6話 魔王召喚をもっと知りたい。
6話 魔王召喚をもっと知りたい。
《雅暦1001年7月8日》
かなり平和な一日だった。
特になにが起こるということもなく、
オッサンはたんたんと仕事をこなし、
ボクと9番が、その手伝いや家事を行う。
オッサンは、ボクが『ちょっとしたミス』をするたび、
手癖のように、ボクをポコポコ殴ったけど、
あくまでも『注意』って感じでしかなく、
これまでのような『理不尽な暴力!』って感じではなかった。
9番は、なんだかんだ、小器用に、些細なミスもなく、全ての仕事を、無難にこなしていく。
この短期間で、大量にあるオッサンの『謎に細かいマイルール』をすべて把握してしまった頭脳には、素直に驚嘆する。
……こいつ、ナゾに顔がいいだけじゃなく、色々と高性能な気がする。
……なんか、腹立つ。
9番のせいで、ボクの『ちょっとした無能ぶり』が際立つ。
ナメやがって。
テキトーな理由をつけて、理不尽にぶんなぐってやろうか。
ボクをナメんじゃねぇぞ、クソガキが。
そっちがその気なら、
いつでも、やったんぞ。
★
「――穏やかな一日でしたね、先輩」
全ての業務が終わり、
就寝する前、
9番が、ボクにしがみつきながら、そう言ってきた。
「こんな日がずっと続けばいいですね」
「ボクはヤダよ。奴隷のままずっとなんて。いつかは平民に……できれば貴族になりたい」
「先輩がその気になれば、いつでもなれるんじゃないですか? だって……」
そこで言葉を濁す9番。
『外で気軽に口に出すべき内容ではない』と理解しているから。
やはり、こいつは非常に賢い。
とても6歳とは思えない有能ぶり。
やはり、ぶんなぐるしかないか……
「もう、寝ろ。明日は納品日で、朝から忙しいんだ。しっかり寝ていろ」
★
(――おーい、起きろ。2時間経ったぞ)
「ん……んん……」
アラームの呼びかけで、ボクは、目を覚ます。
今夜も魔王召喚の実験をしたいから、起こしてくれと頼んでおいたのだ。
(アラーム扱いするんじゃねぇよ。俺を誰だと思っていやがる)
「性格が悪い奇妙な幽霊だと思っている」
そう言いながら、ボクは、『いつものようにガッツリとしがみついている9番』を引っぺがして、立ち上がる。
こいつに抱き着かれていると、変な気分になってしまうから、やめてほしいんだが……
「さあ、モンジン。はりきって、パリピーニャを召喚してくれ」
(……は? 今日はマパネットを召喚して、性能を確かめると言っていなかったか?)
「……それは、まあ……明日でもいいかなぁって。きのうは、ほら、ボクのせいじゃないけど、パリピーニャの性能を、ボクのせいじゃないけど、まったく確かめられなかったから、ボクのせいじゃないけどね。だから、今夜はじっくり――」
(おいでませ、魔王召喚)
ボクの発言をテキトーに聞き流して、
モンジンは、サクっと魔王を召喚した。
現れたのは、アラスカン・マラミュートの子犬。
フワフワモコモコで愛らしい顔をしている、手乗りサイズの小動物。
「おい、誰が子犬を召喚しろと言った。パリピーニャだよ。パリピーニャを出さんかい」
(こいつは、マパネット。不定形の魔王で、この子犬の姿は擬態。なんにでも変身できるし、フェイクオーラも得意だ)
「そんなことは聞いてないんだよ。パリピーニャを出してくれ……もう一度、あのエロいお姉さんに会わせてくれ……お願いだよぉ……後生だからよぉ……もう、ボク、パリピーニャがいないと生きていけないんだよぉ……」
這いつくばって懇願するボクをシカトして、
モンジンは、
(マパネットは、魔王の中でも、特にヤバいタイプの魔王だ。擬態やフェイクオーラだけじゃなく、デバフ散布も得意なタイプで、こいつがその気になれば、『とんでもない疫病』をバラまいて、この都市にいる人間全員に地獄の苦しみを与えることも容易。人類を死滅させることなど、こいつにとっては呼吸と同等)
流石に、そんな物騒なことを言われてしまえば、
『愚かしさの権化』と呼ばれて久しいボクも、煩悩を棄てざるを得ない。
「そんなヤバい魔王を召喚しないでほしいんだけど……ボクは、この巨大都市を殲滅したいわけじゃないんだから。あくまでも、人間社会の中で成り上がりたいんだから。みんないなくなった世界で、ボク一人だけ生き残って、何が楽しいんだよ」
