18 第四皇女の護衛騎士選定。
「やめーーーーい! 勝者、アリシア・ハッセン!」
審判をされていた近衛騎士団長の大きな声が響き渡った瞬間、訓練所内は、大きな歓声と、それに混じって何故か黄色い歓声と、物凄い拍手に包まれたわ。
舞踏会の数日後の今日。王宮内にある騎士団の訓練所で行われているのは第二王子の婚約者(候補?)のための “護衛騎士選定”。
試合という形で剣の腕を競い合い、陛下が参加者の中から護衛騎士を選定するのだそうよ。
ザルツリンド王国には、ハインツ殿下が所属していらっしゃる飛竜騎士団の他にも、いくつかの騎士団があるらしいわ。
聞くところによると、その全ての騎士団に所属している女性騎士たちに向けて『ルイーズ・ドゥ・グルノー姫殿下の専属護衛騎士を選定する』旨が通達されたのですって。
私のための護衛騎士を選ぶのだから、私はどうしてもその選定で行われる剣術の試合を見に行きたくて、ハインツ殿下に無理を言って、マキシミリアン陛下からどうにか見学のお許しを頂いたの。
というのも、本来、騎士団の訓練所には騎士団の関係者しか立ち入れないらしいのね。
関係ない者が訓練所内を彷徨けば、鍛錬の妨げになるでしょうし、万が一、事故でも起きたら一大事だから。
マキシミリアン陛下は、私の為に3名の専属護衛騎士をつけて下さる予定だったらしいのだけれど、予想以上に参加希望者が出たそうで、全ての試合を見るには時間が掛かりすぎるからと、私は “勉強会” を少し早めに切り上げて、最後の数試合だけ観覧を許されたのよ。
でも見学を陛下に願い出たのは、どうやら私だけではなかったようで……。
今日の “護衛騎士選定” には、王妃様や王太子妃様の護衛を務めている女性騎士の方も数名エントリーしていたらしくて、その方たちの応援も兼ねて、王妃様と王太子妃様も是非とも見学したいと陛下に申し出られたのですって。
そうなると、当然のようにそれぞれにお付きの侍女や護衛が同行するでしょう。
結果。あっという間に、普段では考えられないような大勢の見学者が訓練所に詰めかけることになってしまったというわけなのよ。
多くの参加者をおさえて優勝されたのは、アリシア・ハッセン様。
現在はファラーラ王妃の警護を担当されている近衛騎士団所属の25歳。
スラリとした長身に、ひとつに結った真っ直ぐな長い髪。近衛騎士団の隊服がお似合いになる、とても美しい方だわ。
そのエミリア様に敗れはしたものの、大接戦を繰り広げたのはフランシーヌ・ミーレン様。
こちらはエリーザ王太子妃の警護を担当されている、同じく近衛騎士団所属の22歳。
フランシーヌ様はアリシア様よりも背は低いけれど、私よりは……。かなり高そうね。
笑うと両頬にエクボができて、とてもチャーミングな方よ。
3人目は早い段階で優勝されたアリシア様に負けてしまわれたようで、私は試合を見てはいないのだけれど、リリカ・ルーゲル様。
飛竜騎士団所属に所属されている方だそうよ。リリカ様は私よりも1歳年上の19歳ですって。
ハインツ殿下が隊長を務められている第7分隊には女性騎士はいないので、もしも私が殿下と共に飛竜で移動することになった場合、リリカ様が第7分隊の皆様と一緒に行動されることになるそうよ。
「アリシア・ハッセン、フランシーヌ・ミーレン、リリカ・ルーゲル。この3名が、今後ルイーズ姫殿下の専属護衛騎士を務めます」
「よろしくお願いしますね」
「「「はい!」」」
あら。アリシア様はアデルお姉様と、フランシーヌ様はラファエルお兄様と同い年だわ。
……。グルノー皇国の皆は、元気にしているかしら?
