19 第四皇女と第一王子。
今日は “勉強会” の日なので、私はいつものように王宮へとやって来たのですが……。
馬車寄せまで私を迎えに来てくれた方に案内されて、いつもの部屋へ向かっている途中の廊下で、何やら慌てた様子の先生に呼び止められたの。
「ルイーズ姫殿下! 急を要する案件が持ち上がり、私は今からそちらへ向かわなくてならなくなりました。大変申しわけないのですが、本日の授業は中止とさせて頂きたい!」
「まあ、それは大変ですね。私の方は構いませんので、先生はどうぞすぐにそちらへ向かわれて下さいませ」
「お心遣い痛み入ります。では」
あらあら。余程お急ぎの案件のようですね。先生はマントを翻し、去って行かれました。
今日は、たった今走り去られた先生の授業の他にも、昼食後に、他の先生の授業の予定も入っているよのね。
うーん、どうしようかしら。キャンセルして離宮に戻るわけにもいかないし……。困ったわね。かなり空き時間ができてしまったわ。
「ルイーズ様。もし宜しければ、王宮の図書室で昼食までのお時間を過ごされては如何でしょう?」
そう私に提案してくれたのは、先日この王宮内にある騎士団の訓練所で行われた “護衛騎士選定” で私の騎士となることが決まった3人のうちの1人。アリシア・ハッセン様よ。
あの日以降、何処かへ出かける際には3人のうちの誰か最低でも1人を、常に同行させるようにと言われているの。
「図書室ですか? 許可を取らずに私が王宮の図書室を利用することができるのですか?」
「問題ないと存じます」
「まあ! それならば、是非図書室へ案内して下さいませ!」
「かしこまりました。こちらです」
ハインツ殿下と一緒にゼーレン中心部にあるザルツリンド王立図書館に行った際、殿下から近いうちに王宮の図書室を案内して頂けるような話を伺ってはいるのだけれど……。
きっとお忙しいのでしょうね。なかなか実現しないでいたの。
だから、これは私にとっては願ってもないお申し出なのよ!
私はアリシア様に案内されるまま、王宮の奥へと進み、中庭がよく見える廊下を抜けた先にある別棟へ足を踏み入れたわ。この棟へ来るのは初めてだわね。
「図書室内の右側奥にある扉のお部屋には、許可がなければ立ち入ることはできませんのでご注意下さい。それ以外の場所の本でしたら、ご自由にお読み頂けます。不明点は図書室の担当者にお尋ね下さい。私は、昼食の時間になったら迎えに来てくれるように頼んで参ります。少しの間外しますが、ルイーズ様はこちらでごゆるりとお過ごし下さい」
「分かりました。案内感謝します」
王宮内の図書室に居るのであれば、私が1人だとしても安心らしく、アリシア様は私を残して立ち去ってしまわれたわ。
だから私は、この奥に居るという図書室の担当者を探すことにしたのよ。
ご自由にとは言われたけれど、一応は声を掛けておいた方が良いと思うもの。
うわぁ、とっても素敵!
奥へと続く部屋の両側の壁には、2階の天井付近まで本がぎっしりと並べられていて、王立図書館には到底敵わないでしょうけれど、蔵書数はかなり多そうね。
本棚よりも更に高い位置に明かり取り用の窓があるので、図書室内は思った以上に明るいわ。
部屋のあちこちに貴重な調度品が配置されているから、図書室というよりは、むしろ博物館みたい。
図書室の担当者と思われる人は、すぐに見つけることができたわ。だって、王宮図書館の司書さんと似たような服装をしているのだもの。
「こんにちは。こちらで本を読みたいのですけれど……。えっと、ルイーズ・ドゥ・グルノーです」
「まあ、グルノー皇国からお越しのルイーズ姫殿下ですの? ようこそ、王宮図書室へ! 私、こちらの図書室で司書をさせて頂いております、カロライン・ノルマンと申します。以後お見知り置き頂ければ幸いです」
「昼食の時間まで、こちらで本を読みたいのですけれど……。良いかしら?」
「もちろんです。奥にソファー席がございますので、そちらへご案内致しますね。お茶のご用意は如何致しましょうか?」
「いいえ、必要ないわ」
折角だけれど、お茶を飲みながら本を読んでいて、もしも貴重な本を汚してしまったら大変。
この図書室の司書だというカロライン・ノルマンさんは、かなり白髪が混じっているものの、長い髪を綺麗に結い上げた、物腰の柔らかな女性よ。
彼女の他に人のいる気配はないけれど……。この広い図書室をお1人で管理されているのかしら?
