25 第四皇女と特別な昼食会。
建国祭から数日後のこの日。私は離宮で特別な昼食会を企画したの。
その昼食会に招待させて頂いたお客様は、ハインツ殿下と、ヘンラー公爵ご夫妻の合わせて3名。
ヘンラー公爵は、ハインツ殿下の母上様のファラーラ王妃のお兄様に当たる方よ。
だからその奥方様であるファーベリアンヌ様は、殿下にとっては、義伯母様ってことになるわね。
私もヘンラー公爵ご夫妻とは縁あって、とても仲良くさせて頂いているのよ。
ハインツ殿下から伺った話によれば、ヘンラー公爵夫妻は “食通” としても知られているらしいわ。
それもあって、ゼーレンに店を構える料理人たちの多くが『ヘンラー公爵のお墨付き』を欲しているのですって。
つまり、ヘンラー公爵夫妻が気に入った店は必ず繁盛するってことみたい。それって、とても凄いことだと思わない?
まあ、それはさて置き。
本日の料理に関しては、グルノー皇国から専属料理人としてザルツリンド王国へ私と一緒にやって来たローラに一任しています。
グルノー皇国出身のローラにとっては馴染みのある特別な食材をふんだんに使って、昼食会用のスペシャルなコース料理を提供する予定になっているのよ。
コース料理の内容は、前菜、スープ、メインディッシュ、デザート、それから〆のカフェまで。
流石にローラ1人だけで全てのお料理を仕上げるのは難しいだろうということで、離宮で働く料理人の中から1人だけ、トーマス・ダイナーが作業のお手伝いをしてくれることになっています。
「本日のメイン。白身魚のポアレ 季節の野菜添え でございます」
ついに今回の昼食会の成否を決定すると言っても過言ではない “お魚を使ったメインディッシュ” がなんとも食欲をそそる良い匂いと共に、テーブルへと運ばれてきましたよ。
「まあ、なんて綺麗な盛り付け!」
「ああ、凄く美味しそうだね」
くふふ。思った通りだわ。
ローラが考えに考え抜いた末に選んだこの一皿は、まずは見た目と香りだけでヘンラー公爵ご夫妻のお心をがっちりと捉えたみたいだわ♪
私の専属料理人としてザルツリンド王国へとやって来たローラは、グルノー皇国のレンファス城の料理長と、私の大好きな料理人のメラニーの娘なのよ。
ローラはザルツリンド王国へ向かうことが決まった私に自分の夢を託して、私と一緒にこの国へとやって来たの。
グルノー皇国以外の土地に暮らす人々がどんなものを、どんな料理方法で、どんな味付けで、どんな風に食べているのかを知りたい。他所の国の料理を自分でも食べてみたいし、自分の作るものを他所の国の人たちにも食べて貰いたいのだと言って。
だけど、実際にザルツリンド王国へ到着後に、ここゼーレンの離宮に入ってみると……。
既にいた離宮の料理人たちは、他所の国から来たローラのことを、そう簡単には受け入れてはくれなかったのよ。
その理由は、ローラが『料理人として絶対に必要とされている技量を欠いているから』なのだそう。
肉料理が作れない者は、料理人としては問題外なのですって。
でもね、その考えは絶対に間違っているわ!
ローラは肉料理が作れないのではなくて、肉料理を作った経験がまだないだけなのですもの。
そもそも、グルノー皇国にはお肉を食べるという習慣がないの。
それにはいろいろと理由があるのだけれど……。“性数差” って、分かるかしら?
どういった理由でそうなっているのかは今のところまだ解明されていないのだけれど、グルノー皇国に生まれる国民は男性に対して、圧倒的に女性が多いの。
でもそれは、どうやら人間だけに限ったことではないみたい。野生の動物にも、飼育している家畜にも何故だか同じ現象が起きるのよね……。
ああ、もう! この話を始めると長くなってしまいそう!
だから今回は、詳しい解説をすることを省いたって、許されるわよね?
兎に角。肉料理に関しての経験値がザルツリンド王国の料理人たちよりも低いだけで、ローラはやれば絶対にできる子だと私は思うのよ!
