7 第四皇女と聖教会のドン。
ラファエルお兄様が聖教会に対して「胡散臭い」と言ったのには、少し驚いたわね。
お兄様は私よりも4つ年上の12歳。
まだ子どもだけれど、とっても優秀なんですって。
グルノー皇国では、貴族の家の子どもは学校へは行かず、各分野の専門家を教師として家に招いて勉強を教わるのよ。
お兄様は「もうこれ以上教えることは無い」と何人もの教師たちに言わせたらしいわ。
そんな優秀なお兄様があんなことを言うってことは、お兄様のお側に、きっとそう言う考え方の人が居るってことよね?
そうで無ければ、普通は子どもの口から、聖教会を批判するようなセリフは出てこない筈よ。
私は、たぶんそれは、お父様じゃないのかなぁ……って密かに思ってる。
聖教会のトップは大聖女様。
現在は “白の手” をお持ちのマリアンヌ・ドゥ・グルノー。通称 “白の大聖女” マリアンヌ様ね。
皇王の姉で、私にとっては伯母上様。
聖女様も大聖女様も女性だけど、6歳の時に受ける属性検査で光の属性があると判明するのは、何も女の子に限ったことでは無いの。
もともとこの国に男の子は少ないのだけど、そんな中で、極稀に光の属性を持つ男の子も出るそうよ。数年に一人らしいけどね。
その場合、属性検査を受けた聖教会では無く、その男の子は聖教会本部に連れて来られるんですって。
ただ、残念ながら、過去一人として15歳までに治癒や癒しの能力(聖女様の能力)を発揮できた男の子は居ないそうなの。
もし発揮した場合、その子は何て呼ばれるのかしら? 聖男?
ふふふ。なんか変なの。
聖男? になれなくても、やっぱりその男の子たちは家には戻らずに、ずっとそのまま聖教会で暮らすらしいわ。
今の聖教会を運営している上層部には、そういった人たち(元聖男候補?)が居るそうよ。
聖教会のトップは、あくまでも大聖女様だけど、実際に権力を握っているのはその元聖男候補の一人。
ダンテ・バーレンテという人。私のお祖父様よりも年上で、バーレンテ伯爵家のご出身らしいわ。
お父様とバチバチ遣り合っているのは、このダンテ・バーレンテ卿です。
貴族の家のご出身だし、年齢的にもかなり上だし、今の聖教会でダンテ・バーレンテ卿に物申す人は一人も居ないって言われているらしいわ。
本当かどうか知らないけど、“聖教会のドン” とも呼ばれ、恐れられているそうよ。
話は変わるけれど、光属性の女性から光属性の子どもが生まれやすいのかは、はっきりとは分かっていないんですって。
ただ、皇王家に嫁いで来る女性は、もうずっと長い間、光属性の持ち主が続いているの。
その皇家から、後に大聖女様となった方が何人も誕生しているって言うこともあって「光属性の母親からは光属性の子どもが生まれやすい」って信じている人が多いのも事実。
実際、セシリアお祖母様の場合、4人の娘を持ったうち、一人が大聖女マリアンヌ様で、もう一人が聖女グレーテ様。
私のお母様も同じく4人の娘を産んで、長女は聖女のクロエお姉様、三女は聖女候補のヘンリエッタお姉様。
これだけ聞くと、やっぱり光属性の母親からは光属性の子どもが生まれやすいって思っちゃうわよね。
ああ、そうだ。言い忘れていたことがあったわね。
グルノー皇国は男女比が普通じゃないって前にも言ったと思うけど、それが理由かは私には分からないけれど、この国では “一夫多妻” が公に認められています。
私のお父様もお祖父様も、お母様とお祖母様以外の方は娶られていないのでつい忘れがちだけど、特に裕福な貴族の跡取りには、何人も奥様をお持ちの方がいるそうよ。
その理由の一つと言われているのが、聖女候補から結局聖女様になれずに家に戻られる女性の存在。
ずっと聖教会で聖女になるために生きてきたから、家には戻っても、なかなか普通の生活には戻れないのですって。まあ、そうよね。
第二、第三夫人という立場が、そういった女性たちの受け皿にもなっているらしいわ。
そうそう。さっき話題にした “聖教会のドン” こと、ダンテ・バーレンテ卿も奥様が沢山いらっしゃるそうなの。
全員、元聖女候補として聖教会本部にいらした方たちらしいわ。
(それって、ちょっとどうなの? って思うのは私だけかしら……)
まあ、それはさて置き。
バーレンテ卿ご自身も聖男になれなかったとはいえ光の属性持ちでしょ。
奥様も元聖女候補の光属性持ちなのだったら、子どもが光属性の確率って、凄く高そうよね?