途中で、アリシア様が言っていた “ 許可がなければ立ち入ることはできない部屋” の前を通過した際、司書のカロラインさんから「勝手にお入りにならないよう」にと、言葉はやんわりとだけれど、しっかりと念押しされたわ。
あの扉の先にあるお部屋には、余程貴重な本か、そうでなければ絶対に見られたくない本が置いてあるのでしょうね。
◇ ◇ ◇
司書のカロラインさんに案内してもらったソファー席で、そうね、1時間くらいは本を読んでいたかしら。
不意に静寂を打ち破って、段々と近付いて来る足音に気付いたの。
カロラインさんは音のしない靴を履かれていたし、護衛騎士のアリシア様の履かれているブーツの音とも違うわね。
読んでいた本を置いて振り返ろうとしたその瞬間、足音の主の方から私に声をかけてきたわ。
「こんにちは。ルイーズ姫」
「まあ、ラディスラウス殿下! ごきげんよう」
そこに立っていらしたのは、第一王子のラディスラウス殿下だったのよ。
ラディスラウス殿下から少し離れた位置に、おそらくはラディスラウス殿下の護衛と思われる騎士が2人。それから、そのすぐ近くに私の護衛騎士のアリシア様の姿も見えるわ。
「ルイーズ姫は読書がお好きなのですね。凄く熱心に読まれているようでしたが、いったいどのような本を?」
「今は……。えっと、魔獣に関する本を……」
「魔獣ですか? それはまた随分と面白い本を読まれているのですね」
「実は、私の侍女と料理人がこの国に入る際に乗っていた馬車がガーダルウルフに取り囲まれたそうなのです。なので、ガーダルウルフがどんな魔獣なのかを知りたくて。ですが、いくつか本を借りたのですけれど、どこを探しても全然ガーダルウルフが見つけられなくて……」
私の答えが余りにも予想外だったのか、ラディスラウス殿下は一瞬驚いたような表情を浮かべた後で、何故かクスクスと笑い始めたの。
ん? 殿下の後に控えている騎士の方たちも、もしかして必死に笑うのを堪えていたりする?
私が魔獣の本を読むって、そんなにおかしなことなのかしら?
「それなら、たぶんガーダルウルフではなく、ダーガルウルフですよ。ちょっとその本を私に貸してみて下さい。えっと……。ほら、ここ!」
ラディスラウス殿下は積まれていた本の1冊を手に取ると、素早くページを捲ってから、私に見やすいように本を手渡して下さったの。
「あらら、本当だわ! 魔獣の名前が間違っていたのですね。だからどんなに一生懸命探しても、全然見つからないわけですね」
「そのようですね」
◇ ◇ ◇
「では、15年前に聖女グレーテ様がラディスラウス殿下に “癒し” を?」
「そう仰っていたわよ」
あの後、私とラディスラウス殿下はそのまま図書室でお話をしたのだけれど、その時に殿下から驚くようなお話を聞かせて頂いたの。
15年前。叔母上は聖女としてではなく、アルフォンスお祖父様の名代の皇女としてこの国を訪問されたそうなの。
表向きには、両国の友好を深めるため。
でも、訪問の本当の目的は、生まれつき病弱だったラディスラウス殿下に “聖女の癒し” を与えるためだったのですって。
どうやら、聖教会を通さずに秘密裏に行われた “癒し” だったらしく、ザルツリンド王国内でも、もちろんグルノー皇国内でも、その事実を知る人は少ないそうよ。
そう長くは生きられないかもしれないと医師から告げられていたラディスラウス殿下なのだけれど、“聖女の癒し” の効果があったのか、その後、体調は徐々に回復していったのだと話して下さったわ。
私がザルツリンド王国へ行くことになるだろうとお手紙で叔母上にお伝えた時、そんなことがあったなんて話は教えて下さらなかったのよね。
今でもきちんと秘密を守られているのか、聖女として行った数多くの “癒し” の1つに過ぎないのか。それとも、昔の話だからと忘れてしまっているのか?
ふふふ。グレーテ叔母上なら、すっかり忘れている可能性が一番高そうだわ。
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