58 第四皇女、空を飛ぶ。
「凄い! 凄いわ! 私、本当に空を飛んでいるのね!」
「姫君。余り身を乗り出さないでくれ! 落ちていく人間を空中で回収する任務の成功確率はかなり低いぞ」
「そうなの? まあ……そうよね。気を付けるわ」
あの後。涙目のジネットが「一緒に飛竜に乗っても良い」と言ってくれたので、私はこうして今、空の旅を満喫しています!
◇ ◇ ◇
「お初にお目にかかります。ザルツリンド王国飛竜騎士団第7分隊の隊長を務めております、ハインツ・フォン・グフナーです。王命によりルイーズ・ドゥ・グルノー皇女殿下をお迎えに参りました」
「出迎え感謝致します。ルイーズ・ドゥ・グルノーです」
正式な引き渡しの場に現れたのは、ザルツリンド王国飛竜騎士団第7隊の隊長と名乗ったあの竜騎士様でした。
その横に、あの日竜騎士様と一緒に皇城の裏庭にいて、お城の警備の者に散々文句を言っていた騎士様が立っています。どうやら、彼がヨハネス副隊長のようね。
ハインツ隊長だけでなく、ヨハネス副隊長の方も、まるで私とは今日が初対面かのような顔をして私に礼儀正しく挨拶をしてくるので、私も取り敢えずそれに合わせてみることにしたわ。
「先程ヨハネスの方から説明させて頂いた通りですが、飛竜にて王宮へ向かう場合、途中竜騎士団支部で1泊する必要はありますが、その翌日には王宮へ到着が可能です。馬車ですと、あれだけの量の荷物もありますし……。少なく見積もっても6日、場合よっては8日は必要かと思われます」
隊長さんは、飛竜で王宮へ向かう場合と、馬車で向かう場合の、両方のメリットとデメリットを丁寧に私たちに説明してくれたの。
「初めて竜に乗る姫様に、絶対に危険が及ばない保障が貴方にお出来になりますか?」
「もちろんです。この命を賭して姫君をお守り致します」
ここでは長くなるので詳細は省くけれど、ヒセラと隊長さんとのやり取りの結果、私は馬車ではなく、飛竜の背に乗っています。
流石に、全くの初心者な私がいきなり単独騎竜などできる筈もないので、私はハインツ・フォン・グフナー隊長の飛竜に同乗させてもらうことになったわ。
もちろん、私がお城の裏庭に竜を見に行った時に出会ったあのヴァイスよ。
ヴァイスはどうやら私のことを覚えていてくれたみたいで、特に嫌がることもなく私を背に乗せてくれたの。本当に良い子!
「ぎゃーぅ」
「ああ、もう! ちゃんとおとなしく鞄の中に入っているって約束、忘れちゃった? 落ちていく人間を空中で回収する任務の成功確率は低いそうよ。私よりももっと小さい貴方がもしも落ちたら……。想像したくないわ」
結局 “聖なる森” で保護した白い仔猫は、隊長さんの計らいもあって、一緒にザルツリンド王国へ連れて行くことになったのよ。
最初ヒセラは、私が仔猫を連れてザルツリンド王国へ行くことに大反対だったわ。
だけど、そんなヒセラに対して隊長さんが「ザルツリンド王国の人たちには動物好きが多いから、姫君が仔猫を連れて王宮へ入っても何も問題は起きないでしょう」と言って説得してくれたの。
出会ったばかりの仔猫はすっかり私に懐いてしまっていたし、その隊長さんの言葉を聞いて、ヒセラも渋々ながら了承してくれたわ。
これは私の予想よ。ヒセラは隠しているようだけれど、絶対に猫好きだわ!
そんなこんなで、グルノー皇国を出発してからリスカリス王国最初の町までずっと一緒に馬車の旅をしてきた皆に別れを告げて、4人と1匹はザルツリンド王国を目指します!
私と仔猫とジネットは飛竜で。
ヒセラとローラ、それからお母様が用意して下さった大量の荷物は引き続き馬車の旅よ。
ちなみに飛行直前、ジネットが真っ青な顔でヨハネス副隊長の深緑色の竜の背に跨っているのが見えたわ。ジネット、気絶していなければ良いけど……。
あら、嫌だわ。また話が逸れちゃったわね。
そうよ、仔猫の話をしていたのよ! 最初はローラが馬車で仔猫も一緒にザルツリンド王国まで連れて行ってくれる方向で話が進んでいたの。
でもね、どうしてだか仔猫は私の側から離れようとしないのよ。だから、仕方なく飛竜で一緒に連れて行くことになったの。
とはいえ、ずっと私が抱っこしているわけにもいかないでしょ?