ところが、バーレンテ卿の娘さんたちは全員、光の属性持ちでは無いって話よ。
本当かどうか分からないけど、奥様は6人もいらっしゃるそうなの。
バーレンテ卿ってお祖父様よりも年上なのよ。なのに、一番お若い奥様は、5年前に結婚された方で、まだ21歳なんですって!
バーレンテ卿、どうしても光属性持ちの子どもが欲しいってことなの?
聖教会本部、怖い! 聖教会本部もバーレンテ卿も闇が深すぎると思わない?
兎に角、そんなこんなで、聖教会全体の光属性持ちの子どもへの執着は、ちょっと異常だと私は思うわけ。
◇ ◇ ◇
中庭でのお茶会を終えて、お姉様とお兄様と3人でお城へと戻る途中で、ラファエルお兄様が思いも寄らなかった知らせを運んで来たの。
「ああ、そうだ。ルイーズ。君のお気に入りのあの本だけど、どうやら最近、第6巻が出たらしいよ」
「ラファエルお兄様、それって……。本当ですか?」
「ああ、嘘じゃない! でも、すぐに手に入るかどうかはまだ分からないよ。一応依頼だけはしてあるけど……」
「わぁ。ありがとうございます!」
「言ったよね? まだ入手できるかは決まってはいないよ!」
「それでも、手配して下さっただけでも嬉しいです!」
私は嬉しさのあまり、その場で飛び跳ねたい、むしろ、踊り出したい気分だった。
でも、私たちの後ろからジネットが歩いて来ているのが分かっていたから、グッと堪えたわ。
「それって、もしかして、お肉が出てくる本のこと?」
「そうです!」
「やっぱりそうなのね。ルイーズをそんなに喜ばせることができる本といったら、それしか無いものね」
アデルお姉様は、そんな私を見て、凄く優しい笑顔を浮かべた。
「でも姉上。ルイーズは、自分ではその本を読まないのですよ! 毎回毎回、僕が読む役を押しつけられるのだから、まったく、困ったものです!」
「そうなの? 私には、貴方が然程困っているようには見えないけど?」
「えええっ。そ、そんなことは……。姉上、変なことを仰らないで下さい!」
どうしたわけか、ラファエルお兄様が狼狽えている。
「良いじゃないの。今だけよ、ラファエル。ずっと続くわけでは無いわ」
「まあ、そうですが……」
「ルイーズだって、すぐに大きくなるわ。勉強が進めば、すぐに自分で読めるようになってしまうのよ。それはそれで、寂しいと思わない?」
「……。そうかもしれません」
私はちょっと疲れていて、お二人が何の話をされているのか、途中からほとんど聞いていなかった。
兎に角、新しい本が手に入るかもしれない。
それさえ分かっていれば良い!
ふぁぁぁぁ。なんだか眠くなってきたわ……。
「あらあら。ジョルジュだけでなく、ルイーズにも、まだお昼寝が必要みたいね」
「今からですか? この時間から寝てしまっては、夕食の時に起きて来られなくなりますよ!」
「良いじゃないの、たまには。お菓子も沢山食べているし、この感じだと、きっと朝までぐっすりよ」
後から聞いた話では、私は途中で立ち止まってしまったそうだ。
すっかり歩かなくなった私をジネットが抱っこして、私のお部屋のベッドまで運んでくれたらしい。
ジネット。細いけど、意外と力持ちだったのね。
アデルお姉様の予想通り、私は次の日の朝まで目を覚ますことなく、ぐっすりと眠りました。
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