11 第四皇女と王宮図書館の本。
「ご期待に添えなくて申し訳ない。私は魔法使いでも、大賢者でもありません。この王立図書館と本に詳しいだけの唯の司書ですよ」
お爺さんはそう言いながら、豊かな真っ白な顎髭(←きっとご自慢のお髭なのよ!)を丁寧に撫で付けているわ。
なぁんだ。魔法使いでも、大賢者様でもないのね……。
そう言われてよく見れば、私の目の前に立っているお爺さんの他にも、同じ灰色のローブを身に纏った方がチラホラ。
どうやら、丈の長いこの灰色のローブは、王立図書館の司書さんの制服のようですね。袖口と裾に施された銀色の蔦模様の刺繍がとても魅力的だわ。
「でしたら、物語りの本が置かれているところへ案内して頂けますか?」
「どのような物語りをお好みですか?」
「そうね、冒険物。騎士様が捕われの姫君を救い出すようなお話が良いわ!」
「承知致しました。では、こちらへ」
白髭の司書さんの後ろを歩きながら、図書館の中を見回すと、改めてこの王立図書館の蔵書数の多さに驚かされるわね。
2階の本棚までぎっしりと埋め尽くされた本、本、本。
いったいどうやって、あの上の方にある本を手に取るのかしら?
私の視線に気付いたようで、白髭の司書さんは足を止めて振り返ると、私に向かって言ったの。
「ご希望の本があれば、階段梯子を登って本をお取り致しますよ。もちろん私のような年寄りではなく、梯子階段に登るのは若者ですが」
「私が自分自身で梯子階段を登って本を取っても宜しいのでしょうか?」
「お嬢様が、ご自身で?……それはお勧めできませんね。あの梯子は、お嬢様のようなご令嬢と、私のような年寄り向きの階段ではございません」
やっぱり、そう言われると思ったわ。
「さあ、お嬢様のご要望の物語りはこちらの棚にございます」
案内された場所は、今まで見てきたような天井までぎっしりと本の詰まった壁棚が続くところとは違って、私でも頑張れば1番上の棚まで手の届きそうな本棚ばかりが並べられている区画。
私以外にも近くに親子連れも何組かいるので、敢えてそういった本棚なのでしょう。
「ここでしたら階段梯子なしでも自分で本を取れますね。案内、感謝致します」
「どういたしまして。本はそちらのソファーでも、向こうのキャレルでも、お座りになって自由にお読み頂けます。持ち出される場合は、必ず受付で貸し出し許可をお取り下さい。何か困りごとがありましたら、近くの者にお声掛け下さい。良き本と出会えますように」
良き本と出会えますように……。ふふ。素敵な言葉ね。
さぁ、では私も、良き本を探しましょう!
その前に……。私の大好きなあのシリーズは、この図書館にもちゃんと置いてあるのかしら? もちろん置いてあるわよね?
確か随分と前に出会った方が、あのシリーズの本を書かれているのはザルツリンド王国の方だと教えて下さったことがあったもの。
ええと、作家の名前は……。ラウディ・ディス・ラウスール。
「ああ、これだわ! ラウディ・ディス・ラウスール。ええと、最新巻は……。あらっ? 1番新しい本って、この第10巻なのかしら? もう随分と前にこの巻なら既に読んでいるけど。続きの巻は? まだ出ていないのかしら?」
「何が出ていないって?」
声がして振り返ると、ハインツ殿下がすぐそこに立っていらしたの。
うわぁ。殿下はとても大きくて分厚い本を数冊抱えていらっしゃるわ。
「私が探しているのは、このシリーズの最新巻ですわ。この第10巻はもう既に読んでいるので、新しい巻が出ていたら読みたいと思っていたのですけれど……。でも、まだ出てはいないみたいですね」
「ああ! それって……」
「えっ?」
「いや。……何でもない」
「それに、このシリーズを書かれている作家の方、ラウディ・ディス・ラウスールさんってお名前なのですが、このシリーズ以外の別の作品は書かれていないみたいなのです。もしも書かれているのなら是非読んでみたかったのですけれど……」
「……そうなんだ」
あら? ハインツ殿下……。どうかされたのかしら? ちょっと、元気がない?
