2話 魔王が出たぞ!!
2話 魔王が出たぞ!!
そのオッサン、まだまだ死にそうにないから、もっとぶん殴れ。
……なんて考えていると、
「じゅ、17番! 助けろ!」
ボクの存在に気づいたオッサンが叫んだ。
「え? いや……た、助けろと言われても……」
ここで、どう言うべきか、ボクは悩んだ。
『その魔王は、ボクの命令に従ってくれるようなので、助けることは簡単です』
……なんてコトは、もちろん言わない。
さすがに、そこまでバカじゃない。
「何をしている! これまで養ってやった恩を忘れたか!」
養ってやった恩……か。
確かに、ご飯と寝床はもらったけど、
それは、この巨大都市の憲法である『女神法』で、『奴隷を飼っている者は、奴隷が健康でいられるように、食と寝床を与えないといけない』と決まっているからで、あんた自身の温情とかじゃないだろう。
正直、このオッサンに『恩』みたいなモノは一切感じていない。
『殺すのは流石にアレかな』とは思っているけど、『ボクを苦しめてきた報いを受けろ』とは思っている。
とはいえ、助けるフリぐらいしておかないと、後で、酷い目にあうのは分かっているので、一応、止めにいく素振りをみせる。
「やめろー。ポル様をイジメるなー」
ちなみに、『ポル』はオッサンの名前。
この世界で二番目に嫌いな男の名前。
一番嫌いなのは、ウルベ卿だ。
流石に、腕を切られた恨みは忘れられない。
あいつは頭がおかしい。
「やめろー。はなせー」
棒読みでそう言いながら、魔王の背中を、ぽかぽかと、殴ってみる。
魔王は知能が高いので、ボクの『行動の意味』を『正確に理解』してくれたらしく、
ボクの言動は完全シカト状態で、オッサンをボコボコにし続ける。
……いやぁ、本当に魔王って賢いねぇ。
『融通のきかない機械』とかだったら、きっと、『やめろ』っていうのを『命令』だと判定して動きを止めちゃうもんね。
でも、魔王は賢いから、状況を的確に判断して、ボクが『本当にやってほしいこと』を遂行してくれる。
ああ、なんて、素晴らしい召喚獣なんだ。
……ボクが、魔王の賢さに感動していると、
そこで、スゥっと魔王が消えてしまった。
え? なんで消えた?
と思っていると、ボクの中の火の玉が、
(1日5分しか召喚できねぇんだ。大事な事だから、しっかり覚えておけ)
と、丁寧に教えてくれた。
そういえば、さっき、そんなようなことを言っていたような気がする。
しかし、5分か……短い……
(もし、お前が『魔王を召喚できる人間だ』とバレたら、確実に殺されるぞ。気をつけろよ。死ぬ気で隠せ)
そうだね。
『魔王を召喚できる人間』とか……普通に考えて怖すぎるもんね。
絶対にバレないようにしないと……
「はぁ……はぁ……ぐぅ……じゅ、17番。……神殿にいく。手を貸せ……片足が折れていて、うまく歩けない。杖になれ……モタモタするな、グズ! ……死ぬだろうが……」
ボロボロのオッサンに命令されたボクは、
イラっとしつつも、言われた通り、神殿までの杖になった。
神殿は、この家から歩いて20分ぐらいのところにある。
オッサンが満身創痍のため、いつもの倍以上の時間がかかった。
その間、ずっと、オッサンの杖をやっていたので、ボクの身体もキシキシ痛んだ。
頑張って運んでやったのに、礼の一つもない。
……くそが。
★
「――『治癒ランク3』――」
神殿について、神官から回復魔法をかけてもらったことで、
オッサンのケガは、だいたいよくなった。
骨折とか打ち身ぐらいだったら、サクっと直るのが、この世界のいいところだ。
回復魔法がない日本だと、かすり傷でも、治るのに3日はかかるもんね。
傷が、ある程度回復したところで、
オッサンは、ボクの頭頂部にゲンコツを落として、
「貴様は、主人が殺されそうになっていたというのに、なぜ黙って見ていた?!」
「い、一応……助けにいきましたが……ボク程度では――」
「言い訳などいらん! この糞が!」
二度目のゲンコツ。
殴られた頭がズキズキ痛む。
マジで嫌いだ、このオッサン。
と、ボクが、心の中で毒づいていると、
神官が、
「そこの奴隷。腕を切られているようですね。治してあげるから、こっちにきなさい」
優しくそう言ってくれた。
いい人。