そこで、考えついたのが今回のこの作戦。
題して『ローラの料理で公爵ご夫妻を唸らせて、離宮の料理人たちを納得させよう大作戦!』よ。
「まあ、本当に美味しいわ! 私、お魚を使ったお料理をこれ程美味しいと感じたのは初めてよ」
「確かにそうだね。今まで食べてきたどの魚よりもこれは味わい深い。できるならばおかわりをして、ずっと食べ続けていたいくらいだ」
うわっ。想像していた以上に好感触! 流石はローラだわ!
くふふふふ。これは、手応えありありのありだわね。
今日のメインに選んだ “白身魚のポアレ” は、私も大好きなメニューよ。
新鮮な白身のお魚をバターでカリッと香ばしく焼き上げて、こちらも新鮮なアサリをたっぷりと使って作ったソースをかけてあるの。
付け合わせのお野菜はザルツリンド産の物。食べ慣れた食材が添えられていた方が良いだろうっていう、ローラの配慮が感じられるわね。
「それにしても……。これだけ新鮮な魚や貝を、いったいどうやって入手したのかを知りたいね」
「そう言えば、そうね。これは、川や湖ではなく、海でとれるものでしょう?」
「義伯母上。これらの食材は、ルルーファ王国の港から特別に取り寄せたとれたての海産物ですよ」
「あらハインツ。もしかして、貴方もこの昼食会に一枚噛んでいたりするの?」
「ちょっと飛竜騎士に、ルルーファ王国まで飛んでもらっただけですよ」
「まあ、それはそれは」
ベル様が、何かを察したかのようにハインツ殿下に向かって微笑まれたわ。
ヘンラー公爵もベル様も、私が急遽設定したこの昼食会に、なんらかの意図があることは見抜いていらっしゃるみたい。
「あの、私が殿下にお願いしたのです。ローラのために、新鮮な海産物をどうにかして入手することはできないかと」
「ローラというのは……。ルイーズちゃんがグルノー皇国から連れて来た、貴女の専属料理人だったわよね?」
「そうです」
「あの娘さん、菓子職人なのではなかったの?」
「いいえ、違います。ローラはお菓子だけでなくなんでも作れます! 今日のこの昼食会も、献立の立案から調理まで、全てローラの手によるものです」
「まあ、そうだったのね!」
「ほう、それは凄いな。今まで我々が食べたもの全てをあの娘さんが? ルイーズ姫は、随分と腕の良い料理人を連れて来たんだね」
「ルイーズちゃんのところのお菓子が凄く美味しいってことは知っていたけれど、お菓子だけでなかったのね」
「はい」
「それで? わざわざこの国の王子に他国の港から海産物を運ばせてまで、君がこの食事会を開きたかったわけをそろそろ聞かせて貰えるかな?」
◇ ◇ ◇
「そうしたら、ローラは今後、調理場への立ち入りが自由になるのですか?」
「すぐには難しいかもしれないけれどね。でも、離宮の料理人たちも、ローラが今日作ったお料理でヘンラー公爵夫妻から絶賛されたことは知っている筈だし、徐々にでも受け入れてくれるようになると思うわ」
特別な昼食会は無事に終わって、ハインツ殿下もヘンラー公爵夫妻もローラの作る料理に満足されて離宮を後にされたわ。
そんなわけで私は今、今日の昼食会で残った焼き菓子と、ジネットが淹れてくれたミルクティーでほっと一息ついているところよ。
「若手料理人の何人かは、既にローラに魚の下拵えの方法を聞いたりしているらしいですよ。代わりに肉の下拵えを教えるからと言って」
「あら、それは素敵な提案ね」
エルマったら、昼食会が終わってからのこの短時間で、どうやってそんな細かい情報まで仕入れて来たのかしら。
でも、兎にも角にもエルマの情報が真実なのだとしたら、ローラにとって良い傾向であることは確かだわね。
「ルイーズ様は、ハインリッヒ殿下と、それから、ルルーファ王国へ飛んで下さった竜騎士様に感謝しないとですね!」
「そうね! 確かにそうだわ! 今日のこの素晴らしい成功は、あの新鮮な海産物あってこそだもの」
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