなったのはあなたの娘であるアリスの存在じゃない…。
「レオン王子。我がヨバンナ家の長女アリスは成績優秀で全てが完璧です。それにヨバンナ家はヴァルグア王国の最大出資をしています…。フェルナリア王国には必要でしょう。」
だから自分の娘と婚約しろっていうことね…。
「レオン様…。私、レオン様がずっと頭から離れないのです…。私の想いを受け取っていただけませんか…?それに、まだユリア様はリューク王子を愛しているはずですわ…。たった数日でレオン様を愛するなどあり得ないのですから…それに比べて、私はずっとレオン様を想っておりました…。いけませんか?」
アリスの嫌なところが出たわ…
男性の前では甘い声で話すところ…。
だけど、私は怖くなった。
もしかすると、レオン様もリュークと同じようにアリスを選ぶんじゃないかって。
確かに彼女の言う通り、たった数日で新たな婚約者であるレオン様を愛するなどあり得ないと思われるのは当たり前だ。私だってそう思うもの…でも、私はそのたった数日で彼を少しずつ愛しているの。でもそれは、この出会いが初めてだったからじゃない。
十三年前の出会いが忘れていても心の奥底に残っていたからだ。私の初恋は確かに、あの時助けてくれた男の子。そう、レオン様だから…。
私はレオン様に握られた手に無意識に力を入れていたらしい。レオン様の指が私に絡められ親指で撫でられた。そこで私は初めて力が入っていることに気づいた。
これは、安心しろというレオン様の合図なのかもしれない。
「レオン王子。悪い話ではないでしょう。」
「ユリア。君はどう思う?」
意地悪そうに聞いてくるレオン様。
彼の目を見つめれば私の姿が映る。
(この瞳に映るのは私だけがいい…)
あれ…どうして今こんな感情が…。
自分の心に浮かび上がった黒い感情に驚いた。
だけど、今はそんなことを考えている時間じゃない。ちゃんと言いたいことは言わなければ…。
失礼がない程度にね。
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