「ありがとうございます。一応、腕も持ってきていますので、これを――」
だが、そこで、
オッサンが、ボクに、
「言っておくが、治療代は自分で払えよ。『欠損治癒』の代金は高いんだ。おれは払わんぞ! クソの役にも立たん奴隷のために、なんでおれが金を払わないといけないだ、ふざけるな!」
と、ブチ切れてきた。
そんなオッサンに、神官が、
「奴隷がケガをした時に治療費を払うのも、主人の義務ですよ」
と、女神法に基づいた、真っ当な事を言ってくれた。
しかし、オッサンは、
「後で払いますよ。後でね。しかし、今はこいつに払わせる。それがうちの方針です」
と、ゴネていく。
あんた、絶対に、払わないだろ。
オッサンはしばらくゴネたが、
神官の人が、かなりまともな人だったので、
オッサンは、普通にお叱りを受けて、
聞こえないようブツブツと、
「ちっ……綺麗ゴトほざくなよ。執行部からの助成金で一生安泰のヌルい人生やってる神官ごときが、死に物狂いで働いているおれに説教たれんじゃねぇ……」
小さな声で文句を垂れてから、
しぶしぶ、ボクの治療費を払った。
「――『欠損治癒ランク3』――」
回復魔法を受けている間、オッサンは、ボクに対して、『親の仇みたいな目』を向けてきた。
欠損治癒の代金が高いのは事実だけど……しかし、よく、そんな目が出来るな。
本当に、このオッサンは、性根が腐っている。
帰ったら、また魔王を召喚して、ボコボコにしてもらおうかな。
(できなくもないぞ。もう0時をまわっているからな。また、5分間、魔王を召喚することができる)
と、ボクの中の『火の玉』がそう言ってきた。
非常に魅力的な提案だったけど、
せっかくの力を、オッサンを殴るためだけに使うのは勿体ない。
もっと有意義に使わないと……
5分とはいえ、魔王を召喚できるんだ。
やり方しだいで、何でもできる。
なんて事を思っていると、
そこで、神官が、
「ところで、一体、何があったのですか? こんな夜更けに、そんなにボロボロになって」
「そ、そうだ! 魔王が! 魔王が、おれの家の中に入ってきたのです! そして、おれをこんな目に! 大至急、『執行部』に……貴族様に連絡を!」
執行部は、『天意決定機構(貴族の国会みたいなもん)』で議決された事項の執行に責任を持つ実行部隊。
一言で言えば、役所と裁判所と警察がごっちゃになったようなもの。
「魔王が? はは、そんな訳がないでしょう」
「本当です! おれの奴隷も見ています! そうだな、17番!」
「え、えっと……いやぁ……たぶん……はい……正直、あまり、よく分からなかったですが……」
どう証言するのが正解か分からず、
言葉を濁していると、
オッサンが、烈火のごとく怒り狂い、
「ナニをふにゃふにゃ言っているんだ! あれは間違いなく魔王だったろうが! 貴様は、バカでグズなだけじゃなく、目までイカれているのか! このボケナスが!」
一通り、怒鳴り散らかしてから、
オッサンは、神官に対し、
大熱弁で『魔王にボコボコにされた。今すぐ執行部に報告を』と訴え続けた。
神官は眉間にシワをよせて、
「にわかには信じがたいですね……女神様の加護に守られているこの巨大都市ユウガに、魔王が入ってくることは絶対にできないはず……」
「本当なんです! 嘘はついておりません! この目を見てください! 嘘つきの目ですか?! 仮に嘘なら、こんな嘘をついて、おれになんの得が?!」
オッサンの熱量があまりにも真に迫っているので、
「ふーむ……私では判断しかねる問題です。ウルベ卿に相談しましょう。ちょうど、今夜は『大星祭』の件で、こちらにおいでになっていますので」
「おお! ウルベ卿が!」
え、まじぃ……
あいつには会いたくないんだけどなぁ……
★
神官の案内で、神殿奥にある貴賓室に通されるボクら。
貴賓室のソファで、紅茶を飲みながらくつろいでいたウルベ卿が、
こちらに、チラっと視線を向けた。
ボクの顔を見た瞬間、
「ん? 貴様は、昼間にぶつかってきたクソガキか」
「は、はい……」
「飼い主を引き連れて……まさか、『私に抗議にきた』などと言うつもりじゃないだろうな」
そこで、オッサンが、首を何度も横にふりながら、
