16 第四皇女と従魔登録と初仕事。
「良いじゃない。凄く似合っているよ」
「そうですか? では、これにします!」
冒険者登録をしてから丁度1週間後の今日。再び私はハインツ殿下と一緒にゼーレンの冒険者ギルドへとやって来ました。
今回こそ、セレストの “従魔登録” をするためよ。
と、その前に……。私は殿下に連れられて、冒険者用の衣装や装備品を取り扱っているお店に来ています。
危険な依頼を受ける予定は全くないのだけれど、前回ギルドへ行った時のような商家のお嬢様風スタイルでは、冒険者ギルドに出入りするのに相応しいとは言えないでしょう?
あの日も、変に注目を集めていたしね。
このお店は、ハインツ殿下曰く「新人 〜 中級冒険者向けの良心的な店」なのだそう。
店員さんが選んでくれたコーディネートを数着試着して、その中から、今着ている服と、その他に2セット分購入することに決めました。
それから、それらの服に合う、ブーツとバッグと帽子もね。ついでに薬草採取にも使えると勧められた小型のナイフも購入。
購入とは言ったけれど……。実際にお金を支払って下さったのはハインツ殿下なの。
だって、まだ私、ゼーレンの商業ギルドに行けていないのだもの。
「たいした金額じゃないから、支払いに関してルーが気にする必要はないよ。それにこの店だったら、ギルドカードでの支払いもできるしね」
そう言って殿下は、持っていたギルドカードをカウンターの上に置かれた細長い箱に翳したのよ。
ピピって小さな音がして……。うわぁ。あれで支払いが完了したの?
私がカウンターの上のその箱を、まじまじと見ていることに気付いたらしい殿下が教えて下さったわ。
細長いあの箱は魔導具で、さっき殿下がしたように、ギルドカードを翳すことで支払いができるそうよ。ギルド内の売店や食堂、他にもここのように冒険者ギルドと提携しているお店に設置されているのですって。斬新!
もちろん、冒険者ギルドの口座にお金があることが使える絶対条件よ。
どう言うことかって? つまりね、私のように依頼を受けたことがない冒険者がカードを翳しても、支払い完了を示すピピって音がしないってことよ。
そうそう! さっき支払いの時にチラッと見えたのだけれど、ハインツ殿下の冒険者カードには “A” って文字が浮き出ていたわ。
「ルー。そろそろ行こうか。馬車の中のセレストが、おとなしく待っていてくれていたら良いけど……」
◇ ◇ ◇
「こちらで “従魔登録” は全て完了となります。それから、先程お渡しした標を必ず見える位置に付けておいて下さいね」
冒険者ギルドでセレストの “従魔登録” を無事に終えた私は、ギルドの受付カウンターで、今後のことについていろいろと説明を受けているところよ。
「従魔の首輪をお買い求めになるようでしたら、そちらの売店にもいくつか置いてありますよ」
「まだ成長途中のようだし、首輪でなくリボンか何かで標を結んでおけば、取り敢えずはそれで良いと思うぞ」
掛けられた声に驚いて振り向くと、ギルドマスターのヴェルフさんが私のすぐ側に立っていたの。
いつからここに居たのかしら? ヴェルフさんは私よりもずっと大きいのに、ちっとも気付かなかったわ。Sランク冒険者は、気配の消し方も超一流ってことかしら?
