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34 第四皇女と王妃様のお茶会。

お茶会の日がやってきました。

ローラの焼き菓子以外の全てを、王妃様が手配して下さっていたので知らなかったのだけれど、今日のお茶会の会場は、ゼーレン城にいくつもある談話室などではなく、中庭を抜けてしばらく歩いた敷地の奥に建てられている、ガラスと鉄骨で造られた立派な温室だったのよ。

もしかするとこの温室って、以前ハインツ殿下がいつか案内して下さると仰っていた『亡くなられたお祖母様が管理されていた温室』なのではないかしら?


案内された温室の入り口から一歩中へ足を踏み入れて驚いたわ。全体がガラス張りなので、温室内って思った以上に明るいのね。

綺麗に手入れされた花々を左右に眺めながら道なりに進んでいくと、天井の高い開けた場所に出たわ。

そこには、一瞬ここが温室の中であることを思わず忘れてしまいそうなほど素敵に設られたテーブルが置かれていたの。

もしかして、私が最後なのかしら? 既にお客様はお揃いのようです。


私が指定された席に腰を下ろすと、代わりに王妃様が優雅に立ち上がって、席についている皆様に向かってニッコリと微笑まれたわ。



「皆様。本日はようこそ。今日は、ルイーズちゃんがグルノー皇国から連れて来ている専属料理人が、皆様のためにとても美味しい焼き菓子を沢山用意してくれています。心ゆくまでご堪能下さいね」



挨拶を終えた王妃様が合図をすると、それまで微動だにせずに真っ直ぐに立っていた給仕たちが、スイッチが入ったかのように一斉に動き出したわ。

そしてとっても手際良く、良い香りのする紅茶と共に、綺麗に盛り付けられたローラの焼き菓子を次々にテーブルへ並べていくのよ。



「どうぞ召し上がれ。まだまだ沢山ありますから」



準備期間が短かったのでどうなることかと心配したけれど、流石はローラ!

色とりどりの果物をのせた小さめのタルトに、色よく焼けたマドレーヌ、クリームがあふれそうなほど詰まっているエクレアに、数種類の厚焼きガレット。それから、私の大好きなフランもちゃんと用意してくれているわ。



「まあ、本当にどれもこれもとても美味しそうですわね」

「ええ。見た目にも、とても美しいですわ!」



参加されている皆様の笑顔を見れば、ローラの焼き菓子がザルツリンド王国の高位貴族のご婦人方の心をしっかりと鷲掴みにしたことは明らかね。

テーブルの上にはローラが作ったお菓子の他にも、綺麗にカットされたフルーツに、それから一口サイズのサンドウィッチ。

あのサンドウィッチは……。ローラではなくて、きっと王宮の料理人が作ったものよね。

グルノー皇国でサンドウィッチと言えば、スモークしたお魚とクリームチーズとハーブを使ったものが定番だけれど、海がないザルツリンド王国でお魚を使ったサンドウィッチを食べるのは無理な話だもの。

ああ、でも。スモークしてあるお魚ならここでも手に入るのかしら? 離宮に戻ったら、トーマスに聞いてみましょう。


こうしていろいろと並べられていると目移りしちゃうわね。お腹も空いてきたし。

先ずは、サンドウィッチから頂こうかしら。定番のキュウリのサンドウィッチに、トマトのサンドウィッチ。後1つは……。

ん? んんん? あの、パンの間からチラッと見えているあれって、もしかして、薄切りにしたお肉だったりしない? そうよね? そうよ! 絶対に、そう!



「ルイーズ様。どれかお取り致しましょうか?」

「でしたら、あのサンドウィッチを……。できれば多めに」



  ◇   ◇   ◇



「それで、お茶会はどうでしたか?」

「もの凄く美味しかったわ!」

「……ええと。ルイーズ様?」

「くふふ。お茶会では、それ程までに心惹かれる何かが出されたのですか?」



思わず『美味しかった』と答えてしまった私を見て、ジネットは一瞬気の毒そうな表情を浮かべて私からスッと目を逸らすし、エルマはエルマで、笑い出してしまうのを必死に堪えているように見えるわ。



「あっ。違う、違う! お茶会は、とても有意義だったわよ。いろいろなお話が聞けたし……。それにローラのお菓子も、皆様からとっても好評だったのよ。本当よ!」



だって仕方ないじゃない。

ローラのお菓子は絶賛されたし、もちろんどれも美味しかったと思うけれど、やっぱりあの最初に頂いたサンドウィッチが素晴らしく美味だったのだもの!


