心の底からあなたを愛する。
レオン様と共に部屋を出て朝食をとる。
緊張感漂う中、私はジェリス国王陛下、エリー王妃様、レオン様と共に朝食をとった。
ジェリス国王陛下もエリー王妃様も優しく私を迎え入れてくださり、私は快く歓迎してくださったこと、そしてアンナをメイドとして雇ってくださったことに感謝をした。
「ユリアさん。いいのよ、そんなに感謝しなくても…!これからは家族なのだから。ね?ジェリス?」
「ああ…!君はこれからはエルディアス家の大事な家族同然だ。ユリアさん、レオンを頼むよ。」
「はい…!」
私はエルディアス家の人間であり、レオン様の婚約者。その自覚を常に持っていなければ…
私は心にしっかり刻み込んだ。
(……あの二人…私を睨んでる…?)
エリー王妃様の後ろに二人のメイドがいた。
もちろん名前は知らない。
私がヴァルグア王国の令嬢だから睨まれているのか。それとも…レオン様と婚約するから睨まれているのか。多分、後者の方が正しいはず。
二人のメイドも若く見える。
私とあまり変わらないはず……
多分…その視線にレオン様は気づいていないだろう…
そう思っていたのに……
「お母様。少し失礼致します。」
「ええ、構わないけど…どうしたの?」
そう言ってレオン様はエリー王妃様の後ろにいた私を睨む二人のメイドの方へ向かう。二人のメイドは自分たちのところにレオン様が近づいてくることに気づいたのか私への敵視するような目線をやめた。
「おい。」
聞いたことのないほど低く、怒りに満ちたようなレオン様の声。その声の先にいたのはやはりそのメイド二人。
「「な、なんでしょうか…?」」
二人は動揺し瞳が揺れていた。
「お前たち…今、ユリアを睨んでいたな。どういうつもりだ。」
「…そんなことは決してありません。」
「レオン様、誤解です。レオン様の婚約者であるユリア様に私共がそのようなこと…」
あくまで自分は睨んでいないと言う二人。
そしてついには王妃様が口を開いた。
「あなたたち。嘘をついていたら分かっているでしょうね…。この屋敷から即刻に出ていってもらうわ。レオン。それでいいかしら?」
「はい。お母様。」
驚いた…
だって、エリー王妃様はいつも微笑んでいて怒る姿など想像もできないような方。むしろ、怒ることがあるのかと思っていたほどだった。だけど、今…怒ったわ…優しいエリー王妃様が眉間に皺を寄せ怒っているなんて…
(多分…一番怒らせてはいけない気がする…)
「お前たち、嘘はついていないのだな。」
「「はい…!」」
それを聞いてクルッとレオン様は体の向きを変え、私の方へ向かってくる。
「ユリア、正直に言ってくれ。あの二人のメイドは君を睨んでいたか…?」
こんなとき…どう答えるのが正解なの…?
はいと答えるべきなのか、それとも嘘を言うべきなのか。私は悩みに悩んだ。だけど、その考えはレオン様にもエリー王妃様にもバレていたらしい。
「ユリア。昨日お互いに約束したはずだ。嘘はついてはいけないと。」
「ユリアさん…。私のことを考えて嘘を言おうとしているのならその必要はないわ…!彼女たち二人のことはよく知っているから。」
嘘…
嘘はつけばつくほど罪悪感に変わる。
そして、嘘はいつかバレ、裏切りとなる。
果たしてそれは正しいのだろうか。
答えはいいえ。
嘘をついても良いことはない。
そして、その嘘は誰のためにもならないから。
「レオン様。先程…強い視線を感じておりました…。そしてその視線の方を見てみると、エリー王妃様のメイドのお二人が…。」
「教えてくれてありがとう、ユリア。」
「…はい。」
私は正直に話すことを決めた。
だって…それが私とレオン様の条件なのだから…。
「あなたたち二人はクビよ。今すぐ荷物を片付けて出て行きなさい!」
「エリー様、誤解です!」
「ユリア様、私たちは睨んでなどおりません…!」
そう必死に言う彼女たちにどうしても心が揺らいでしまう。勘違いだったかもしれない。私がヴァルグア王国で婚約破棄を宣言されたとき…あのときリューク様やアリス、招待されていた令嬢たちの視線が痛く刺さっていた。その時と同じだと感じたからそう思った。
だけど、ただそれだかで言ってよかったのか…。
私はまた深く悩んだ。
そんなときだった。
「あなたたち…演技はもういいわ。」
演技…?
どういうこと…?
