4話 こころ。
4話 こころ。
「拝命いたしました、マイマスター」
そう言って、家へと向かう魔王ゼラビロス。
その途中でボクは、
「ちょ、ちょっと待って」
「はっ。なんでしょう」
「やっぱり……殺すな……あ、いや……殺せ……」
「どちらでしょうか、マイマスター。どちらであろうと、完璧に遂行してみせますので、どうぞ、明確なご命令を」
「えっと……えっと……」
『殺す』ってなると、やっぱり、色々と躊躇してしまう。
当たり前だけど、ボクは、いままで人を殺したことがない。
日本にいるときは勿論のこと、こちらの世界に転生してからも、『闘技場で闘ったこと』はあるけれど、『殺したこと』は一度もない。
だから……
「やっぱり、殺すな………………その代わり……」
そこで、ボクは、クっと顔をあげて、ゼラビロスの目を見ながら、
「死ぬ直前までボッコボコにした上で……あのバカの『チ〇コ』、もぎとってこい!」
「おおせのままに」
「あ、ちなみに、『回復魔法が効かなくなる方法』で、チ〇コをもぎとることできる? 簡単に再生されたんじゃ面白くない。しばらく……あるいは一生、苦しんでもらいたい」
「バラモウイルスを使えば可能でございます」
「じゃあ、それで。……行ってくれ」
バラモウイルスは……聞いたことがあるけど、詳細は忘れた。
なんか、高位の状態異常だった気がするけど……ボクには関係がなさすぎて覚えていない。
たしか……回復魔法が効かなくなる……的な効果だったような気が……しないでもない……
「拝命いたしました、マイマスター」
前と同じく、恭しく頭を下げてから、
パリコレのモデルみたいな美しいウォーキングで、
軽やかに、華麗に、家の中へと入っていく魔王ゼラビロス。
――と、そこで、モンジンが、
(……なぜ、殺害命令を撤回した?)
「え、なんでって……そ、それは……」
(17番……お前が、あのキモいオッサンから受けてきた仕打ちは、なかなかヒドいものだ。あのオッサンを殺したところで、誰も文句を言わないと思うけど? あのオッサンの、ただの自業自得だ)
「……ぁ、いや、でも……」
そこで、ボクは口ごもった。
『ただ日和っただけ』なんだけど……
それがバレるのが、なんだか恥ずかしかった。
だから、
「……し、死んだら終わりだからだよ。二度と痛めつけられないじゃないか。ボクが受けた屈辱は……『一回死んだだけで許される』ような、生易しいものじゃない」
(なるほど。つまり『あんな奴はもっと苦しめてやらなきゃ』ってことだな)
「え? ぁ、うん、まあ……そうかな」
「うわぁああ!! なんで、また魔王がぁああ!! どうして、おれのところばっかりぃい!! あ、やめっ……ちょっ、えええ! ぎゃああ! ぁああ! おれの! おれのチ〇コぉおおお! あああああああああああ!!」
聞こえてくる悲鳴が心地いい。
苦しめ。
とことん苦しめ。
しばらく外で待機していると、
上裸の9番が、慌てた感じで、家から飛び出してきて、
「わ、わ、わっ!」
スッ転んで、起き上がって、またスッ転んで……
という、ドタバタを繰り返している9番。
ボクの顔を見つけると、
這うように、近づいてきて、
「せ、先輩! ま、ま、ま、魔王が! 魔王が、ポル様を襲っています!!」
「マジで? そいつは、とんだハプニングだな。チビりそうだ」
そう言いながら、ボクは、上着を脱いで、9番に渡す。
「え、あの……」
「ボクの身体は汚いから別にいいけど、お前のカラダは妙にキレイだから、かくしておいた方がいい」
「え……えぇ……っ」
なんだか、顔真っ赤にしている9番に背を向けて、
ボクは、
「さて……どんな感じかな」
そうつぶやきつつ、
家の中へと入っていく。
中では、なかなか凄惨な状態になっていた。
すでに、オッサンのチ〇コはもぎ取られており、
意識も完全に失って、力なく、ダランとしていた。
「魔王、つっよ……知ってたけど、ほんと、強すぎ……あと、イケメンすぎな。人型の魔王って、『エグいぐらいの美形』が多い気がするよ。……たまに、『吐くほどキモいヤツ』もいるけど」
そう言いながら、ボクは、壁に飾られている剣を手に取って、
「ごめんね、ゼラビロス。ちょっと斬る。悪いけど、お前の強さ、試させてね」
「問題ございません」
了承を得てから、ボクは、思いっきり、魔王の背中に斬りかかった。
ガジィイイイイインッ!