ああ! そうだわ、抱えていらっしゃる本が重いのね!
「そちらのご本は? 今から読まれるのですか? それとも借りて帰られる?」
「ああ、そうだな……。今から読む、かな。もし良ければ、一緒にどう?」
「ええと……。その本を一緒に、ということですか?」
「そうだよ。物語りの本なら、王宮の図書室にもいろいろと置いてある。今度、そっちも案内するけど?」
「はい。それは、是非お願いしたいです」
王宮の図書室にも興味があるので、それはそれで楽しみだわ!
ところで、ハインツ殿下の抱えていらっしゃる本って、何かしら? 見た目からして専門書、よね? 私が読んで理解できる内容なら良いのだけれど?
「そうと決まれば……。あっちのソファー席で良いかな?」
◇ ◇ ◇
「「「本当ですか?」」」
「そう、ハインツ殿下は仰ってらしたけれど……。本当にそうだと思う?」
王立図書館から戻った日の夕食後、私は「重要な話があるから」と言って、グルノー皇国から一緒にこの国へとやって来た3人を部屋に呼び出したの。
ヒセラも、ジネットも、もちろんローラも、私が打ち明けた内容に驚きを隠せないようね。
「この、何も考えていなさそうにスピスピ寝息を立てているこの子が、ですか?」
「確かに、不自然な位に成長が速いな、とは思いましたけど……」
「見付けた場所も “聖なる森” ではありますが……」
「「「「うーーーーん」」」」
仔猫は、自分の上に私たち4人の視線が集まっていることなど全く気付く気配もなく、いつもと変わらぬ様子で、私の部屋の隅に敷かれているお気に入りのラグの上で規則正しい寝息を立てて眠っているのよね。
私はあの後、王宮図書館のソファー席にハインツ殿下と並んで座って、殿下が次々と捲る分厚い本のページをなんとなく横から眺めていたのだけれど……。
まさか、殿下が調べている内容が仔猫に関係することだとはその時は夢にも思っていなくて。
「ハインリッヒ殿下のお言葉とはいえ、そんなこと、俄には信じられませんわ!」
「この仔猫が、ですか?」
「聖獣だなんて……。冗談ですよね?」
まあ、そうよね。それが普通の反応よね? 3人の反応は間違っていないと私も思うわ。
実際、殿下から直接話を伺った私だって、未だに半信半疑なのだもの。
殿下が抱えていた本は、3冊とも神話や聖獣、伝承が書かれているような古い書物で、中には、古代語で書かれた物まであったのよ。
流石の第二王子も(もちろん私も)古代語は読めないので、あの後すぐに殿下は3冊とも図書館の受付で貸し出し許可を得て、王宮へと本を持ち帰られたわ。
王宮になら、古代語の本を読み解ける方もいるのでしょうね。
「冗談などではなく、本当にセレストは聖獣なのかもしれないの。まだ確定ってわけではないけれど……」
「そうなると、どうなるのですか?」
ローラがセレストの方に心配そうな視線を送っている。
毎日セレストのご飯を作ってくれているのはローラで、セレストは私の次くらいにローラに懐いているものね。
「どうなるって……。ローラ、それ、どういう意味?」
「もしこの子が聖獣だとはっきりした場合、ザルツリンド王国に取り上げられてしまったりする可能性もあるのでしょうか……?」
「そんなことにはならないと思うけれど……」
「でも、個人が聖獣を飼育している例なんて、聞いたことありませんよね?」
「と言うか、聖獣が実在するなんて話自体、聞いたことはないですよね?」
何もかもが分からないことだらけだわ。
私は、第二王子の婚約者候補としてこのザルツリンド王国に入国したばかり。
そんな私が、もしセレストをザルツリンド王国で保護すると言われてしまったら?
隣国の皇女の1人に過ぎない私が、マキシミリアン陛下の下されたその決定に抗えるだけの立場なのかどうか……。
「姫様。困ったことになりましたね……」
「そうなのよ。こんな風に呑気に寝ていられるセレストが、本当に羨ましいわ」
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