最終話 はい、論破。
最終話 はい、論破。
「……ぇ……いや、でも、たとえば、ラストローズ辺境伯のシノビである『蝙蝠の7番』とか……魔王組の用心棒兼アサシンをしている『黒猫の99番』とか、『針土竜の3番』とか……彼女たちは上位貴族並みに有能なのに、『こんなボクですら成れた平民』にもなれていませんよ」
「平民? 君が?」
「はい……朝一緒だった20番もそうですけど……ボクら、平民になりました」
「そうか。それは失礼したな。では、今後、君たちのことは平民として扱うことにしよう。それで、君の平民としての名は?」
「猿の17番で大丈夫です。今後も、そう名乗っていくつもりなので。ちなみに、20番はミケです」
「……ナンバーネームのままでいいというのか。変わっているな。普通は忌避するものだが……まあ、いい。理解した」
「それで、さっきの質問のつづきなんですが……」
「ああ、そうだったな。答えよう。……彼女たちが平民になれない理由。それは、彼女たちの『努力が足りない』からだ」
「……ぇ」
「才能にあぐらをかき、努力を怠る者は多い。由々しき事態だ」
「……」
「階級的構造は、『努力を精査する試練』を内包した、怠惰を許さない厳しい制度。しかし、だからこそ、真に価値ある者は、どのような境遇でも結果を出し、正当に報われる地点にまで上がってくる。仮に僕が、彼女たちと同じ身分で産まれていたとしても、間違いなく、今の地位まで上り詰めていただろう。それができぬというなら、それまでの器にすぎなかった、ということだ」
「もう一つだけ……聞いていいですか?」
「なんだ?」
「あなたは飢えたことがありますか?」
「ない。なぜならば、ずっと努力をしてきたからだ。正しい努力は、正しい成果をもたらす。僕は、積んできた。誰よりも自分に厳しく、勉強と鍛錬を積んできた。だから、僕が飢えることはありえない。飢えるのは甘えだ。なまけ者に課された罰でしかない」
そこで、モンジンが、ボソっと、
(まだ、ウルベよりマシだと思うか?)
(いや……トントンだね……どっちも救えない)
そこで、ゼンドートは、ゲンドウポーズをやめて、椅子の背にもたれかかると、
「ずいぶんと、長い時間、議論をしてしまったな。君の昼休みを奪ってしまったことを謝罪しよう。しかし、これで、誤解は解けたのではないかと思う。分かってもらえた通り、僕は、理知的に正義を愛する真っ当な男だ」
「は、はは……」
「君との議論は、僕自身の『心の奥底』と向き合うことが出来て、非常に有意義だった。また、場を改めて、互いの哲学をぶつけあうとしよう」
「……いやぁ……それは……遠慮させていただきたい、というのが本音といいますか……」
「遠慮は不要だ。君は既に、ただの奴隷では……いや、『ただの平民』ではない。『対魔王という難題』に、僕と同じく特異な資質を持って臨む勇者。しかして君は、僕と語らうに足る正当な立場を得ている。知見を交わし、互いの見地を探ること――それは貴族に課された知の責務。また、君のような特異点を受け入れることは、この世界全体にとって価値ある社会的演習だと言えよう」