と、弾かれて、バランスを失い、転倒してしまう。
「痛ぇ……手ぇ、痛ぇ……す、すごい体だ……」
「大丈夫ですか、マイマスター」
そう言いながら、ゼラビロスが優しく差し出してきた、たくましい手。
ボクは、その手を掴み、支えにして立ち上がりながら、
「パワーも、耐久力も別格で……その上、人間では到底扱えないような『強大な魔法』を山のように使えるっていうんだから……ほんと、とんでもない存在だよな……そんなのが、この周辺ではうじゃうじゃしているんだよなぁ。……改めて考えると、この世界、ほんと、地獄すぎ……もし、女神の結界がなくなったら、人類は2秒で滅びるな……」
ため息交じりにそう言ってから、
ボクは、剣を、その辺に放り投げる。
ちなみにこの剣は、オッサンが造った中で最高峰の逸品。
だいぶ切れ味鋭いはずなんだけど、魔王相手じゃ、その辺の棒と大差ない。
「もう、そろそろ5分経つかな……おつかれ、ゼラビロス。ありがとう。今後も、ちょくちょく呼び出すから、その時は、よろしく」
「承知しました、マイマスター」
返事をした直後に、ちょうどタイムリミットになったらしく、
ゼラビロスの身体はスゥっと消えてしまった。
残されたのは、気絶しているオッサンとボクの二人だけ。
……と、そこで、
「も、も、も……」
ドアの向こうから、ボクを見て震えている美少年が一人。
「もしかして……さっきの魔王は……せ、せ、先輩が……」
「……だとしたらどうする?」
「……」
「冗談だよ。ちゃんと言っておくけど、違うからな。ボクと、さっきの魔王は関係ないよ。『あのイケメン魔王とボクの間に何か不埒でただならぬ関係があるんじゃないか』とか……そんなのは、お前の妄想・邪推・疑心暗鬼にすぎない」
「……」
「まあ、でも、もし、仮に、お前の妄想が真実だったとしたら、お前、口封じで、ボクに殺されちゃうな。それが、イヤだったら……黙っておくことをオススメするよ。今日見たこと全部……あと、今後、起こるであろうコトも全部。もし、誰かに喋ったりしたら……お前は、魔王にチ〇コをもがれて死んじゃう……かもね」
ここまで言えば、ビビって黙っているだろう……
と思ったのだが、
9番は、
「……す、すごぉおおい……」
まったくビビっている様子がなく、
おめめをキラキラさせて、
「すごい、すごい、すごぉおおい! すごいぃいい!」
『すごい』を連呼するだけのボットになってしまった。
それだけだったらよかったのだが、
「すごい、すごい! かっこいい!」
と言いながら、ボクにしがみついてきた。
「おいおいっ」
サラサラの髪が腕にふれる。
妙に柔らかい肌が押し付けられる。
こいつ、本当に男か?
それにしては、顔が可愛すぎるし、体も柔らかすぎるんだが……
「すごい、すごい、すごぉおおおい!」
「うるさいなぁ……」
なんて言いながら、
内心では、すごく嬉しかったりする。
これまでの人生で、誉めてもらえたコトというのがなかった。
いや、もちろん、ゼロじゃなかったけど……
『すごく褒められる』というコトは、ほとんどなかった。
転生前も後も、基本性能が低かったボクは、
常に、日陰にいて、
誰からも相手にされない生活をずっと続けてきた。
しゃべっても面白くないから友達はできなかった。
イジられても、うまく返せるスペックがないから、
気づけば無視されるようになっていった。
いてもいなくても同じ。
ずっと、ずっと、ずっと。
「先輩」
「……なに?」
そこで、9番は、ボクの手をとって、
「…………ありがとう」
そう言いながら、ボロボロと泣きはじめた。
我慢していた想いがあふれたみたいに。
大粒の……瑠璃みたいに、かけがえのない雫が、六月の空みたいに、パタパタと弾ける。
もしかしたら、こいつは、無邪気な顔をして、何も分からないフリをしていただけなのかもしれない。
心にフタをして、壊れてしまわないように、必死に自分を守っていたのかもしれない。
わからない。
こいつの心なんて、わからない。
けど、
「ありがとう……ありがとう……」
「はぁ……」
思わずため息が出てしまった。
自分のタメ息なのに、どんな意味が込められているのか分からない。
わずらわしい?
めんどうくさい?
多分違う。
何が答えか分からないけれど、
とりあえず、ボクは、
「生きるのって、大変だよなぁ……」
……しばらく、こいつと生きていこうと思った。
この先、何がどうなろうと……とりあえず、こいつと一緒に生きてみようって、
そんなことを思いつつ、
ボクは、9番の頭を、ソっとなでた。
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名前『蛇の9番』
メインクラス『?』
サブクラス 『?』
・称号『?』
《レベル》 【5】
[HP] 【75】
[MP] 【666】
「攻撃力」 【1】
「魔法攻撃力」 【2】
「防御力」 【1】
「魔法防御力」 【2】
「敏捷性」 【1】
「耐性値」 【1】
「魔力回復力」 【666】
「反応速度」 【1】
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