2 第四皇女と遅れて来た2人。
「ルイーズ様。馬車が3台入って来ますわ」
「そうね。……ジネット、見て! あの先頭の馬車。あれ、ローラよね?」
近付いて来る馬車の窓に貼り付くようにして、ローラが勢いよく手を振っているのが見えるわ。良かった、元気そうで。
私とジネットがザルツリンド王国の王都ゼーレンに到着してから遅れること1週間。やっとレンファス城の元女官長だった侍女のヒセラと、今後デザートを主に担当してもらうことになる料理人のローラを乗せた馬車が到着したのよ。
私をこの離宮まで運んでくれたザルツリンド王国飛竜騎士団第7分隊のハインツ・フォン・グフナー隊長が「馬車なら少なく見積もっても6日、場合よっては8日は必要」って仰っていた通りになったわ。
あら? 馬車から降りて来たヒセラは随分と疲れているように見えるわね。大丈夫かしら?
ローラの方は……。相変わらず元気いっぱいの笑顔だわ。特に変わった様子は見受けられないわね。
離宮の執事長のクラウス・アインホルンの指示で、後続の2台の馬車から次々と下される荷物が、どんどん離宮内に運び込まれていくわ。
「姫様。長らくお待たせ致しました。ヒセラ・モンカナ、たった今到着致しました」
「長旅ご苦労様。疲れたでしょう?」
「お気遣いありがとうございます」
「ヒセラ、貴女随分と疲れているように見えるけれど、もしかして途中で何かあったの?」
「いえ、ご心配には及びませんわ」
「本当に? ローラ、貴女は元気そうね。道中、変わったことはなかった?」
「実は3日前、私たちダーガルウルフの群れに遭遇しちゃったんです!」
「ローラ! 余計なことは姫様のお耳に入れなくて良いのよ」
ヒセラが黙っているようにと、ローラに手で合図を送っている。ヒセラ的には、私には聞かせたくないってことよね?
荷物を運び入れる指示を終えたらしいクラウスの靴音がこちらに近付いて来て、私の少し後ろで立ち止まったのが分かったので、私は振り返ってクラウスに尋ねることにしたの。
「今、ダーガルウルフって聞こえた気がするのだけれど……。ねえ、クラウス。ダーガルウルフって何なのかを私に教えてくれるかしら」
「ダーガルウルフというのは、林の中に生息している中型の魔獣です。単独であれば然程脅威を感じる必要のない魔獣ですが、群れに遭遇したのであれば多少は厄介かもしれませんね」
「そうなの?」
「はい。ですが、それは一般的な場合の話です。今回は、馬車の前後に王国騎士団の者たちがいた筈ですし、上空には飛竜騎士団も飛行していたでしょう。ダーガルウルフの群れ程度でしたら、すぐに制圧可能と思います」
ローラの方を見ると「そうです、そうです!」って感じでクラウスの話に何度も大きく頷いているわ。
「姫君。お茶の支度ができておりますので、お話の続きは中でごゆっくり」
「そうね。そうしましょう!」
◇ ◇ ◇
「じゃあ、さっきクラウスが言っていたように、王国騎士団の人たちがあっという間にそのダーガルウルフの群れを制圧しちゃったのね?」
「そうなんです! ダーガルウルフの総数は分かりませんが、かなりの数だったと思います。騎士って本当に凄く強いのですね。私、ビックリしました!」
私たちの祖国であるグルノー皇国には魔獣なんてものは存在していないから、ローラにとっては、魔獣を見るのも、騎士が魔獣を倒すのを見るのも、もちろん生まれて初めての経験だったのよ。
当然ヒセラにとってもね。
ローラが、ダーガルウルフが如何に大きくて獰猛そうだったか、騎士たちがどんな風にダーガルウルフを倒していったかを、身振り手振りを交えて語ってくれたので、私とジネットはまるでその場にいたかのような手に汗握る臨場感を追体験することができたわ。
きっとこの離宮に到着した時と同じように、ローラは馬車の窓にピッタリと張り付いて、馬車の外で繰り広げられている魔獣と騎士との戦いを見ていたのでしょうね。
一方のヒセラは、馬車の周りにダーガルウルフの群れが現れたと耳にした時点で、恐ろしくて馬車の隅でガタガタと震えていたみたい。窓の外を覗き見る勇気は全く出なかったらしいわ。
ダーガルウルフの話を含めた馬車の旅の話がひと段落したところで、クラウスが明日の予定について私たち4人に説明をしたいと言ったので、皆で揃って聞くことになったの。
「明日ですが、ここから直接ゼーレン城へは入りません。姫君にはこの離宮にてお支度を整えられた後、まずはヘンラー公爵家の別宅へ一旦向かって頂きます」
「ヘンラー公爵家? それも別宅へですか?」
「はい。理由は、如何にも姫様が明日、この王都ゼーレンに到着したかのように見せるためです」
「言っている意味が……」
私はもう1週間も前からこのゼーレンの離宮にいるのに?