「あなたたちがこの屋敷へ来たとき、身辺調査などをしたわ。そこで知ったのよ。あなたたちがレオン目当てでこの屋敷へやって来たことを。」
王妃様の言葉に焦りを見せる二人のメイド。
「レオンに危害を加えていないから置いておいたけど……。レオンの妻になるユリアさんに危害を加えようと企んでいるようね。私にはあなたたち二人など必要ない。」
その言葉に絶望するような表情を見せる二人。
「レオンがあなたたちを相手にするわけがないでしょう。昔からユリアさん一筋なのだから。」
「……!!」
エリー王妃様の言葉に驚いた。
(王妃様も知っていたの…?ということは…国王陛下も…?)
そう思い私はジェリス国王陛下の方を見ると私に気づき、何度も何度も首を縦に振り頷いていた。
多分、これが答えだと思う。
想像もしていなかった。
レオン様の十三年間の想いを国王陛下も王妃様も知っていただなんて。
「レオン、あとはあなたに任せるわ。」
「はい、お母様。」
レオン様がメイドの二人と話している間、エリー王妃様と私は話をした。
「ユリアさん。レオンはずっとあなたを想っていたの。婚約破棄されたばかりだからすぐにとは言わないわ。だけど、いつかあの子を心の底から愛してあげて。」
心の底からレオン様を愛す…
今の私はまだ彼を知っていく最中…。
まだまだそれには程遠いかも知れない。
だけど、彼の妻になる以上、彼を愛するのは当たり前のこと。
「はい、もちろんです。」
私の言葉に優しく微笑むエリー王妃様。
(ああ…これが私の知るエリー王妃様だ…)
「だけど、レオンに嫌なことをされたら私に必ず言うのよ…?私が守ってあげるから。」
心強い王妃様は眩しかった。
そんな姿にある言葉を思い出してしまった。
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あいつは公爵令嬢ではあるが、俺の妻になり、将来の王妃になる器ではない
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バカだな…私。
どうしてこんな時にそんな言葉を思い出したんだろう。
「どうかしたの?」
「あ、いえ…少し思い出してしまった言葉がありまして…」
「何?気になるわ…」
「で、でも…」
「いいの。何でも言ってちょうだい。」
エリー王妃様の優しさに包まれている感じがした。だから私はそのまま、リューク様に言われた言葉を話した。すると、エリー王妃様は酷くお怒りだった。
「その王子には全く興味はないけど…腹が立つわ…。ねえ、あなた。」
「え?」
後ろを振り向けばまだ国王陛下もいたみたい。
もう部屋に戻られたと思っていたのに…
そして、私の腰に巻きつく腕。
私の背後を見ればレオン様が私を後ろから抱きしめていた。
周りを見ればいつのまにかメイドの二人はいなくなっていた。
「あら、レオン。あの二人は出ていったかしら?」
「はい。さっき走って出て行きましたよ。」
「ありがとう。」
そんなことより……
と言って私を抱きしめる腕に力が込められる。
「ユリア。他に何を言われた。何をされた。全て話せ。」
「レオン様、私は大丈夫です。もう、リューク王子殿下の婚約者ではないのですから…。」
私がそう言うと王妃様とレオン様は揃って良くないと言っていた。国王陛下も…
「ユリアさん。話してくれないか?今後のヴァルグア王国との付き合い方に関わりそうだ。」
と言っている。
正直、昔はフェルナリア王国よりもヴァルグア王国の方が何もかもを兼ね備えていた。お金も土地も全て…だから昔の友好を結ぶ条件も全てヴァルグア王国が決めたもの。
だけど、今はむしろその逆。
ヴァルグア王国よりもフェルナリア王国はお金や土地だけでなく、他国との取引も成功していた。
だからこそ、国王陛下は今後のヴァルグア王国との付き合い方に関わると言ったんだと思う。
ヴァルグア王国は私の故郷であり、お父様もお母様もいる。だから、本当は何も言いたくない…
だけど、私は昨日、レオン様と嘘をついてはいけないと条件を提示してしまったから…
嘘はつけない…
私は心底昨日の自分を恨んだ。
(でも…ちょっと待って……)
私が婚約破棄を宣言され、レオン様との婚約を告げられた時、その時はレオン様のことを“悪魔”だと勘違いしていたせいでお父様とお母様に助けを求める目線を送った。だけど…お父様とお母様に私は無視されたわ…
それも、フレイン家としての世間体や名誉を守るために…。
私はそんな人たちを庇う必要なんてあるのかしら…。
「ユリア…。泣くほど辛かったのか…?」
「、、、っ」
自分でも気がつかなかった。
