9話「妹さんのお墓」
「これが妹さんのお墓ですか?」
「そうです」
今日、快晴の空の下、私はロゼットと共に彼の妹の墓を訪ねている。
アイスライトへの復讐はもう済んだ。私たちの目的はなくなってしまった。でもそれは悪いことではない、それに――だからこそここへ来られたのだ。すべてが終わったからこそ。
彼女の墓は石でできた小さなものだった。
しかし、その表面には、丁寧に名が刻み込まれている。
「全部終わった。もう……もう、何も心配しなくていいから」
ロゼットはそう言って切なげに墓石を見つめる。
涙はなかった。
けれどもその双眸からは、穏やかな寂しさ、みたいな色が滲んでいた。
「命を救えなくてごめん」
呟くように発し、彼は手にしていた花束を墓の前へ。
「……本当はもっと早く動くべきだったけど」
私はただその背を見つめていた。
失われたものは二度と戻らない。
でも、まだ生きている者が背負う荷物なら、やりようによっては少しは軽くなるのかもしれない。
生きているからこそ苦しむ。
だが、生きているからこそどうにかできる可能性も残されている。
……皮肉なものだ。
「ロゼットさん、ここへ来るのはいつ以来ですか?」
ふと思い立って問う。
「……思い出せない」
彼は僅かに目を伏せた。
穏やかな風が吹き抜け、草木を揺らす。
「そうですか。でも、これからは、何度でもここへ来られますね」
「それは、どういうことで?」
「だってもうすべて終わりましたから。これからは気を遣わず何度でも、貴方は妹さんに会えるじゃないですか」
これできっとロゼットの心は変わる。
すべてが反転はしないかもしれないけれど。
一瞬にして快晴にはならないかもしれないけれど。
それでも、光が降り注いでいることを感じることくらいはできるはずだ。
「明るい未来を信じ生きましょう! これからは!」
笑いかければ、彼もまた少し頬を緩めた。
「じゃあ一つお願いしても?」
意外な言葉にきょとんとしてしまって。
「は、はい。何でしょうか。あ、もしかして……お金とか……」
「いえ違います」
「良かった……。では何でしょう?」
「そうですね、では」
彼は少しだけ躊躇うようなそぶりを見せたけれど。
「これからもまた、一緒にいてくれませんか?」
はっきりと一文を紡いだ。