31 第四皇女、査問会に呼ばれる。
「では、貴女とリリ嬢は薬草採取をする目的で草原にいた。そこにダーガルウルフの群れを引き連れた冒険者3名が突然現れ、彼らは貴女たちにダーガルウルフを押しつけて城門へと逃げ去った。相違ありませんか?」
3日後。私とリリは、ゼーレンの冒険者ギルドから呼び出しを受けたの。
例のダーガルウルフに私たちが襲われた件に関して、審問会が開かれることが決まったからよ。
「はい。概ね相違ありません。ですが、結果的にはそういう形になりましたが、冒険者の3人が私たちにダーガルウルフを押しつけようと思っていたのかどうかは、私には判断できません」
だってあの後しばらくして、私たちを救出するために数名の警備隊が駆けつけて来たもの。
つまり、あの3人は私たちがダーガルウルフに襲われていると警備隊にちゃんと伝えてくれたってことでしょう?
助けに行って欲しいと警備隊に言ってくれたわけだし。
尤も。警備隊と一緒に3人が駆け付けてきた時、数頭の仲間の死骸を残して既にダーガルウルフの群れがあの場から去っていたことを知って、おそらくは最悪の状況を想像していたであろう彼らの驚きと戸惑いの表情は隠せていなかったけれどね。
私たちは、セレストも含めて皆血だらけだったから、すぐに城壁の警備隊事務所まで移動させられたの。
返り血を洗い流したりしている間に、連絡を受けたらしいギルドマスターのヴェルフ・グンガーさんが凄い形相で警備隊事務所へ飛び込んで来たわ。
ヴェルフさんは、冒険者ギルドで私の正体を知る唯一の人物。
私たちがダーガルウルフの群れに襲われているって話を聞いた時は、きっとかなり焦ったでしょね。
警備隊としても、冒険者ギルドとしても、今回の件に関して私たちからいろいろと話を聞きたいようだったけれど……。
ヴェルフさんが手を回してくれて『その件はまた後日』ということにしてもらえたので、怪我を負ったリリを医師に託して、私はギルドが用意してくれた馬車に乗って離宮へと戻ることができたのよ。
あっ、そうだわ。もしかすると、言い忘れていたかしら?
私の専属護衛騎士となった3人のうち、リリカ・ルーゲルだけが、王都ゼーレンの出身者ではないのですって。
聞いた話では、地方出身の飛竜騎士たちの多くは、飛竜騎士団の独身寮で暮らしているそうよ。リリもそうだったみたい。
でも、私の専属護衛に任命されて以降は、任務上便利なようにリリには私が暮らしている離宮に部屋を与えられたので、今リリは、私と同じ離宮で暮らしているのよ。
ギルドで治療を終えたリリは、翌日には離宮に戻って来たわ。
離宮の人たちは、私が離宮へ戻るよりも前に、この騒動の顛末をギルドの人から聞かされていたらしいわ。
だから、私が無事だと知ってはいたらしいけれど、実際に無事な姿を確認するまで、ずーーっと心配しながら私の帰りを待ってくれていたみたい。
馬車から降り立った私を見つけた侍女のジネット・シャルハムとエルマ・クラウゼは、泣きながら走り寄って私に抱きついてきたし、元侍女頭のヒセラ・モンカナは、事件の知らせを聞いて失神してしまったらしく、そのまま今も寝込んだままなのよ。
皆にこんなにも心配をかけてしまったこと、本当に申し訳なく思っているわ。
……でも、そもそもこうなってしまったのは、私たちのせいではないとも思うけどね。
じゃあ、そろそろ話を戻すわね。
審問会に出席して欲しいとの連絡を受け取った私とリリは、離宮から一緒に馬車に乗ってギルドへと来たのだけれど、聴き取りは2人一緒にではなく、1人ずつ個別に行うみたいで別室に通されたの。
私が呼ばれた方の部屋で、私を待っていたのは3人よ。そのうち2人が審問官で、1人は書紀官だと思うわ。
殆どの質問は若い方の審問官がして、年配の審問官はずっと、ただ黙って私たちの話を聞いている感じね。
「襲ってきたダーガルウルフの総数は15匹。2匹をリリ嬢が剣にて斬殺。3匹を貴女の “従魔” が撲殺した。ということで、相違ありませんか?」
「ええと……。それに関しては、私はあの時、ずっとリリとセレストに庇われてしゃがみ込んでいただけなので、正確には分かりません」
「そうですか」
実際、あの時の私はただの役立たずだったと自分でも不甲斐なく思うわ。
私が持っていたものといえば、薬草を採取するための小さなナイフ1本だけ。あれは……とてもじゃないけれど “武器” と呼べるようなものではなかったけれどね。
