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15 第四皇女とギルドマスター。

「ヴェルフは、随分と昔から僕の素性を全部知っているんだよ」

「そうなのですか?」

「ええ、まあ」

「それに、君が僕の婚約者だということも、彼にはお見通しのようだ」



ヴェルフ・グンガーと名乗った屈強そうなその男性は、正確な年齢は分からないけれど、おそらく私のお父様と同じくらいか、もう少し上かしら。

彼が、王都ゼーレンにある冒険者ギルドのギルドマスターなのだそうよ。

ザルツリンド王国の男性はグルノー皇国の男性に比べると大柄な方が多いのだけれど、ギルドマスターなだけあって、より一層大きくて、なんだかとてもお強そうだわ。これって、私の偏見かしら?


聞くところによると、ザルツリンド王国の主要都市には冒険者ギルド(商業ギルドもね)があって、冒険者ギルドも商業ギルドも、王都のギルドマスターが、その他ザルツリンド王国各地の両ギルドのトップでもあるのですって。



「それで? わざわざこうしてハインリッヒ殿下自ら私に会いに来たということは……。何か重要な要件があるってことですよね?」

「お察しの通りだよ。今日は、ここに居るルイーズの “冒険者登録” をしたいと思って来たんだ」

「「えっ?」」



待って! 待って!! 待って下さい!!!

離宮を出発する際、殿下はヒセラに『今日は “初めての依頼” をしに冒険者ギルドに行く()()()()と、その娘の()()()()()()()()ってコンセプトだから』って仰っていたわよね?

それなのに、()()冒険者になってしまうの?



「グルノー皇国の姫君がザルツリンド王国で冒険者登録? はぁぁぁ……。いったいどんな頼み事をされるのかと思えば、まさかそんな……。冗談、ですよね?」

「いや、本気だよ。登録は、可能だよね? ヴェルフ」

「そりゃ、もちろん登録するくらいならできますが……。でも、どうしてです? 姫君と一緒に魔獣討伐の旅に出ようだなんて、まさかそんなことを考えちゃいませんよね?」

「楽しそうだけど、流石にそれはないよ。いろいろと事情があってね。この件に関しては、父上も了承してくれていることだから安心してよ」



え、え、え? 私と殿下で魔獣討伐の旅に? そうね、それも楽しそうね♪

話の流れ的に討伐の旅は冗談のようだけれど、私的には、ザルツリンド王国に滞在している間に是非とも『魔獣のお肉を食べてみたい!』と思っているので、討伐の旅は兎も角、この降って沸いたような私の冒険者登録のお話は渡に船! 大歓迎だわ!

陛下承認の上での冒険者登録なのは予想外だけれど。



「マキシミリアン陛下まで? はぁぁぁ……。そりゃ、断れませんね。ちゃんと後で、そのいろいろとやらに関しては説明して貰いますよ」

「それはもちろん!」



ギルドマスターのヴェルフさんは、困惑した表情を浮かべて頭をバリバリ掻きながらも「人を呼んで来ます」と言い残して部屋を出て行ったわ。



「聞いていたから分かっただろうけど、これからルイーズの冒険者登録をするからね。登録に必要なのは、名前やその他の記入と、少しの血液なんだけど……」

「血液ですか? それって、商業ギルドの登録と同じ感じなのかしら?」

「えっと、まさかルイーズ、君、商業ギルドに登録していたりするの?」

「はい。私名義の口座を商業ギルドに開設する必要があったので」

「ああ、そう。そういうことか」



あらら。もしかして、商業ギルドに登録しているってことは、内緒にしておいた方が良かったのかしら?

一国の王子と姫が揃って商会を経営しているなんて、ちょっと普通じゃないのかも?


でも、どうやらハインツ殿下は、私が商業ギルドに口座を持っているのは、他国へ出る前に心配したお父様が開設して下さったと勘違いなさっているみたいね。

ほら。ラファエルお兄様がハーランド王国へ留学する前に、商業ギルドで口座を開設したみたいに。

そうね。この際、そういうことにしておきましょう!