「いえいえいえいえいえ!!! そ、そ、そ、そんな、めっそうもない! 悪いのは、うちのバカ奴隷であって、ウルベ卿には一切、責任などございません! むしろ、しつけていただいて、感謝しているくらいで!」
「ふむ。それでは……何の用だ?」
「はい! じ、実は魔王がこの都市内部に入り込んできて、わたくしめに暴行を加えてきたのです! これは、とんでもない緊急事態であると考えます! 即座に対応しなければ!」
「魔王が?」
ウルベ卿は、眉間にシワをよせて、
『頭のおかしいヤツ』を見る目で、
「……ありえないな。女神様の結界に守られた偉大なるこの地に、魔王どもは一歩たりとも足を踏み入れることはできない」
と、バッサリ切り捨てていく。
「事実でございます! つい、一時間ほど前に! わたくしは、自宅で、魔王に襲われたのです!!」
「仮に魔王が、都市内部に入り込んだのだとすれば、今頃は、貴様一人がピーピーわめくだけではなく、都市全体が大騒ぎになっているはずだ。しかし、どこからも悲鳴は聞こえない。じつに静かな夜だ」
「魔王は、わたくしに暴行を加えている途中で、煙のように、フっと消えてしまったのです!」
ウルベ卿は、一度しんどそうに、はぁとタメ息をついて、
「……まるで、『夢』のような話だな。というか、まあ、そういう夢を見たのだろう」
「ウルベ卿! わたくしは嘘をついておりません! 偉大なる女神様に誓って!」
ウルベ卿は、さらにもう一度、これ見よがしに、大きめのタメ息をつきながら、
「魔王の強さは、どれも、『存在値500』を超えている。超越的なパワーと膨大な魔力を誇る怪物の中の怪物。仮に、貴様が魔王の襲撃を受けた場合、跡形も残らず消し炭になるはずだが?」
『存在値』は、総合力。
魔王は500で……ボクは9くらい。
ボク、弱いなぁ……ほんと……
ポルのオッサンが30ぐらいで、
ウルベ卿のような下位貴族だと50前後。
この巨大都市を牛耳っている『最高クラスの上位貴族』でも100前後が精々。
……ちなみに、『存在値100』が5人集まっても魔王には勝てない。
魔王を殺そうとすれば、最低でも、『存在値100以上』が『1000人は必要』と言われている。
いかに魔王がぶっ飛んでいるか、そのシンプルな数字だけでもよく分かる。
ちなみに、この1000万人以上が住む巨大都市ユウガに、
『存在値100を超えている者』は10人もいない。
……つまり、人類は、総出になっても『魔王を一体たりとも殺すことが出来ない』ってこと。
ボクは、そんな魔王を……この都市内部で召喚し、自由に命令することができる。
……改めて考えると、ボク、やばいな。
最弱だけど最強!
みたいなっ!
「そ、ソレは、わたくしもそう思いますが……お、おそらく、あの魔王は、わたくしを殺すことが目的だったのではなく、わたくしを痛めつけることが目的で――」
「ふむ。して、その理由は?」
「え、いや……そ、それは分かりませんが……しかし、事実として!」
「もういい。貴様は、『魔王に襲われる夢』を見ただけだ。愚かしい話に付き合わせおって、このバカ者が。……偉大なる女神様の加護で守られたこの巨大都市ユウガに、魔王が足を踏み入れることはありえない。絶対にな」
「し、しかし!」
「それ以上、寝言をほざくようなら、貴様の腕も切り飛ばすぞ。女神様に対する不敬罪でなぁ」
「うぐっ……」
そこまで厳しく叱責されてしまえば、
さすがのオッサンも引っ込むしかなかった。
話を信じてもらえず、力なくうなだれているオッサンの後ろで、
ボクは、バレないよう、ニタニタと笑っていた。
いい気味だ。
ああいい気味だ。
いい気味だ。
00000000000000000000
名前『ウルベ』
メインクラス『マジックナイト』
サブクラス 『魔法使い』
『サージェント』
・称号『貴族(男爵)』
《レベル》 【43】
[HP] 【1290】
[MP] 【830】
「攻撃力」 【38】
「魔法攻撃力」 【52】
「防御力」 【32】
「魔法防御力」 【55】
「敏捷性」 【28】
「耐性値」 【30】
「魔力回復力」 【23】
「反応速度」 【17】
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