「2人とも、良かったら上でお茶でも飲んで行かないか? 話したいこともあるし」
「じゃあ、遠慮なく」
「あの、セレストを一緒に連れて行っても、大丈夫なのですか?」
「“従魔登録” を済ませたんだ。どこでも出入り自由だよ」
ギルドマスターのお部屋で私たちがお茶を頂いている間、セレストはソファーに座る私の足元におとなしく伏せていて、普段よりもお行儀が良いくらいにお利口さんだわ。
「確かに、シルバーリオネルとは……。かなり違うな」
「ですよね。取り敢えず、シルバーリオネルの “亜種” ってことにして登録はしましたけど」
「まあ、仕方ない。登録さえしちまえば、なんとでも誤魔化せるだろう。に、しても……。聖獣かぁ」
第二王子の婚約者候補としてザルツリンド王国に滞在中のグルノー皇国の皇女が聖獣を連れているなんて知られると、きっと大陸中が大騒ぎになってしまうだろうからとの判断から、聖獣ではなく魔獣として登録することになったのだけれど。
聖獣って、そんなに注目を集めてしまうような生き物だったのね。
それはさておき、セレストはまだ幼体だから、似ていそうなシルバーリオネルの亜種の子どもとして登録したのだけれど……。
私はシルバーリオネルを見たことがないからよく分からないけれど、殿下とギルドマスターの会話を聞く限り、やっぱりかなり違うみたいね。
でも、あくまでも “亜種” で押し通すつもりみたい。
「ぎゃーぅぅ」
「なぁに、セレスト。もしかして、もう飽きた?」
「ぎゃぅ」
「もうちょっと我慢していてね。今日はこの後、一緒に初めての依頼を受けるのよ。薬草採取ですって。ふふふ。楽しみね♪」
「ぎゃぅ」
「おい、おい、おい。まさかとは思うが、あの姫様は、聖獣の言っていることが理解できるとか……言わないよな?」
「さあ、どうでしょう」
「待ってくれ。笑い事じゃないぞ!」
◇ ◇ ◇
「そろそろギルドへ戻ろうか。もう指定の薬草は充分採取できているし」
「そうですね。セレスト、帰るわよ!」
「ぎゃぅ。ぎゃぅ」
ギルドに採取依頼が寄せられる薬草の多くは、王都ゼーレンをぐるりと囲う城壁の外にある草原に自生していて、新人冒険者でも簡単に達成できると聞いたので、私は初めての依頼として “薬草採取” を受けたのよ。
「これらの薬草って、ポーションを作るのに必要な割と基本的な薬草ばかりですよね? 今日採取したのは回復薬に必要な薬草ばかりですし」
「へぇ。ルイーズはポーション作りにも詳しいの?」
「えっと、まあ、少しだけ?」
まさか私が11歳の時からお祖父様に頂いた本を参考にしてポーション作りをしているなんて事実をお知りになったら、殿下はさぞかしビックリされるでしょうね。
私は回復薬の他にも、魔力回復薬と、傷薬と、解熱剤と、麻痺消しと、毒消しも作れるし、グルノー皇国ではそういった薬草を各地で栽培して、他国に輸出もしているわ。
「わざわざこんな風に採取しに行かずとも、畑で薬草を栽培したら良いのではないですか?」
「君の国のように、かな?」
「あら。ご存知でしたのね?」
「まあね。ところで、冒険者ギルド登録できるのは何歳からか、ルイーズは知っているかい?」
「えっと、確か……10歳でしたかしら?」
「正解! でもね、8歳以上であれば、冒険者見習いとして薬草採取の依頼を受けることができるんだ」
「8歳で? そんなに小さい子どもが?」
「そうだよ。グルノー皇国に生まれたルイーズには想像するのは難しいかもしれないが、魔獣が生息する他の国々では、家族を魔獣によって失う者も少なくない。稼ぎ手を失った家族はどうなると思う? 生きていくには、子どもであろうと働いて収入を得る必要がある。薬草採取は、そういった子どもたちでもできる、数少ない仕事でもあるんだ」
そう言われてみれば、今日行った草原は確かに城壁からそう遠くない場所だったわ。
あそこなら魔獣に襲われる危険性も低く、いざとなれば城壁内に逃げ込むことも、最悪の場合は城門近くにいる警備隊に助けて貰うこともできるかも。
「では、我が国が輸出している薬草は、そういった子どもたちの自活の妨げとなっているのですか?」
「ああ、それはないよ。大丈夫! 僕が所属している飛竜騎士団だけでも、年間に消費する各種ポーションは膨大な量だ。そもそも、子どもたちの採って来る薬草だけで賄える量じゃない。それに、この国でも薬草の栽培を試みてはいるらしいのだが……。安定した収穫はなかなか難しいと聞くよ」
「……そうでしたか」
国によって気候や風土も異なるし、薬草の栽培って、思っていたよりも難しいことなのかしら?
「さあ、早く帰ろう! 暗くなる前に今日の成果をギルドに報告してさっさと離宮に戻らないと、2度と依頼を受けられなくなりそうだからね。心配性のお目付役が、ルイーズの帰りをきっと首を長くして待っているよ」
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