(マパネットも、他の魔王同様、お前に従順だから、なんの心配もいらない)
そこで、子犬のマパネットが、
フイっと、明後日の方を向きながら、
「偉大なるマイマスター……ご命令をどうぞ。一応、なんでも聞くつもりです」
と、なんだか、やる気のない感じでそう言った。
その態度を受けて、ボクはモンジンに、
「あれ? なんか、ボク、嫌われてない? これ、大丈夫? ゼラビロスやパリピーニャと違って、明らかに、忠誠度が低い気がするんだけど……」
(マパネットは、すさまじく性格が悪くてな。コレでもかなり従順になっているんだ。仮に、ゼラビロスやパリピーニャの性格の悪さを10だとすると、マパネットは8万ぐらいだ)
「桁が違うにもほどがある……っ。8万て、どんな性格の悪さなんだよ……想像もつかないよ」
(ゼラビロスは万能型。パリピーニャはパワー型。マパネットは搦め手トリッキー型。どいつも優秀だが、出来ることに、かなり差があるから、その辺はしっかり押さえておけよ)
「了解……ちなみに、この魔王召喚って、小刻みに召喚することもできる? 朝1分、昼2分、夜1分……みたいな感じで」
(可能だ。1秒だけ召喚するってこともできるぞ)
「助かるなぁ……それだと、だいぶ幅が広がる。あ、あと、『透明化』ができるやつとかいる?」
「……『不可視化』は誰も出来ないが、マパネットなら、虫に擬態することができるぞ。フェイクオーラも優秀だから、この都市に『よっぽどの眼力使い』がいてもバレることはないだろう」
世のなかには『サードアイ』っていう眼力系の魔法を使える者がいる。
ようするに、相手の力が分かる魔法だ。
けど、フェイクオーラが使えれば、サードアイを使われても、力を隠すことができる。
「マパネット、だいぶ使えそうだな。擬態がとにかく便利すぎ。……パリピーニャと、能力を交換してくれないかな……正直、パリピーニャみたいな『パワー型の魔王』とか、過剰戦力すぎて、使い道がないんだよね……ボクはもっとパリピーニャを使いたい。というわけで、モンジン……マパネットとパリピーニャのステータスを交換しちゃって、よろしく」
(できるか、そんなこと)
「ちっ、使えない幽霊だ。……あ、でも、擬態できるんだもんね……よし……」
そこで、ボクは、マパネットに、
「マパネット……パリピーニャに擬態してくれ」
(どんだけパリピーニャ好きなんだよ……)
ボクの命令に、かるくイヤイヤ従い、
マパネットはパァっと姿を変えていく。
パリピーニャの姿になったマパネット……
最初は『おおっ』と思ったけど、
……だけど……なんだろう……
「あれ? なんか……解像度、低くない?」
一応、パリピーニャっぽい姿にはなっているんだけど、
なんだろう……パリピーニャ本人と違って、なんか、ワクワクしない。
……この『絶妙に出来が悪いフィギュア』を見ているような気分は、いったい……
(擬態で、『同格の魔王の魅力』を完全再現することはできねぇよ。スペックが低い人間とかモンスターとかなら完全擬態できるだろうが、パリピーニャは無理だな)
「よくわからないけど……結局、パリピーニャに会いたかったら、パリピーニャを召喚するしかないってことか……でも、汎用性の高そうなマパネットと違い、パリピーニャは過剰に強すぎて使い道がなさそう……ああ、なんてジレンマ……なんで神様は、ボクに厳しい試練ばかり与えてくるんだ……」
(試練かなぁ……煩悩を棄てれば、それでおしまいの話だと思うが……)
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名前『マパネット』
メインクラス『ジェノサイダー』
『シャーマンクラウン』
『エルダーワイズマン』
サブクラス 『エージェント』
『ハーミット』
『ルーンシーカー』
・称号『災厄の魔王』
《レベル》 【380】
[HP] 【3500】
[MP] 【280000】
「攻撃力」 【105】
「魔法攻撃力」 【210】
「防御力」 【107】
「魔法防御力」 【201】
「敏捷性」 【390】
「耐性値」 【750】
「魔力回復力」 【7700】
「反応速度」 【205】
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