9 第四皇女、王立図書館へ行く。
「あらあら、ルイーズ様。今日のお召し物も素敵ですね! 昨日のは “街歩きデート仕様” で、今日のは “図書館デート仕様”。ハインリッヒ第二王子殿下、流石のお見立てですわ!」
「エルマ。別に今日はデートではないわよ。私がザルツリンド王立図書館にはどんな蔵書があるのか興味があるってお話をしたら、ハインツ殿下も丁度調べ物があるから図書館へ行こうと思っていたのだと仰って……」
「そうですね、そうですね。王子殿下がそう仰るのでしたら、そういうことにしておきましょう! ぐふふ」
「やぁね、エルマったら。……変な笑い方」
エルマにも言ったけれど、今日はこれからハインツ殿下と一緒に王立図書館へ行って参ります。
グルノー皇国から持って来た私の荷物の中に、やはり本は数冊しか入っていなくて……。
近いうちに、離宮の執事長のクラウス・アインホルンが教えてくれた王都ゼーレンにある王立図書館に行ってみたいと思っていたのよ。
そんな話を昨日ハインツ殿下にしたら、殿下も丁度調べたいことがあるから王立図書館へ行くつもりだったらしくて。
「ところでルイーズ様。ルイーズ様はリーガ語でのお喋りは完璧ですが、リーガ語の本を読んだり、リーガ語でお手紙を書いたりもお出来になるのですか? 王立図書館の蔵書は、基本的にその殆どがリーガ語で書かれている物だと思うのですが」
「書くことに関しては、まだ完璧とは言えないと思うわ。でも、読む方だったら、余程の専門書でなければ、たぶん私でも読めると思うの」
「それは凄いですね! グルノー皇国では、他所の国の言語を学ぶのは普通のことなのですか? ザルツリンド王国では、高位貴族でも母国語であるリーガ語しか話せない人が殆どだと思います」
「そうなの? でも、グルノー語はグルノー皇国でしか使われていないけれど、リーガ語は違うわよね?」
「そうですね。リーガ語はザルツリンド王国の他、グランカリス帝国とルルーファ王国で使われていますね」
「そうでしょう? その3カ国を合わせると、おそらくはカリス大陸の半分くらいの人口になるのではないかしら? つまり、リーガ語はこの大陸の主要言語ってことになるわね」
「そう言われると、そうですね」
「だから、リーガ語を話す3カ国の人たちは、他の言語を学ぶ必要性を感じる機会が少ないのでしょうね。でも、他の4つの国はそれぞれ独自の言語を使っているから、他所の国に出るためには、その国の言葉を覚える必要がある。違うかしら?」
「確かに! 必要性は大違いですね」
「それだけではなくて、私がリーガ語を習得できたのは、小さい頃に出会った大好きな本がリーガ語で書かれていたからよ」
「まあ、そうだったのですね」
そういえば、グルノー語はリスカリス語と似たところがあると、リスカリス王国の王弟とご結婚されたグレーテ叔母上様が以前仰っていたわね。
似ているから、覚えるのもそれ程大変ではなくて助かったのだとも。
その話をエルマにしたら、エルマも面白いことを教えてくれたわ。
「カリスター語とハーランド語もとてもよく似ていると聞きますよ。まるで兄弟のような言語だそうです。もしかすると、元は同じ言葉だったのかもしれませんね」
「そうなの? 私の兄はハーランド王国に留学したことがあって、ハーランド語がとても堪能だそうなの。もしそれ程似たような言語なのだとしたら、ラファエルお兄様がカリスター王国へ行かれても、言葉が通じなくて困る心配はないってことね?」
「そういうことになりますね!」
そういえば、弟のジョルジュもそろそろ留学のためにハーランド王国へ向かう頃だわ。
ちゃんと出発前に留学先で困らない程度のハーランド語は身についたのかしら?
うーん。心配だわ。
「さあ、ルイーズ様。お支度が整いましたよ。そろそろお迎えが到着する時間ではないですか?」
「もうそんな時間?」
「と思います。図書館デート、楽しんできてくださいね♪」
「だから、デートではないわよ」
「はい、はい。では、そういうことにしておきますね」
◇ ◇ ◇
ザルツリンド王立図書館は、私が想像していたよりもずっと大きくて立派な外観だわ。
王立図書館を利用するには、入り口を入ってすぐのところにある受付で、個人用のカードを作る必要があるのですって。
図書館に入館する時、本を借りる時、返す時、図書館から退館するときに、都度カードの提示が必要なのだそうよ。
「ねえ、ルイーズ。今日はどんな本を借りるのか決めてからここへ来たの?」
「いいえ。今後のために王立図書館がどんなところなのかを見てみたかったのです。思っていたよりもここは離宮から近いですし、次からは1人でも迷うことなく来られそうですわ」
「ちょっと待って! まさかとは思うけど……。ルイーズ。君、1人でここに来る気ではないよね?」
「えっ? 駄目でしょうか?」
「1人は止めて欲しいかな。本を読みたいのであれば、王宮にもかなりの蔵書数の図書室があるよ。王宮の図書室なら “勉強会” の時に寄れるだろう? 安全のため、僕としてはできればそっちを利用して欲しいけど」
「でしたら、ハインツ殿下はどうして今日は王宮の図書室ではなくて、わざわざこちらの図書館へいらしたのですか?」
「ここには、王宮の図書室には無い専門書の類が揃っているからね」
「専門書、ですか?」
「そう。早急に調べておきたいことがあるんだ」
ということらしいので、私とハインツ殿下はしばらくの間王立図書館内で別行動をすることにしたのよ。
とはいっても、今日もしっかり私のすぐ側には護衛の騎士様(男性)が居るけれど。
そうそう! 殿下のお話では、近々私のための “護衛騎士選定” が行われるそうなのよ。
今までは外出の際は毎回ハインツ殿下がご一緒して下さっていたけれど、今後もずっと殿下のお手を煩わせるわけにはいかないでしょ? ご公務も、それに、飛竜騎士団のお仕事だっておありでしょうから。
だからね、マキシミリアン陛下のご好意で、私に専任の護衛騎士を付けて下さるそうなの。
どんなところへでも一緒に同行できるように、私の専任騎士は貴族の女性の中から選ばれるのですって!
騎士である以上、家柄や性別以前に剣術の腕前が重要らしくて、その為に選定試験を行うそうなの。私もその選定試験の見学に行っても良いかをハインツ殿下から陛下にお伺いしてもらおうかしら。
あらっ? そう言えば、ハインツ殿下、もしかして私のこと “ルイーズ” って呼んでいなかった? 昨日まで “ルイーズ姫” って呼ばれていたような……?
……まあ、どちらでもたいした違いはないわね。
「何かお探しの本がございますか?」
「えっ?」
「驚かせてしまったなら申し訳ない。私、こちらの図書館で司書をしております。初めてご来館の方のようにお見受け致しましたので、何かお手伝いできることがあればと思い、お声をかけさせて頂きました」
声をかけられて振り返ると、そこに立っていたのは真っ白で豊かな顎髭をたくわえていて、丈の長い灰色のローブを纏ったお爺さん。
手には杖まで持っているじゃないの!
「もしかして……。魔法使い? それとも、大賢者様?」
「いいえ。この図書館の司書です」
「司書?」
よくよく見れば、そのお爺さんの手に握られているのは、魔法をかけるための杖ではなくて、歩行を補助するための杖のようです。
「はい。この図書館のどこにどんな本があるか、大抵は把握しております。お探しの本があるようでしたら、お手伝いすることもできますよ」
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