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22 第四皇女と王宮の祭り。

はぁぁ。

昨日の私の担当護衛騎士のフランシーヌ・ミーレン様と、やたらと情報通の侍女のエルマ・クラウゼから、いろいろと複雑な事情を聞いてしまったこともあって、この晩餐会も、それから、その後に開かれる舞踏会に出席するのも、なんだか憂鬱になってきたわ。



「どうした? 珍しいな、溜息なんかついて。今からルイーズの大好きな肉料理がテーブルに並ぶというのに」



第二王子の婚約者ということで、私の席は陛下や王妃様と同じ長テーブルに用意され、ハインツ殿下が私の右隣に座っているの。

ちなみに私の左隣は、王弟のヨーゼフ・フォン・ハイド公爵閣下よ。



「お前の姫君は、こんな(かしこ)まった場に並べられる肉料理なんかよりも、街の屋台の串焼きの方がお好きなんじゃないのか?」

「えっ?(今、なんて?)」

「叔父上! 声が大きいです!」

「ああ、すまん。私もそうだから、つい、な」

「ルイーズ。叔父上は元々こういう方だから、いちいち気にせず放って置いて良いよ。実は……叔父上に先日僕たちが行った “街歩き” の様子を、すっかり目撃されていたらしいんだ」

「そうなのですか?」



ヨーゼフ・フォン・ハイド公爵は、マキシミリアン陛下の実弟で、継承順位は第二王子であるハインツ殿下に次ぐ第3位。

お隣に座られている奥方様との間に3人のお子さまがいらして、そのうちの2人が男児なので、彼らが現在は継承順位第4位と第5位なのだそうよ。



「私も冒険者ギルドには登録しているからね。丁度あの日は依頼を受けようと思っていて、()()()()城下を彷徨(うろつ)いていたんだよ」

()()()()、ですか」

「なんだハインツ。もしかして、私を疑っているのか?」

「ええ、まあ。叔父上の場合、日頃の行いが行いですしね」



あら。このお2人、随分と仲がよろしいのね。

ハイド公爵は、王族っぽくない屈託のない笑顔をハインツ殿下に向けておられるし、殿下の方もかなり打ち解けた表情をされているもの。



「そうだ、ハインツ。例の件はどうだ? もう落ち着いたのか?」

「はい。今年も無事に」

「そうか。それは良かった」



お2人が何のお話をされているのか分からないので、私は前菜を頂きながら、晩餐会に出席している方たちの様子を眺めることに致しましょう。

お肉料理が運ばれてくるのは、まだまだ先のようですし。


今日の晩餐会は “建国祭” というだけあって、随分と参加者が多いのね。

今、私が座っている長テーブルは大広間の最奥にあって、国王陛下と成人済みの家族がずらりと横並びに座っているの。

その長テーブルが横向きだとしたら、縦方向にもっとずっと長いテーブルが5列。

招待されているのは爵位を持つ貴族とそのパートナーだけだというお話だったけれど、いったい参加者は総勢何名なのかしら?


王家に近しい方々の席は、私たちが座っているテーブルから近い位置に配置されているようで、陛下と王妃様から近い席にヘンラー公爵と、奥方のベル様が座っていらっしゃるのが見えるわ。

フランシーヌ様から聞いていた通り、ほとんどの方がご夫妻で参加されているようね。まだ爵位を持たない若い方々は、この後の舞踏会から参加するそうよ。

アリシア様はどこかしら? ハッセン伯爵と一緒に出席されている筈よね……。

あっ。ラディスラウス殿下の前のテーブルに座っているあの女性って、やっぱりアルマンダ・フォン・ジャビル公爵令嬢よね?

真っ赤なドレス……。ちょっと目立ち過ぎでは?



