43話 切り札のバラ。
43話 切り札のバラ。
地面に幻の薔薇が咲き乱れ、黒い花弁が舞い落ちるように空間を覆う。
視覚だけでなく、肺を侵すかのような甘い匂いが鼻腔を突き、じわじわと精神を痺れさせてくる。
この『薔薇領域』は、継続ダメージ・毒・魅了――3つの効果を同時に敵に付与するハイクオリティな魔法。
魔王や上級貴族相手には心許ないが、同格以下を相手にするなら致命的な優位を作れる。
広がる薔薇の幻影を見たセンは、口角を上げた。
(激レアな魔法を使うじゃねぇか! ……確定。お前は俺のコマにする)
薔薇領域の毒気を肺に取り込みながら、目を細めて続ける。
(このままでは魔王相手には通じねぇ……だが、魔法を強化する神器さえ手に入れれば十分に通用する。3番には……『エキドナの拷問剣』あたりが、一番しっくりくるな)
17番から教わったダンジョン神器のひとつ。
エキドナの拷問剣。
黒曜石を溶かして鍛えたような刀身には、悲鳴にも似た呪歌が刻まれている。
握るだけで、掌に『拷問台の冷たさ』が貼りつくような異形の剣。
その効果は、ただ強力という域を超えていた。
『装備者は、一日に30分だけ【最魔王化(魔王と同等の肉体スペックを得る)】の魔法を使える』。
さらに――
『装備者の、拷問官適性・暗殺者適性・闇魔導士適性を、超々々々大幅に引き上げる(当人のポテンシャル以上の力は得られない)』。
(99番には……『死と隣り合わせのレミング』が最適だな)
同じく魔王特効の神器。
その形状はあまりにも歪。
深淵を具現化したような双剣
『装備者は、一日に30分だけ【最魔王化】を得る』。
『装備者の、前陣速攻適性・近接特攻適性・回避タンク適性を、超々々々大幅に引き上げる(当人のポテンシャル以上の力は得られない)』。
エキドナが『闇の支配者』なら、
レミングは『死地に飛び込む愚勇』の化身。
――3番の査定が終わると、センは言った。
「よし、もう十分だ。時間がないから、お前には、最速で『俺』を知ってもらうぞ」
「は?」
眉間に皺を寄せ、意味を測りかねる3番。
その彼女に、センは嗤うように宣言する。
「刮目するがいい。これこそが、たゆまぬ努力の結晶……つまりは……この世で最も愚かな命の閃光だ」
砂を鳴らし、踏み込み足に心を込める。
すでに何万を超えて繰り返した、型通りの単純な所作。
だがそこに、研ぎ澄まされたオーラ、狂気的な捻転、歪な魔力が重ねられる。
「――逆気閃拳――」
拳が放たれた瞬間、空気がわずかに悲鳴を上げた。