日々少しずつ愛しています。
「ユリア、そろそろ行こうか。」
「そうですね…!」
私は差し出されたレオン様の手を取り馬車に乗った。使用人たちもいない本当に私たち二人だけのデート。デートなんてリュークとはしたことなかったなぁ……
「どうした?」
「いえ、ただデートをするのは初めてで…。」
そう言うとレオン様は嬉しそうに笑った。
「レオン様?どうして嬉しそうにしているのですか…?」
「ユリアの初めてが俺なのが嬉しいんだよ。それに、他にもたくさん初めてがあるなら、これからはその初めてが全部俺だけのもの。嬉しくないわけがないだろう。」
「……。レオン様の初めてもあるのでしょうか…。」
正直、レオン様は“悪魔”だと言われているけど、顔はどの王子よりも整っている。“悪魔”と言われているとはいえ、彼ほどの美男にアプローチしない令嬢などいないはず。
「…ユリアと同じだ。俺はデートなどしたことがない。」
「え!?嘘……」
「当たり前だろう。俺は“悪魔”と呼ばれているんだ。近づく令嬢などいない。それに今まで、一度だけ縁談の話はきたが、すぐに断った。直接やって来てお父様もお母様も断っている無理矢理突きつけてきた縁談だ。」
(縁談…やっぱりあったのね…。でも、国王陛下や王妃様、レオン様がいる前で無理矢理縁談を突きつけた方って…どんな方なのかしら……。)
「ユリア、安心しろ。俺は君をずっと想っているんだ。君以外の女性を愛すことなどあり得ない。君以外の縁談なんて受けるわけないじゃないか。」
「ふふっ…!そんな風に言われると少し恥ずかしくなります…。でも、嬉しいです…。」
心の温もりを感じながら私は馬車の窓から見える外の景色を眺めた。
「ところで、どこへ向かっているのですか?」
「君に見せたい場所がある。ついてのお楽しみだ。」
私に見せたい場所…
どんな場所だろう…
揺れ動いていた馬車が止まり、目的地へ着いたことが知らされた。
「ユリア、足元には気をつけて。」
「ありがとうございます、レオン様…!」
私は差し出されたレオン様の手を握り馬車から降りた。少し歩いて行った先に目に入ったのは広大な庭園と湖だった。湖の水面は綺麗な青で太陽に照らされまるで宝石のように輝いていた。庭園には一面に咲いた数々の花。色とりどりで花の香りが漂っていた。
(絵に描いたように綺麗なところね…)
「レオン様、ここは一体……」
「ここは誰にも教えたことのない秘密の場所だ。」
こんなに素敵な場所を誰も知らないだなんて…
勿体無い気もする。
「ユリア、君をここに連れて来たかったんだ。」
「私をですか?」
「ああ。思い出したと言っていただろ?俺たちが初めて会った場所。どこだった?」
「あれは…式典が行われた会場の裏庭にある花壇…」
「あのとき、ユリアは泣いていたが花壇の前にいるユリアは花よりも可愛かった。だから、今度は沢山の花に囲まれている君を見たくて。」
こんなに素敵な花が咲いてる場所があるなんて……
「レオン様、私…特に好きなものはないんです。でも、花だけはずっと好きなんです。だから、すごく嬉しいです…!ありがとうございます、こんなにも素敵な場所に連れて来てくださって!」
そう伝えればレオン様は視線を逸らす。
「どうかしましたか?」
「いや…なんでも…。」
「嘘はダメですよ…。約束したじゃないですか…!」
私がレオン様を無理矢理こちらへ振り向かせると赤くなっている頬。
「…ユリア、悪い…」
「え、何が…」
───チュ
(待って…今…キスしたの……?)
「〜〜っ!」
「初めてか…?」
そう聞いてくるレオン様。
「あ、当たり前です…!」
あっ…当たり前って変だよね…
自分で言ったことに落ち込んだ。
やっぱり…おかしいよね…
婚約者がいたのにキスもしたことがない。
それだけじゃない手も繋いだことも、抱きしめられたこともない。改めて思えば、最初からリュークには愛がなかった。リュークこそ、ただの政略結婚だ…。
「俺も初めてだ。ユリア、今元婚約者のことを思い出しているだろ?」
…この人には全てお見通しなんだ…
「レオン様には何も隠せないですね。今やっと気づいたんです…。リューク王子との婚約こそ本当に政略結婚だったんだって。キスだけじゃなく手を繋ぐことも抱きしめられることもなかった。全部全部、レオン様が初めて……。だから本気になった私はバカだったんだって…」
「ユリア…」
「こんな風に今更気づいて傷つくぐらいなら、初めからレオン様を愛したかった…。私もレオン様のことを忘れずに覚えていたら、こんなにも…惨めな思いをしなくて済んだのに…。」
泣きたくないのに…
それなのに涙が溢れそうになる。
そんな私を包み込むように優しく抱きしめられる。
鼻から香るレオン様の匂い。
落ち着く香りが私を安心させる。
「ユリア…今でもあの男が好きか…?」
「そんなわけ、、」
「なら!俺を見ろ。何も思い出すな。頭の中も心の中も全部俺だけにすればいい。今、俺に対する気持ちはどれくらいあるんだ…?」
強く抱きしめるその腕からは震えを感じた。
多分、この人は私が一つも愛していないと感じてしまっているんじゃないか。
「…レオン様。どうやら、勘違いしているようですね。」
首を傾げ私を見るレオン様。
「私は、今もあなたに胸が高鳴っていますよ…。」
「え?」
私はレオン様から離れ湖の方へ体を向けては顔だけをレオン様に向けるように振り返った。
「本当ですよ。」
「嘘じゃないのか…」
「嘘などつきません。でも、リューク王子殿下を思い出してしまったのは確かです。悪い意味でですけどね…。」
そんな私の隣に来てレオン様は優しく頭を撫でる。
「もう、思い出すなよ。」
そう言ってイタズラに笑うレオン様に高鳴る心。
私は静かに頷いた。
「レオン様しか今は見えませんから…。」
「もっと言ってくれ。」
「ふふっ、欲張りなんですね。」
「愛する妻に欲張ってしまうのは当たり前だろう。」
そういうものなのかな…?
まあ、いいや。
でも…
「私はまだ、レオン様と同じくらい気持ちが大きいかと聞かれれば正直、まだ足りません。でも、私はあなたを愛していきます。これから先、あなたと二人でいたいから…」
私が笑うとレオン様も一緒に笑う。
湖の水面に映る私たち二人の姿は多分、どの景色よりも綺麗だと思う。
「ユリアが俺と同じくらい愛してくれる日がくるのが楽しみだ。まあ、その頃には俺の気持ちがもっと先に行ってるだろうが…」
「なら、すぐに追いつかなければなりませんね!」
「楽しみにしてる。」
またこの胸の高鳴り…
この高鳴りが私の想いの大きさを表現しているんだと改めて感じた。
「ユリア、愛してる。」
「私も、日々少しずつ愛しています。」
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