「ルイーズ。次はいよいよお待ちかねの肉料理だよ」



  ◇   ◇   ◇



「まあ、副隊長さんは侯爵家の方だったのですね!」

「ヨハネス・レングナムです」



晩餐会の後に開かれた舞踏会の方には、若い貴族のご子息やご令嬢も数多く参加していて、私と、グルノー皇国から一緒にこの国に来てくれた侍女のジネット・シャルハムを王都まで運んで下さった竜騎士の方とも再会できたわ。


今私の目の前にいる方が、ハインツ殿下が隊長を務めているザルツリンド王国飛竜騎士団第7分隊で副隊長をされているヨハネス・レングナム様。

覚えているかしら? 私がレンファス城の裏庭に飛んで来ていた飛竜を見に行ったあの日、ハインツ殿下と一緒に裏庭にいて、お城の警備の者に散々文句を言っていたあの騎士様のことを。

あの時、文句を言いながらも、腰を抜かしてしまったジネットのことを親切に運んで下さったのよね。


ヨハネス様は、レングナム侯爵家の次男で、ハインツ殿下とは同い年。2人は幼馴染なのですって。

ちなみに、ヨハネス様のお父上のレングナム侯爵は、ザルツリンド王国の宰相をされている方だそうよ。ビックリだわ!



「お疲れ様です、ハインツ隊長。ルイーズ姫君、お久しぶりです!」

「なんだ、ルドファー。お前も来ていたのか」

「来てますよ、隊長! 今日こそちゃんと僕のことをルイーズ姫君に紹介して下さいね!」



あら。この方も第7分隊の騎士様よね? 確か、とってもお酒が弱かった覚えが……。



「ルドファー・ノルマンです!」

「こう見えて、ルドファーも侯爵家の子息だ」

「こう見えてって何ですか! 酷いですよ、ハインツ隊長!」

「ノルマン? あら、最近どこかで聞いた覚えがある気が……」

「もしかして、王宮の図書室ではないですか?」

「ああ、そうよ。そうだわ! 司書のカロライン・ノルマンさん。もしかしてご親戚かしら?」

「そうです。カロライン・ノルマンは僕の祖母です! 姫君が図書室で会ったのは祖母だけですか? 姉のミーリアも、祖母と一緒に図書室で働いているんですけど」

「いいえ。その日はカロラインさんお1人でしたわ」



そんな感じで、私が第7分隊の方たちとお喋りを楽しんでいると、いつの間にかハインツ殿下が大勢のご令嬢方に取り囲まれているではないですか!



「今日もまた、ご令嬢方のパワーは凄いっすね。婚約者のルイーズ姫君がすぐ近くに居るっていうのに、てんでお構いなしで。ねえ、ヨハネス副隊長。ハインツ隊長のことを助けに行った方が良くないですか?」

「ハインツなら、放って置いても問題ない思うぞ。相変わらず、令嬢相手に愛想笑いのひとつも浮かべやしない。あの様子だったら、すぐにこっちに戻って来るだろう」

「そうですか? なら、良いんですけど……」



ルドファー様は私を気遣って下さいますが、私はまだハインツ殿下の婚約者ではなく、あくまでも婚約者候補の1人に過ぎません。

それに、私は既に殿下と1曲踊っておりますし……。殿下とダンスをしたいと切に願っていらっしゃるご令嬢方を、片っ端から牽制して歩く程私は愚か者ではございませんわ。



「うわぁ。副隊長、見て下さい! なんだか凄いのが来ましたよ」

「あの親子。まだ懲りずに付き纏うつもりなのか?」



ヨハネス様の、心底呆れたようなその口振りに振り返ると、かなり恰幅の良い男性と、真っ赤なドレスをお召しになったご令嬢が、ハインツ殿下を取り巻いているご令嬢方を掻き分けるようにして、殿下の方へと近付いて行く姿が私の目にも飛び込んで来たの。



「あれって……。確か、ジャビル公爵と、そのご令嬢ですよね? 随分とまた、煌びやかですね」

「煌びやか? おいおい、ルドファー。悪趣味の間違いだろう?」



もしかすると、ヨハネス様はアルマンダ様がお嫌いなのかしら?

まあ確かに、あのドレスが良い趣味だとは……私も思いませんけれど。



「あの狸親父。数年前までは第一王子派の筆頭だったくせに、手のひらを返したように、ここ最近、急にハインツに擦り寄って来て……。全く、どういうつもりだ!」

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