あの後こっそり給仕係に尋ねたのだけれど、あの薄切りのお肉は、どうやら “ローストビーフ” と呼ばれるものらしいわ。

“ロースト” した “ビーフ” ってことは、つまり牛肉をじっくりと炙り焼きにしたってことよね。

どうにかしてあの “ローストビーフ” なるものの詳しい調理法(レシピ)を手に入れることはできないかしら?

グルノー皇国へ戻ってあのサンドウィッチをお茶会でお出ししたら、お祖父様が飛び上がって喜ばれることは間違いないわ!

ああ、でも。そもそもグルノー皇国ではお肉が手に入らないわね……。

うーん。



「あっ。そう言えば、お茶会の席でリリの話題が出たわ」

「リリカ・ルーゲル様のですか? 確か今は、飛竜騎士団に戻られているのでしたよね?」

「ところが、そうじゃなかったみたいなの」

「ええと、どう言うことですか?」

「どうやらリリは、自分の所属する飛竜騎士団第5分隊ではなく、今は第二騎士団でお世話になっているみたい」

「えええ? 何故そんなところに?」

「ハッセン侯爵から、リリは直々に剣の指導を受けているのですって」

「……ああ、そう言うことですか。それはまた、リリカ嬢は随分と困難な道を選択されたのですね。熱心と言うか、自虐的と言うか」



ハッセン侯爵というのは、私の護衛騎士のアリシア・ハッセン様の旦那様で、第二騎士団の団長をされているお方よ。若くして団長に任命されるくらいだから、剣の腕前を問うまでもないでしょう。

リリは本気で自分を鍛え直すつもりのようだわね。


アリシア様は、ハッセン侯爵からお聞きになられたと前置きをされてから話をして下さったのだけれど、リリを診察した医師の話では、ダーガルウルフと死闘を繰り広げた時にリリが着ていた服には、ダーガルウルフの爪によるものと思われる破損が多くあったにも関わらず、リリ本人の身体には殆ど目立った外傷がなかったのですって。

リリの服は血だらけで、その殆どがダーガルウルフの返り血だと推測されるけれど、それ以外の血もかなり混じっていると鑑定されたそうよ。でも、それが誰の血なのかは、結局分からず仕舞いなのですって。

だって、リリには目立った外傷はないし、その時一緒にいた私もセレストも、全く無傷なのだもの。

医師は、そのあまりの不自然さに首を捻っていたそうよ。


リリの服に付いていたダーガルウルフ以外の血液は、どう考えてもリリのもので間違いないと思うのよ。でも、リリには目立った外傷はない。

たぶんだけれど……。私、リリに抱きついた時に、無意識にリリに対して “癒し” の力を使ってしまったのだと思うわ。


私は癒しの呪文を唱えてはいないから(私の場合、唱える必要はないのだけれど)私のこの力のことは、リリにも、他の誰にも気付かれてはいないと思うのよ。

(もっと)も、あの時私は凄く気が動転していたから、あまり自信はないのだけれど……。


この力のことは、ラファエルお兄様から()()()()()()()()()()()()()()()と、私が小さい時から言い含められているのよね。

もしも私に “地属性” だけでなく “光属性” があると世間に知られたら、聖教会は絶対に黙っていないでしょうし、放って置いてはくれない。私は自由に自分の人生を生きられなくなってしまうだろうからと。


お茶会に参加されていた方々は『そんな不思議なこともあるのね……』と話すくらいで、然程気に留めている感じはしなかったから、これ以上詮索されることもないとは思うけれど。

今後は、もうちょっと気をつけないとだわね。

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