27 第四皇女の大きな従魔。
「ルイーズ。急なのだが、明日からしばらくの間、任務で王都を離れることになった」
「飛竜騎士団のお仕事ですか?」
「まあ、そんなところだ。戻れる日がはっきりと決まっていないので、約束していた薬草採取に僕は行かれそうもない」
お茶会の途中で、ハインツ殿下が私にそう告げたの。
ああ、そうね。そろそろ冒険者ギルドに行って、何かしらの依頼を受けなくてはならない時期だわ。
グルノー皇国からザルツリンド王国へ向かう途中で通過した “聖なる森” で、私は弱りきっていた小さな仔猫を保護したつもりだったのだけれど……。
結果として、仔猫だと思って私が保護したその生き物は仔猫ではなく、まさかの聖獣ルーナリオンだったのよ。
聖獣って、どうやらその辺にごろごろいるような生き物ではないらしくて、大騒ぎになるのを避けるため、マキシミリアン陛下からの指示もあって取り敢えず私のところに聖獣がいることを秘匿することにしたの。
その方法としてハインツ殿下が提案したのが、冒険者ギルドに私の “従魔” として登録すること。聖獣としてではなく魔獣として登録するの。
えっと、何だったかしら……。ああ、そう! シルバーリオネルよ!
それでね、従魔登録をするには従魔の主である私が冒険者である必要があるらしくて、私も冒険者登録をしたのだけれど……。
「次の薬草採取には、僕の代わりにリリカ・ルーゲルを同行さようと思っている」
「えっと、彼女も冒険者なのですか?」
今、話に出たリリカ・ルーゲルは、3人いる私の護衛騎士の1人で、ハインツ殿下が率いている第7分隊とは別の分隊に属している女性飛竜騎士でもあるのよ。
ああ、そうだったわ! 私が冒険者登録をした件、ちゃんと最後まで説明していなかったわね。
冒険者登録自体は(おそらく)誰でも可能みたいだけれど、冒険者であり続けるためには、定期的にギルドで依頼を受けて、その依頼を達成する必要があるのですって。
つまり、セレストを私の側に置くためには、セレストをギルドに従魔登録する必要があって、そのためには私がギルドで冒険者になる必要があって、その私が冒険者であり続けるためには定期的にギルドの依頼を受ける必要があるってことなのよ。
ご理解頂けたかしら?
「任務で従魔と対峙する関係もあってのことだと思うが、飛竜騎士には冒険者登録をしている者が多いよ。ここにいるヨハンもアーレンも。それからあっちにいる者の中にもね」
「まあ、そうだったのですね!」
飛竜騎士様たちは、自身の腕を磨く目的を持って、定期的にギルドで魔獣討伐の依頼を受けたりもするらしいわ。
飛竜騎士団の任務として魔獣の討伐を行った場合には、討伐された魔獣は全て飛竜騎士団の管理下に入るそうなの。
でも、個人的に討伐した魔獣は別だそうよ。素材を個人的に使用するのも、ギルドを通して販売するのもそれぞれの自由。
良いお小遣い稼ぎにもなるのだと、そういえば以前聞いたことがあるわ。
「確か、リリカ・ルーゲルの冒険者ランクはCランクだったと思う。ルイーズがいつも薬草を採取しているあの場所への同行なら、Dランク以上の冒険者であれば問題ない筈だ」
「そうですか」
「ルイーズ、薬草採取の際は決して深入りはしないこと。それから、必ずセレストも採取に連れて行くこと。良いね?」
ハインツ殿下は、いざという時は “従魔” としてセレストが私の護衛もするだろうと信じているみたいなのだけれど……。たぶん、それは無理だと思うのよね。
だって、体は随分と大きくはなったけれど、セレストは相変わらず甘ったれの小さな仔猫みたいだもの。
「ハインツ隊長。“セレスト” というのは、ルイーズ様が育てている聖獣のことですよね?」
「そうだ」
「確かルーナリオン、でしたか?」
「ええ、その通りですわ」
あらら? どうして飛竜騎士のアーレン・ガンズ様もセレストが聖獣のルーナリオンだと知っているの? 私が聖獣を保護していることって、秘匿事項なのではなかったかしら?