「血液を垂らす必要があることを知っていたなら良いんだ。冒険者登録に関してだけれど、名前の欄にはわざわざ本名全てを書く必要はないからね。そうだな、家名は書かずに “ルイーズ” とだけ記入すれば良いと思う」

「“ルー” ではなくてですか?」

「ギルドカードには “ルイーズ” で登録する。ただし、今後ギルド関係者の前では、君は新人冒険者の “ルー” で通そう」



なんだか楽しそう!

そんな話をしているうちに、ヴェルフさんがギルド職員を連れて戻って来たわ。


私は、渡された書類に打ち合わせ通りに必要事項を記入したの。

それから、指先から少しの血液を登録用の魔導具とこれから私の物になるギルドカードの両方に垂らして、冒険者登録を終えたのよ。

ふふふ。これで今日から私も冒険者の仲間入りよ! ランクは……最低ランクのFランクだけれどね。



  ◇   ◇   ◇



「まあ! では、それがルイーズ様の冒険者ギルドのカードですか?」

「そうなの! キラキラで素敵でしょう?」



冒険者ギルドから戻った私は、早速今日受け取ったギルドカードをジネットに見せびらかすことにしたのよ。

だって、ヒセラに見せたら、きっと卒倒してしまうでしょ?



「ランクが上がると、ギルドカードの色が変わったりするのですか?」

「それはないみたい。失くさない限りずっと同じカードを使い続けるそうよ。ここに浮き出ている “F” の文字が “E” に変わるだけなのですって。だからね、ベテランの冒険者のカードはこんなにピカピカじゃないの。ギルドマスターのカードを見せて貰ったのだけれど、一緒に冒険してきた(あかし)のようにカードは傷だらけだったわ」



ちなみに、ギルドマスターのヴェルフさんのカードに浮き出ていたのは “S” の文字だったのよ。

それってつまり、1番上のランクってことなのよ。凄いわ!



「失くしたら大変ですね。ちゃんと仕舞っておかないと!」

「駄目よ、ジネット。このカードを携帯していないと、ギルドで依頼を受けることができないのよ! それに、依頼を達成したら、このカードにギルドポイントを加算して貰えるの。それから、討伐品の買い取り金はこのカードで出し入れできるのですって。凄く便利よね」

「……ルイーズ様。まさかとは思いますが、ギルドで依頼をお受けになる気ではありませんよね?」

「えっ? 受けるけど?」

「な、なんてことを仰いますか! 駄目です、駄目です! そんな危険な真似は絶対に駄目です!!」



ジネットが泣きそうな顔で私に訴えかけてきてるけど……。

ああ、これ、完全に誤解しているわね。



「大丈夫よ、ジネット。私が受けるのは危険な魔獣討伐とかではないから。登録したばかりのFランク冒険者が受けられる依頼なんて、簡単なお手伝いか、薬草採取くらいしかないそうよ」

「そうなのですか? ですが、ルイーズ様はお金が必要なわけでもないのですし、わざわざそのような依頼などお受けにならなくても……」

「それがね、一定期間内に一定数の依頼を達成しないと、冒険者の資格自体が取り消されてしまうのですって」



そうなのよ! だから私は、今後も時々あの冒険者ギルドに通うことになったの。もちろん、ハインツ殿下と一緒によ。



「ところで、ルイーズ様。本来の目的の方はどうなったのです?」

「えっと、何の話かしら?」

「嫌ですわ。今日ルイーズ様が冒険者ギルドへ向かった元々の理由を、まさかお忘れになったわけではないですよね? セレストの “従魔登録” ですわ!」



そうでした、そうでした!

実は私、セレストの “従魔登録” をするためにゼーレンの冒険者ギルドへ行ったのに、自分の “冒険者登録” だけをして、今日は帰って来ちゃったのよ。

だって従魔登録をするには「登録者が実際に登録する従魔を一緒に連れていなくては無理です」って言われてしまったのだもの。仕方ないわよね。セレストはお留守番だったし。


だから、近々またギルドへ行って来ます。もちろん次は、殿下とセレストと一緒にね。

お越し頂き & お読みいただき、ありがとうございます♪

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