6 第四皇女と続くお茶会。
お茶会を続けていると、見慣れた人影が私の目に飛び込んできた。向こうから仲良く腕を組んで歩いて来るのは、お父様とお母様だわ。
お二人に気付いたジネットが、また、慌てて追加の椅子を用意する。
「なんだ。随分と楽しそうなことをしているじゃないか!」
「アデルもルイーズも、二人ともお茶会をするならするで、声をかけてくれたら良いのに……」
「そう言うな、ジャンヌ。まあ、良いではないか。たまには姉妹二人だけで話したいこともあるのだろう」
「そうね。それにしても……。随分と美味しそうな物をいろいろと並べているわね。それも、こんなに沢山!」
そういえば、この中庭って、お父様がいつもいらっしゃるお部屋から丸見えの場所だったわ。これでは「お茶会をしているので、見つけて下さい!」と言っているようなものだったわね。
「なんだ。グレーテ、お前も居たのか?」
お父様、絶対に最初からグレーテ叔母様の存在に気付いていたはず。
お顔がニヤけていらっしゃいますよ。
「ええ、お兄様。三姉妹で内緒のお茶会を楽しんでいましたのよ」
「誰が三姉妹だって?」
「嫌ですわ。冗談も通じないなんて……。ふふふ」
お父様はグレーテ叔母様とも、とても仲がよろしいの。この二人は、顔を合わせれば、いつもこんな風に冗談を言い合っています。
そんなグレーテ様に対して、お父様のお姉様であられるマリアンヌ伯母様の方は、大聖女様ということもあってお忙しいのか、ほとんどお城には戻って来られない。
だから、私もほとんど話をしたことは無いわ。
「ねえ、ラファエルも呼んで来て貰えるかしら? ラファエルだけ仲間はずれなのは可哀想よね」
お母様の一番近くに立って居たジネットが、今度はラファエルお兄様を呼んで来て欲しいと頼まれている。
「あの……。弟君のジョルジュ様は如何致しましょう?」
「ああ、あの子は今お昼寝中だから。わざわざ起こす必要は無いわ」
ジネットは普段私に向かって「令嬢らしくゆっくりお歩き下さい!」と言っているにも関わらず、自分は「令嬢としてはギリギリアウトでしょ!」と突っ込みたくなる程の素早い速度で歩き、あっという間に城の中へと消えて行った。
まあ、仕方ないか。
ごめんね、ジネット。今日は本当に大忙しだね……。
◇ ◇ ◇
「わあ、本当に美味しいね! 特に、このイチゴのタルト」
「ありがとうございます」
「これって、もしかしてルイーズが……」
遅れてお茶会に参加することになったラファエルお兄様は、お父様の視線を感じたのか、言いかけた言葉を途中で飲み込んだ。
第三皇女のヘンリエッタお姉様の一件依頼、お父様は “聖教会本部” と表立って対立はしていないけど、余り良好な関係とも言えない状態らしいの。
あのちょっと怖い感じのお付きの女性は、いざとなれば自分が皇王から聖女グレーテ様をお守りしようとでも考えているのか、お父様が同席してからずっと妙な緊張感を漂わせている。
流石に、こんな家族のお茶会の席で、お父様が聖教会の悪口なんて仰る筈無いわよね。そこは、曲がりなりにも一国の王なんですから。
聖教会の人たちは、本来は誰もが聖教会で受けるべき属性検査を私に受けさせることをお父様が拒否した件を、どうやらかなり根に持っているようね。
あのお付きの女性は、私に対してもお茶会の最初から冷たい視線を向けていたし。
光の魔力を持たない者を、聖教会関係者が下に見る傾向があるって言うのは、どうやら事実みたいね。
「そろそろお暇しようかしら」
グレーテ叔母様がそう言って、手にしていたティーカップを静かに下ろした。
聖女様付きの三人が一斉に動き出す。
「そうか。それじゃあ、ジャンヌ。我々も戻るか?」
「そうね、そろそろジョルジュも目を覚ますかもしれないわね。今日は本当に楽しかったわ。ありがとう、アデル、ルイーズ」
「「どういたしまして。お母様」」
「またね」
「「はい。グレーテ様」」
