正式な婚約
お父様から情報が入ってきたのはユリアが誘拐されてから二日経った頃だった。その日は朝食を取らずに朝から執務室でヴァルグア王国の地図を広げていた。
そんな時だった。扉がノックされたのは。
「レオン様、陛下からです!」
俺は急いで扉を開けた。やって来た騎士が封筒を俺に差し出した。震える手で封を破り、中から紙を取り出す。そこにはお父様の字ではっきりこう書かれていた。
「レイノルからの情報だ。ユリアさんの居場所はサトクリフ家ではなく、“ヨバンナ家”が秘密裏に作った地下牢にいる。詳細は王宮にて。今すぐに来い。」
ヨバンナ家…
(思った通り…お前か…アリス・ヨバンナ…。)
俺は封筒を握り潰すほど力強く握り、立ち上がる。
「クリストフ、スターレフ!すぐに支度をしろ。王宮へ向かう!」
「「はっ!」」
「レオン様。」
「アンナか。どうした。」
「私も連れていってください。」
「……。」
アンナはユリアのメイドだ…
助けに行きたい気持ちは十分分かる…
だが…
「それは出来ない…。」
「何故ですか…?」
「危険だ。」
拳を握りしめるアンナの姿。
「レオン様、私はユリア様のメイドです。主人を迎えるのが私の役目です。たとえ危険でどれほど茨の道でも私は、ユリア様を助けに行きます。ですからどうか…どうか…。私も一緒に連れていってください。」
そのアンナの姿は切実そのものだった。
そして、アンナが見せるユリアへの忠誠心の現れだった。俺は酷く悩んだ。彼女を連れていっても良いのか。もし彼女が傷ついてしまえば、ユリアはもっお傷ついてしまうはずだ。だが、アンナの目を見ればわかる。その目は真剣で、意思を曲げることは無いに等しいはずだ。仕方ない…
「アンナ、連れてはいくが条件がある。」
「何でしょうか。」
「クリストフとスターレフのそばから離れるな。」
「かしこまりました。」
「では、行くぞ。」
「はい…!」
馬を走らせ王宮へ向かい執務室に向かうと、そこにはすでにお父様であるジェリス国王陛下は軍務長官であるダリス長官と騎士団の団長であるアステル団長と共に集まっていた。俺とクリストフ、スターレフが部屋に入り、アンナには馬車の中で待ってもらった。執務室の中では説明が始まる。
地図の上にピンで刺された場所があった。
国王陛下はそこを指差しながら話し始めた。
「この地点がヨバンナ家の屋敷だ。その地下に外部からの通信を遮断する牢獄がある。近づくことが難しい牢獄だ。レイノルの報告によればユリアさんはそこに捕えられているらしい。」
「ユリアは無事なんでしょうか…」
「無事だそう…。食事も与えられているらしいが、あまり口にしていないそうだ。だが、それよりも重大な問題が出てきた。」
「重大な問題…?」
「ああ。三日後、ユリアさんとリューク王子の婚約をヴァルグア王国の王宮にて正式に発表する式典が開かれるそうだ。そしてその場でユリアさんがヴァルグア王国の正式な王太子妃として国際的に宣言される。」
(そんな…そうなってしまえば俺の正式な妻にはなれず、リューク王子の妻に…俺はもう何も手出し出来なくなる…。待ってくれ…三日後と言っていた…まさか…)
「国王陛下…三日後というのはまさか…」
「ああ。多分ユリアさんが誘拐されたから三日後だ。」
(ということは…明日の式典までには助け出さなければならない。それなら今すぐ動かなければ。)
「俺が行きます。今すぐ騎士団を率いてヨバンナ家へ向かいます。」
「待て、レオン!」
「陛下!」
「お前がヴァルグア王国へ向かうのは許可する。だが、これは国際問題に繋がる。もし、フェルナリア王国が軍を出し、動かしてしまえば戦争になってしまう。それはやってはいけないことだ。」
「なら、どうするのですか!ユリアを…ユリアを見捨てろというのですか…!」
「聞け!軍を出さずに解決する。そこで外交で解決する。」
「外交…?どういうことですか……。」
そのとき、執務室にお母様が入ってきた。
「お母様…。」
そしてお母様は静かに話し始めた。
「ヴァルグア王国との友好を結んだ際に決められた条件、その一つに“婚約破棄され国を出たその後、正当な婚約者としてフェルナリア王国の人間が選ばれたにも関わらず、本人の意に反して強制的に連れ戻された場合、それを国際的な人権侵害と認定し、救出作戦を許可する。これを使うのよ。」
「…!」
(確かにその条件なら……)
「つまり、お前がユリアさんと正式に婚約していればフェルナリア王国のユリアさん救出作戦は妥当と判断され認められる。」
(ということは、今俺がしなければならないことはただ一つ。)
「…お父様。ここでユリアとの婚約を正式に認めていただけますか…?」
俺の言葉にお父様は頷いた。
「既に準備はしている。公文書には王室の印も押された。お前がユリアさんと生涯を共にするという本当の覚悟があるのなら、今この場で宣言しろ。」
俺は片膝をつき自分の左胸に手を当てた。
「私、レオン・エルディアスは、ユリア・フレインを今この場で正式に婚約者とし、この命にかけて彼女を守ることをここに誓います。」
お父様は俺の肩に手を置き優しい笑みを浮かべた。
「レオン、よく言った。今すぐに行け。そして、騎士団の出動も命じる。」
「「はっ!」」
「レオン、油断はするなよ。」
「わかっております…。」
必ず…必ず…。
「行くぞ。俺の妻を迎えに。」
(ユリア…すぐに行く。待っていてくれ…。)
君を必ずこの手で奪い返す。
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