表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/262

57 第四皇女と竜国の騎士。

「随分と懐いているね。その子の(あるじ)は君なの?」

「そうだったら良かったのだけれど、私、これから向かわなくてはならないところがあって……」

「だから、面倒をみることはできない?」



眩い太陽の光を背負って立っていたその背の高い男の人は、そう言いながら、私の隣に並ぶようにして座ったの。

あら。あらら。もしかして……。



「やっと思い出してくれたみたいだね?」

「貴方、あの時の竜騎士様?」

「そうですよ、お嬢さん」



よくよく見れば、私の隣にしゃがみ込んだこの人は、今私がここに居る原因ともなった “親書” を届けるため、ザルツリンド王国からレンファスのお城に来ていたあの竜騎士様だわ!


とは言っても、あの時はこの人がお父様に “親書” を手渡したすぐ後だったなんて全然知らなかったけど。

あの日。私はジネットから竜と竜騎士がお城に来ていると聞いて、竜を見たさに頭からすっぽりと黒っぽい大きな布を被って裏庭へ向かったのよ。

頭から布を被ったのは、竜はヒラヒラした物やキラキラした物を好むと聞いていたからよ。だって、私のふわふわの金色の髪の毛に竜が食い付いたら大変でしょう?


遠くから眺めるだけのつもりだったのだけれど、繋がれていた2頭の竜の主たちに覗き見している現場を見られてしまって、この人から竜の近くまで行く許可を得たのよ。

近くで見る飛竜は想像以上に大きくて……。でも全然怖いとは思わなかった。それどころか、凄く美しい生き物だと思ったわ。



「ぎゃーぅぅぅ」



驚いたことに仔猫は、突然、私の横に座った騎士様と私との間に割り込んで、大胆にも騎士様に向かって威嚇を始めたのよ。

小さな前足で猫パンチを繰り出したのだけれど……。効果はないみたい。くふふ。可愛い♪



「大丈夫。僕には君のご主人様を害する気なんてないからね」

「そうよ。小さな貴方じゃ、どんなに頑張っても大きな騎士様には敵いっこないわ。でも、私のことを守ってくれようとしたのよね? その気持ちは凄く嬉しいわ。ありがとう」

「ぎゃーぅ」

「あの、騎士様。お聞きしても良いかしら?」

「なんなりと」

「もしかして、貴方もザルツリンド王国から来られている護衛の1人なのかしら?」

「護衛? ああ、まあ……。そうだね、そんな感じかな」



そう言いながら騎士様は、仔猫が驚かないようにゆっくりと仔猫の方へ手を伸ばしたわ。

もしかして、猫がお好きなのかしら?



「ぎゃーぅぅ」

「あはは。やっぱり駄目だ。触らせてくれそうもないね……。この仔猫は、本当に君のじゃないの?」

「いいえ、違います。実は昨日 “聖なる森” の中で弱っているこの子を見つけたので取り敢えず保護したのです」



私は騎士様に、昨日この仔猫を “聖なる森” の途中で見つけて、ここまで連れて来ることになった経緯を簡単に説明したわ。



「成る程ね。“聖なる森” で」

「騎士様なら既にご存知でしょう? 私、今からザルツリンド王国へと向かわなくてはならないのです。その前に、この子の面倒を見てくれる人を探そうと思っていて……」

「こんなに君に懐いているのに?」



そうかもしれないけれど、許可もなく仔猫をザルツリンド王国へ勝手に連れて行くことはできないでしょ?

私だって、連れて行っても良いなら、一緒に連れて行きたいわ!



その時、何かを叫びながら誰かがこちらへ向かって来る声が近付いて来たの。人を探しているみたいね。

次の瞬間。馬小屋の向こうから、私の横に座っている騎士様と似たような服装をした男の人が顔を覗かせたわ。



「あっ、隊長! こんなところにいらっしゃったのですね! 良かったー。あちこち探してしまいましたよ」

「悪い、ルドファー。もうそんな時間か?」

「いえ、時間でしたらまだ大丈夫です。隊長のお姿が急に見えなくなったので、ヨハネス副隊長がすぐに隊長を探して来るようにと皆に」

「分かった。用事が済んだらすぐに戻る。先に戻っていて構わないぞ」

「了解しました! でも、本当にすぐに戻って来て下さいね。副隊長が再び騒ぎ出す前に、約束ですよ!」



その若い騎士様は私に向かってぺこりと頭を下げると、踵を返して元来た方へと走って戻って行ってしまったわ。



「隊長さん。なのですね?」

「ええ、まあそうですね。ですが “隊長” とは言っても、同じような役職の人間は騎士団には他にも大勢いますから。特に珍しくもないですよ。では、部下たちにまた探させることになっては可哀想なので、私はそろそろ仕事に戻ります」