ああ、そうだわ!
私をゼーレンの離宮まで送り届けて下さった第7分隊の騎士様たちは、保護したばかりでまだ小さかった頃のセレストのことを間近に見ているのだったわね。
「あの。もし宜しければ、ルイーズ様のルーナリオンを見せて頂くことは可能でしょうか?」
「セレストを、ですか?(えっと……。見せても良いのかしら?)」
「第7分隊の隊員になら、僕は見せても構わないと思うよ」
「……ハインツ殿下が、そう仰るのであれば」
「ありがとうございます!」
私の返事を聞いて、アーレン様の目がキラキラと輝き出したわ。
アーレン様は動物がお好きなのかしら?
「では、今から部屋に戻って、セレストを連れて参りますね」
「えっ! ルーナリオンは今、ルイーズ様のお部屋にいるのですか?」
「ええ、そうです」
「普段から? 獣舎にいるのではなく?」
「ええと……。“じゅうしゃ” とは何でしょう?」
「ルイーズ。わざわざ君が行かずとも、誰かにここまでセレストを連れて来て貰ったらどうだい? ジネットか、エルマになら頼んでも大丈夫だろう?」
「はい。あの2人でしたら」
離宮の中であればセレストはどこにでも私と一緒に歩き回るので、離宮の人たちはセレストのことを見慣れてはいるわ。でも、どうしてだか積極的にセレストに近付いて来る人はほとんどいないのよね。
だからセレストの方も、限られた人にしか気を許していないみたい。
「では、私が皆に今からここに聖獣が来ることを予め伝えておきましょう。騎士たちが騒いで、聖獣を驚かせてしまっては困りますからね」
「そうだな。頼むよ」
そうね。第7分隊の副隊長をされているヨハネス様は、時々隊長のハインツ殿下と離宮にいらしているからセレストを見慣れているけれど、あの日の小さかったセレストしか知らない他の騎士様たちは、今のセレストを見たらきっとビックリされるでしょうね。
ふふふ。話が伝わったのね。お菓子を食べていたルドファー様の手もピタリと止まったわ。
◇ ◇ ◇
「あの時の騎士様方の驚きようといったら、今思い出しても可笑しくて……。ぐふふ」
「そうね。でも、エルマはちょっと笑い過ぎだったと思うわよ」
「ルイーズ様。そうは仰いますが、ポカンと口を開けている方や、セレストが近付いたので思わず後退りをされた方もいらして、情けないやら、可笑しいやら」
「それも仕方ないと思いますわ。あんなに小さかった仔猫がここまで成長するなんて、誰だって想像もしていなかったと思いますもの」
「まあ、そうかもしれませんけど……。ジネットさんはあの光景を見て、よく笑わずにいられましたね」
扉が開いて、ジネットとエルマに連れられたセレストがサロンに入って来た瞬間、それまで賑やかだったサロンの空気が一変したの。
ジネットが言ったように、たぶん皆の想像よりも、セレストが遥かに大きかったからだと私も思うわ。
だって、今のセレストはまだ成獣にはなっていないはずなのに、狼よりも(←私は実物を見たことはないのだけれど)ずっと大きいらしいから。
「それでもセレストは、あの見た目で、中身はあれですからねぇ。むふふ」
「セレストだけが悪いのではありません。手を離してしまった私にも、問題はあったと反省しています」
サロンの入り口で、部屋の奥のソファーに座っていた私に気付いたセレストは、ジネットを振り切って勢いよく駆け出してしまったのよ。
竜騎士様の多くは、大きな獣がハインツ殿下の方向へ一直線に駆け抜けたのを見て、とても慌てた様子だったけれど、普段からセレストの行動を熟知しておられるハインツ殿下が皆様を制止されて……。
「最終的にセレストは、ハインリッヒ殿下ではなく、ソファーに座っておられたルイーズ様に襲いかかった」
「エルマ、変な言い方をしないで! セレストは私に襲いかかったりなんて、絶対にしないわ!」
「ですが、側から見れば、そういう風に見えましたわ」
「ですよねー」
まあ、そんなこんなでいろいろあったけれど、第7分隊の皆様にもセレストを紹介できたし、今回のお茶会は大成功だったと言っても良いわよね。
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