(私…泣いてる……)
ああ、そうだ…
私、辛かったんだ…悔しかったんだ…悲しかったんだ…
突然婚約破棄され、その瞬間に婚約者の新しい婚約者を紹介され、彼に言われた言葉も、アリスにいろいろ喋ってしまった後悔も、お父様たちの無視も…
全部全部、苦しかったんだ…。
「泣かないで、ユリア…。」
私の涙をレオン様が優しく指で拭う。
こんなにも苦しいんだ…
婚約破棄されてからずっと苦しかったんだ…
いや…その前からかも…
だって、リューク様とアリスがよく会っているのは知っていたし、リューク様からよくアリスの名前が出ては私と比べていたから…
「アリスは何もかも完璧だ…それなのにお前は…ふっ。」
私とアリスを比べては鼻で笑う。
そんなの当たり前になっていたから。
だけどそれを隠していた。
彼に相応しい婚約者になりたかったから。
そうすれば、彼がもう一度…
もう一度、私を見てくれると信じていたから。
だけど、その日は二度とくることはなかった。
その日が来ることなく婚約破棄。
涙が出るのは、レオン様だけでなく、エリー王妃様やジェリス国王陛下の優しさに今包まれているからだと思う。
「私は…ずっと、リューク王子殿下を心の底からお慕いし、愛しておりました。」
そして私は婚約破棄された夜会でのこと、婚約破棄をされる前からリューク様とアリスがよく会っていたこと、リュークからアリスの名前が出るようになったこと。全て包み隠さず話した。ただ、アリスの名前を隠してだけど。
全て話してスッキリしたのか私は涙がいつのまにか止まっていた。
王妃様、国王陛下、レオン様は一体どう思うのだろうか…
「ユリア。俺がその記憶を全て消すほど君を愛し、幸せにすると誓う。だから、早く忘れろ…。そして、幸せになろう…。二人で。」
「レオン様…。」
二人で幸せになる…
私が提示した五つ目の条件だわ…
「ユリアさん。よく頑張ったわね…偉いわ。あなたは本当に偉い。ありがとう、レオンの元に来てくれて…。そして私も誓うわ。あなたをそんな風に苦しめたりせず、必ず助け、あなたの味方でいることを…」
「エリー王妃様…」
「ユリアさん。君のおかげでヴァルグア王国との関係を見直すきっかけができた。元々、あの国との関係を見直そうと思っていたからいい機会だ。俺も誓おう。この国の国王陛下として。君はもうフェルナリア王国の大事な国民だ。大事な国民は国が守る。だから、安心しなさい。」
「ジェリス国王陛下…」
心が温かく感じたのが分かった。
エルディアス家の方たちはみんな優しい…
「ありがとうございます…!私も誓います。レオン様の妻として相応しい人間になることを…。」
私がそう言うと国王陛下も王妃様も嬉しそうに笑っていた。
「私たちはそろそろ戻るわね。それと…ユリアさん。あのやめたメイドたちのことは本当に申し訳ないと思っているわ…。ごめんなさいね。」
「エリー王妃様、頭をお上げください…!私は大丈夫ですので…!それよりも、エリー王妃様のメイドさんが…」
私がそう言うと王妃様は大丈夫だと言った。
「悪いのだけど、セレンを私のメイドに戻しても構わないかしら…?あの子すごく優秀な子なの…あなたのメイドのアンナさんもすごく優秀みたいだし…いいかしら?」
「はい、もちろんです…!」
「ふふっ!ありがとう…!」
そう言って立ち去った国王陛下と王妃様。
そしてセレンは私のところに来ては手を握り締め、私の目を見て話した。
「ユリア様…!何かあれば私に仰ってください…!私もユリア様の味方ですから…!」
澄んだように綺麗な目…
「ふふっ!ありがとう、セレン。アンナのことはビシバシ鍛えてあげてね…!」
「ちょっ、ユリア様…!!」
「はい!もちろんです!」
「「「ふふふふっ!!」」」
私たちは笑い合った。
別に一生離れるわけでもないのにね?
「ユリア。」
「レオン様…。」
私の手を握るレオン様の手は少し力が入っているようだった。
「必ず君を幸せにするよ。」
「私も、レオン様を必ず幸せにします。」
私たちはその場で契約ではなく、心からの誓いを結んだ気がした。
「ユリア、君のために仕立てたドレスを部屋に届けさせたんだが…今からの…その…デートでそれを来てくれないか…?」
デート…
そうだ…デートをする約束だった。
色んな話をしたことで忘れかけていた。
「私のために…ありがとうございます…!もちろんです!」
「俺はここで待っている。アンナ、頼んだぞ。」
「かしこまりました。行きましょう、ユリア様…!」
私はアンナと共に部屋に戻った。
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