立ち上がった隊長さんは、急にお仕事モードになったのか、さっきまでと言葉遣いが変わっているわ。



「あっ、はい」

「では、また後ほどお会い致しましょう」



  ◇   ◇   ◇



「ルイーズ様! いったいどちらへ行かれていらしたのです? ルイーズ様がいらっしゃらない間に大変なことになっていて……。って、あら?」

「駄目だっていくら言い聞かせても、付いて来ちゃうのよ」

「あらあら。可愛いこと。すっかり懐かれてしまいましたね。って、それより。大変なんです!」



部屋に戻る途中の廊下で、慌てた様子のジネットと出会ったわ。

ジネットの話によると、私が馬小屋に仔猫を見に行っている間にザルツリンド王国の方が訪ねて来たらしいのよ。

私が部屋に居ないので、レンファス城から同行してくれている2人の事務官と、侍女のヒセラとジネットとでどうにか応対してくれたみたい。



「それで? 何が大変なの?」

「私が説明するよりも、事務官の方から直接お聞きになって下さい。部屋でお待ちですから」

「ザルツリンド王国の方もいらっしゃるの?」

「その方はもうお戻りになりました」

「そうなのね」

「それで、あの、ルイーズ様」

「なあに?」

「その仔猫は、どうなさるおつもりですか?」



ジネットが、振り返って仔猫を見ているわ。

困ったことに、仔猫は馬小屋からずっと、私の後ろを付かず離れず歩いて付いて来るのよ。



「どうしようかしらね?」



  ◇   ◇   ◇



「本当に? そんなお申し出を頂いたのなら、私、是非ともお受けしたいわ!」

「姫様、本気でございますか?」

「ええ。もちろん本気よ! ヒセラは……。(もう歳なんだし)別に無理しなくても全然良いのよ。ジネットは、どうする?」

「私? 私は……」

「たぶんジネットも無理よね。良いわよ。そうしたら、そうね。私は1人で先に行くから、2人は私のことは気にせず後からゆっくりと来て頂戴!」

「「そういうわけには参りません!」」



今まさに何が問題になっているかといえば、この町からザルツリンド王国の王宮までの移動手段に関してなのよ。

ご存知のように、レンファスからここまで私たちは馬車で来たのだけれど、この後も馬車を利用して王宮へ向かう場合、更に6日程はかかるそうなの。(←私の予想だと、もっとかかると思うわ)

でも、もし飛竜に乗った場合、たったの2日で王宮に到着することも可能なのですって!



「飛竜に乗るなんてとんでもないことですわ、姫様!」

「飛んでもない? くふふ。実際に空を飛ぶけどね」

「笑い事ではございません!」



あらら。怒られちゃいました。


ヒセラは駄目って言うけれど、私は折角の機会だし是非とも飛竜に乗りたいわ!

だって、もうこれ以上馬車に揺られるのは耐えられないし。

馬車で最低でも6日かかるところを、飛竜なら2日なのでしょう? 断然そっちの方が良いと思うわ!



「安全性は問題ないとのことでした。グルノー皇国を出た以上、地上を進めば今後は魔獣と遭遇する危険性も出てきます。その点では、飛竜の方が安全と言えるかもしれません」

「ですが、ルイーズ様お1人だけというのには問題がございます。せめて2人の侍女のうち、どちらか1人にはルイーズ様に同行して頂かないと困ります」



レンファス城の事務官2人としては、絶対に反対ってわけではないみたい。

飛竜で行くのが、私1人でなければ良いのよね?



「だったら、ローラはどうかしら?」

「それは許可できません。料理人のローラ1人では姫様の身の回りのお世話は無理ですからね」

「……確かにそうね」

お越し頂き & お読みいただき、ありがとうございます♪

この作品は、ちょっとゆっくり目の更新になりそうですが、続きが気になる! と思って頂けましたら、是非ブックマークや評価をお願いします!

思わず嬉しくなって、更新ペース上がっちゃう……かも?

評価はこのページの下側にある【☆☆☆☆☆】をタップすれば出来ます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