悩んだ挙句、布製の鞄に仔猫を入れて、その鞄を私の身体に括り付けることにしたのよ。落ちない(落とさない?)ようにね。
最初仔猫は、急あつらえの鞄を嫌がってか、なかなか中に入ってくれなくて……。
どうなることかと凄く心配していたのだけれど、隊長さんの飛竜を見た途端に、何故だか急に気が変わったみたい。
呆気ないくらいすんなりと鞄に自分から収まったのよ。
なのに、こんな上空まで来ちゃってから、鞄からひょこっと顔だけを覗かせて、キョロキョロと興味深げに周りを見回し始めたわ。
「お願いだから鞄の中でじっとしていて! 落ちたら大変なのよ!」
「顔だけを出しているだけだろう? なら、大丈夫。ずっと狭いところに押し込められていたから、新鮮な空気が吸いたいのだろう?」
「ぎゃーぅ」
今回、ヴァイスの背には以前お城の裏庭で見た時とは違って、ちゃんとタンデム用の鞍が取り付けられています。
私が前、隊長さんが私の後ろに座って手綱を握っているのよ。
もしも逆だったら? 私は飛行中ずっと大きな隊長さんの背中しか見えないところだったわね。私が隊長さんの前で本当に良かったわ。
もちろんドレスは着替えたわよ。隊長さんが用意して下さったもので、ヒラヒラもキラキラもなくて、なんと細身のパンツスタイルよ。こんなの初めて!
でも、これ……。ちょっと、いえ、かなり大きめだわ。
「うちの隊には所属していないけれど、他の隊に数名女性騎士がいて、それは彼女たちからの借り物だからね。ああ、まあ、若干サイズが……。2日間だけそれで我慢してくれると助かるよ」
「竜騎士には、女性もいるのですか?」
「ああ。飛竜騎士団の任務は過酷だし、多くはないけどね」
「だったらこれ、女性騎士の隊服ってことなの?」
「そうだよ。ズボンを履くのは初めてかな?」
「いいえ。畑仕事をする時には履くこともあるわ。こんなに細身のものではないけれど」
「畑仕事? 君が?」
「ああ、えっと……。まあ極稀に?」
“土いじり” だって令嬢としてはあまり外聞が良くないのに、つい “畑仕事” なんて言っちゃったわ……。
隊長さん、王族の誰かに私が畑仕事をしているって報告しちゃうかしら?
まあ、喋ってしまったものは仕方ないわね。
飛竜は、たぶんもの凄いスピードで飛んでいるのだと思うけれど、想像していたよりもずっと快適なのよ。意外と風の影響も少ないわ。
詳しい仕組みはなんだかよく分からなかったけれど、どうやら快適に飛行を補助する魔導具が取り付けられているみたいよ。だから、こんなふうにお喋りしながらの飛行も可能なのですって。
「貴方の所属は “第7分隊” ってことだったけど、飛竜騎士団は第何分隊まであるのかしら?」
「7だよ。各分隊の隊員は概ね7〜10名。各隊に隊長と副隊長がいる。その上に飛竜騎士団を統括している騎士団長が1人だね」
「皆、それぞれ自分の飛竜に乗っているのよね?」
「そうだね」
「じゃあ、ザルツリンド王国には、凄く沢山の飛竜がいるってことね?」
「ああ。でも、騎士団の飛竜は大抵が野生の竜ではないよ。血統的に代々飛竜として育てられているのがほとんどだね」
「この子、ヴァイスもそうなの?」
「ああ。ヴァイスの父親も騎士団に所属している。騎乗しているのは団長だよ」
「まあ、そうなのね。でも、ザルツリンド王国には野生の飛竜も多く生息しているのでしょう? 私『竜の山峡』っていう本で読んだわ」
「へえ、あの本を読んだことがあるの? どうやって手に入れたんだい? かなり貴重な本なのに」
「貴重? そうなの? 私の兄が、友人から譲り受けたものなのよ」
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