◇ ◇ ◇
「アリシア・ハッセン様は、第二騎士団長をされているハッセン伯爵の奥方様なのですよ」
「えっ。ご結婚されているの?」
「はい。出産の為にファラーラ王妃様の護衛騎士を一旦辞されて、その後復帰されたんです。まさかルイーズ様の護衛騎士に名乗りをあげられていたとは驚きです。その上、優勝されるなんて」
「えっ、どうして? アリシア様は、とてもお強かったわよ」
「だって、子育てもされているのですよ! それなのに厳しい鍛錬をずっと続けているなんて、凄いと思いませんか? 確か、お子さまは双子だったような……」
離宮に戻った私を待っていたのは、今日の “護衛騎士選定” の結果を聞きたくてうずうずしていたエルマだったのよ。
エルマは私の侍女になる前は、王宮で王妃様の侍女をしていたので、王妃様の護衛騎士だった方々とは面識があるらしく、仲の良かった友人も今回の騎士選定に参加していたのだそうよ。
残念ながらその友人は選ばれなかったみたいだけれど。
「フランシーヌ・ミーレン様は、エリーザ王太子妃の護衛騎士をされている、あのフランシーヌ様ですよね?」
「ええ、そうよ。エルマは、フランシーヌ様とも知り合いなの?」
「一方的に存じ上げているだけですわ。フランシーヌ様はミーレン侯爵家のご令嬢で、あの見た目ですから、夜会等に参加されると凄ーーーくおモテになるんですよ」
「分かるわ! エクボの可愛らしい方よね」
「そうなんです! でも、剣を持たせると恐ろしくお強いでしょう? その辺の柔な高位貴族の御曹司では、絶対にフランシーヌ様に剣では敵わないって話ですよ。噂では、それが理由で2度ほど破断になっているとか」
「破断?」
「はい。自分よりも弱い男性とは絶対に結婚したくないそうで、2回ともフランシーヌ様の方から婚約の解消を申し出られたそうです」
「……まあ。それはお相手の方も、お気の毒に?」
「ぐふふ。ですよねぇ」
エルマって、本当に情報通だわ!
お喋り好きだし、人当たりも良いから、大抵の人はエルマを相手に話しているとついつい余計なことまで話してしまうのでしょうね。
もしかしてエルマって、侍女よりも寧ろ間諜向きなのでは?
でも、この離宮から居なくなられるのは困るから、これはエルマには言わないでおきましょう!
「それなら、最後の1人、リリカ・ルーゲル様については? 何か知っていることはあるかしら?」
「あーー。残念ながら私、リリカ・ルーゲル様に関しては面識もなければ、今まで彼女に関する噂話も聞いたことはないですね」
「あら、そうなの?」
「彼女は、飛竜騎士団の所属でしたよね?」
「そうね、そう聞いたわ」
「飛竜騎士の方々は、普段王都以外の騎士団支部に滞在していることが多いので、王宮勤務だった私とは、顔を合わせる機会もなかったのですよ」
「そうなのね」
「ですが噂では、飛竜騎士団に所属している人たちって、独特というか、特質的というか……。まあ、言ってしまえば変わり者が多いと聞きますよ」
「そうなの? だったら、ハインツ殿下も変わり者ってことなの?」
「えっと、それは……。非常に答え辛い質問ではありますね」
「うふふ。エルマが、殿下のことをどう思っているかが、今の答えでだいたい分かったわ」
「えええーーっ。私は、ハインリッヒ殿下のことを言ったわけではありませんよ。あくまでもそういう噂もあると言いたかっただけで……」
「ふふ。大丈夫。告げ口したりなんてしないから!」
「だからぁ。そんなこと思っていませんわ、ルイーズ様。もぉ、その笑顔! 絶対殿下に告げ口なさるおつもりですね! いや、いや、いや。私は告げ口されるようなことなんて、元々考えておりませんから!」
「そうね。じゃあ、そういうことにしておきましょう♪」
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