「貴女の方で他に何か確認しておきたいこと等はありますか?」
「……特にありません」
「そうですか。では、他にこちらから確認すべき事項もありませんので、もうお帰り頂いて結構ですよ」
若い方の審問官はもう帰って良いと言ったし、書記の人もペンを机に置いたので、私は席を立ったの。
そうしたら、年配の方の審問官の方が扉のところまで私を追いかけて来て、小さな声で私に聞いたのよ。
「貴女の連れている従魔は、本当にシルバーリオネルなのですか?」
「えっ?」
「いやいや。従魔登録には、ギルドマスターも立ち会ったと伺っています。私は何も、それを覆そうという意図を持っているわけではありません。ただ、シルバーリオネルの “亜種” だという貴女のその従魔に、私は少しばかり興味を引かれているのです」
「……そうですか」
◇ ◇ ◇
「先程、ハインリッヒ殿下の使者だと仰る方がお見えになり、ルイーズ様宛のお手紙を預かっております」
ギルドの審問会から戻ると、離宮の執事長のクラウス・アインホルンがそう言って私に封筒を手渡してくれたの。
やっぱり、今回の件はしっかりハインツ殿下のお耳にも届いてしまったみたいね。
「それから……。明日からしばらくの間、ルイーズ様は離宮ではなく、王宮にてお過ごしになられるように、とのことです」
「えっ?」
「到着までには、王宮のルイーズ様用のお部屋を整え終える予定だと、伺っております」
「ええと……。つまりそれって、やっぱりお断りはできないってことよね?」
クラウスは、少し困ったような笑顔を浮かべながらも、しっかりと頷いたわ。
今回の騒動は、私が想像していたよりも多方面に影響を及ぼしているみたい。
ハインツ殿下だけでなく、マキシミリアン陛下の耳にまで届いているなんて思わなかったわ。
元々私が冒険者ギルドに登録することになったことの始まりは、セレストが聖獣だという事実を隠すことが目的で、これに関してはマキシミリアン陛下も一枚噛んでいるの。
どこからどう話が伝わったのかは分からないけれど、心配して下さっているのでしょうし、王宮へ行くしかないわね。
「今晩すぐに移動を」とならなかったのは、セレストも一緒に過ごせるように王宮の私用のお部屋を整えるのに手間取っているからってことでしょう?
何せ仔猫のようだったセレストは、ほんの短期間で随分と大きくなってしまっているから。
侍女のジネットとエルマには同行してもらうとして……。まだ寝込んでいるヒセラは、離宮に残す方が良いわよね。
「あの、ルイーズ様。こちらの袋に入っているのが何かをお伺いしても宜しいでしょうか? もしかすると、これも薬草なのではありませんか? 採取した薬草は、ギルドに全て納品したとのことでしたが……」
「えっ?」
ああ、そうよ! そうだったわ!
私たちがダーガルウルフを撃退した後、ああ、違うわね。ダーガルウルフを撃退したのはリリとセレストよ。私はガタガタ震えていただけだったわね。
そう、あの後。リリが運良くレイモニック草を見つけてくれて、城門の警備隊が来るまでの間に、取り敢えず1株だけ、大急ぎで根っこごとレイモニック草を採取して袋に入れておいたのだったわ。
私ったら、そのことをすっかり失念していたわ。
「枯れてしまったかしら?」
「今はまだ。ですが、次にルイーズ様が冒険者ギルドを訪問するまでには、すっかり枯れてしまうでしょうね」
「ねえ、クラウス。中庭の横の散歩道の先に、何も植えられていない、元は花壇だったような場所があるのを知っていて?」
「もちろん存じております。そこでしたら、以前はそれはそれは美しい花壇だった場所です。人手不足で庭師が足りず、その辺り一帯は残念なことにすっかり放置されておりますが」
「そうなの? だったら私、できればそこを花壇ではなく畑にして、この薬草を植えてみたいのだけれど……。貴方はどう思う?」
お越し頂き & お読みいただき、ありがとうございます♪
この作品は、ちょっとゆっくり目の更新になりそうですが、続きが気になる! と思って頂けましたら、是非ブックマークや評価をお願いします!
思わず嬉しくなって、更新ペース上がっちゃう……かも?
評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすれば出来ます。