到着したばかりの振りをするってどういうことなのかしら?
「ヘンラー公爵家の別宅は、王都ゼーレンの北の端にございます。この離宮から公爵邸へはありふれた馬車で向かい、公爵邸で公爵家の馬車に乗り換えて、再び王宮を目指して頂きたいのです」
「それってつまり?」
「明日、王宮までの道ではザルツリンド王国第二王子のハインリッヒ殿下の婚約者であるグルノー皇国の姫君を出迎えようと、大勢の者たちが押し寄せることが想定されております」
「えっ?」
「第二王子の婚約者様の入国を知ったゼーレンの街の者たちは、大変な盛り上がりをみせていると聞き及んでおります」
「待って! 私はあくまでも婚約者候補の1人、ですよね?」
「左様でございますね」
「ゼーレンの街の人たちは、婚約者候補が到着する度に毎回大歓迎をして出迎えるのですか?」
「毎回ではございません。婚約者を迎えるのは今回が初めてです」
「ええと……」
「過去、ハインリッヒ殿下にルイーズ姫君以外の婚約者候補など、1人として存在していたことはございません」
んーーー? 若干お父様から聞いていた話とは違うような……。
つまり、こういうことかしら?
ゼーレンの街の人たちは、初となる第二王子の婚約者候補の入城に舞い上がっているから、その期待に応えるために、如何にも私は「今到着したばかりです!」って感じで、明日馬車に揺られていれば良いってことなの?
「ふふふ。なんだか面白いわね。良いわ。明日は、クラウスの指示に従うわ」
「ありがとうございます。では、詳しいことは明日改めて」
「ええ。そうして頂戴」
「あ、あの……」
クラウスが私に向かって一礼をして部屋から出て行こうとするのを遮るように、ジネットがクラウスの背中に向かって声をかけたの。
「何でしょうか?」
「明日、王宮に向かわれるのはルイーズ様お1人でしょうか? 明日中にルイーズ様はこの離宮にお戻りになられますか?」
「ああ、申し訳ありません。明日は皆様お揃いで王宮へと向かって下さい」
「えええ! 皆様って、まさか私もですか?」
壁際の椅子に座っていたローラが、突然そう叫びながら飛び上がったの。
あまりの大声に部屋にいた皆の視線が一斉に自分に集まったことに気付き、ローラは慌てて両手で口を押さえているわ。
「左様でございます。マキシミリアン陛下は、グルノー皇国からおいでの皆様を揃って王宮へお招きになられると伺っております」
「ですが、私は唯の料理人です……」
「陛下のご意向ですので、その点は特に問題はございません」
ローラが躊躇うのも分かるわ。ヒセラやジネットは私の侍女とはいえ貴族だからマナーも心得ているけど、ローラは王宮で自分がどう振る舞ったら良いのか見当もつかないのでしょうね。
「ローラ。大丈夫みたいだから安心して。それに私がついているわ。貴女が困るようなことには絶対にならないわよ!」
「本当に?」
「ええ。だって、ローラは私の大切な料理人なのだもの。私が貴女を絶対に守ってあげる!」
「ルイーズ様……。ありがとうございます!」
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