お母様はお父様と仲良く腕を組んで城の中へ、グレーテ叔母様は三人の教会関係者を従えて聖教会本部へと、それぞれ帰って行った。
二組の姿が完全に見えなくなると、ラファエルお兄様が小さく溜息をついた。
「どうか、されましたか?」
「なんだか変な緊張感がずっと漂っていて、折角の美味しいお茶とお菓子が……」
「まだ沢山あるので、ゆっくり召し上がって下さいね、お兄様」
「ありがとう。じゃあ、遠慮無く……。うん。やっぱり美味しいね! さっきは聞けなかったけど、このイチゴ、ルイーズが自分で育てたイチゴだろう?」
「はい、そうですよ」
「だと思った! 確かに見た目の大きさにも驚かされるけど、口に入れた瞬間、あまりのイチゴの美味しさにビックリしたよ」
「そうね。私もそう思ったわ」
「ですよね、アデル姉様! ルイーズの “緑の手” は本当に素晴らしい才能だよ。でも、父上は聖教会の人たちに、あまり知られたく無いようだったね」
「そうね。私もそんな気がしたわ」
「私が “緑の手” の持ち主だと言うことは、すでに聖教会にも知れ渡っていますよね? なのに、隠し必要があるんでしょうか?」
あの三人は食べたわけでは無いけれど、見てはいるわけよね?
お父様は何を知られたく無いのかしら?
それよりも、折角だから情報収集よ!
「ねえ、ラファエルお兄様。質問しても良いですか?」
「何だい? 僕に答えられることだったら良いんだけど」
「お肉についてです」
「お肉?」
アデルお姉様がクスリと笑った。
「お肉って……。ルイーズは、もしかして食べ物としての、あのお肉のことを言ってる?」
「はい!」
「聞き間違いでは無いわよ、ラファエル。さっきグレーテ叔母様にお会いしてから、ルイーズの頭の中はずっとお肉のことでいっぱいなのよ」
アデルお姉様のセリフに、ラファエルお兄様が可笑そうに笑っているわ。
でも、それはちょっと違うわ、お姉様。
私はグレーテ叔母様に会うもうずっとずっと前から、お肉のことで頭がいっぱいだもの!
私は料理人のメラニーに聞いた話、メラニーに旦那さんの料理長が他所の国で牛肉のステーキを食べた話、それから、さっきグレーテ叔母様の背後に居たちょっと怖い感じの女性が言っていたことをラファエルお兄様に伝えた。
「へぇ。面白いね!」
「面白いですか?」
「ああ。特に最後の聖教会の人の話が特に」
えええ。お兄様が興味を持ったのは、そこなの?
ぐぬぬ。ちょっとガッカリです。もっと牛肉のステーキの話題に食い付いて欲しかったのに……。
「前から思っていたんだけど、ここだけの話、聖教会ってちょっと胡散臭いと思わない? こんなこと、光の属性がある人の前じゃ絶対に口に出来ないけど」
「胡散臭いかどうかは兎も角、聖教会関係者は光の属性以外を蔑視していることは確かだと私も思うわ」
「ですよね。父上はヘンリエッタの時に随分と聖教会本部の最高幹部と遣り合ったみたいだけど……。他の親たちは何故子どもを聖教会に取られて文句も言わないのかな?」
「それがこの国の中では、当然のことと思っているのでしょうね」
今、お茶会のテーブルには、私とアデルお姉様とラファエルお兄様の三人だけ。
でも、私の侍女のジネットがすぐそこに控えている。ジネットは光属性では無いけれど、大の聖女様好きだ。
絶対、この会話、聞こえているわよね……。
アデルお姉様とラファエルお兄様の会話はその後も続いているけれど、全く私の頭には入って来なくなった。
だって、私、聖教会には全く興味なんて無いし! 私がしたかったのは、お肉の話だったし……。
「ねえ、その最後の一つ。僕が頂いちゃっても良いかな?」
ラファエルお兄様がお皿の上のタルトを指差した。
その瞬間、ジネットが一瞬だけ、なんとも恨めしそうなひどく悲しそうな顔をしたのが見えた。
ごめんね、ジネット!
明日は無理でも、近いうちに、絶対メラニーに同じ物を作ってってお願いするからね!
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