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55 第四皇女と聖なる森。

グルノー皇国側の最後の町を私たちが馬車で出発したのは、まだ朝日が顔を出す前だったの。

こんなに早起きをしたの、私、生まれて初めてよ。


まだ薄暗い “聖なる森” の一本道をひたすら走って、周りがすっかり明るくなっても馬車の速度は落ちることがなくて、やっと最初の休憩だと知らされて馬車を降りた時には、私のお腹は完全に空っぽの状態だったと思うわ。



「ローラ! 会いたかったわ!」

「ふふふ。私に会いたかったのではなくて、ルイーズ様は、私が持っている食べ物に会いたかったのでしょう?」

「えっ? まあ、それもあるけどぉ……。ローラに会いたかったのも、嘘じゃあないわよ!」



ローラとは同じ馬車ではないのよ。

私の乗る馬車に同乗しているのは、元皇城の女官長で先代のモンカナ侯爵の第六夫人だったヒセラ・モンカナ(ちなみに彼女は先代のラボイ侯爵の五女よ)と、シャルハム伯爵家の三女のジネット・シャルハムの2人。

ローラはお城の料理長と、私が小さい頃から美味しいお菓子を作ってもらっていた料理人のメラニーの娘。

私は全然そんなことは気にしないのだけれど、ローラは貴族でも侍女でもないので、皇女である私とは同じ馬車には乗れないのですって。



「さあ、私は今から大急ぎで皆様のお昼の支度を致しますから、ルイーズ様はもう暫くお待ち下さいね!」

「分かったわ。ローラ1人で大変だと思うけど、頑張ってね! 美味しい物を期待しているわ」

「はい。お任せ下さい!」



今リスカリス王国へと向かっているのは、馬車が全部で4台と人が20人。

でも、実際にリスカリス王国経由で最終目的地のザルツリンド王国まで行くのは、私と、私の侍女のヒセラとジネットの2人、それから私の専属料理人になったローラの合わせて4人だけよ。


でも折角だから、私たち4人以外の16人の人たちがどんな顔触れなのかも、一応お伝えするわね。

お城の事務官が男女1名ずつと、4台分の馬車の御者が4人。(←4台ある馬車のうち2台には、お母様が私のためにと持たせて下さった大量の品が積まれてます)

それから護衛として、それぞれの馬に跨った騎兵が10名よ。

リスカリス王国の最初の町まで私たちを送り届けたら、彼らはそのままもと来た道を引き返して、グルノー皇国の皇都レンファスへと戻る予定。

荷物も下ろすし、きっと帰り道は行きよりもずっと早いでしょうね。



ここまでの道中、宿泊はその土地の貴族の屋敷か宿だったので、ローラは今まで一切食事の支度をしていなかったの。その必要もなかったしね。

今日の夕食は、このまま順調に行けばリスカリス王国の最初の町の宿で食べることになるので、今回のこの昼食が唯一この旅でのローラの腕の見せ所ってことになるわね。



「とは言っても私がするのは、持って来た食材をパンに挟んでサンドウィッチを作るのと、予め用意しておいたスープを温めるだけですけどね」

「それだってご馳走だわ! 私、もうお腹がぺこぺこで倒れそうだもの」



ローラは騎兵さんたちに手伝ってもらいながら手際よく火を起こして、スープ用の鍋を温めると、20人分のサンドウィッチを作り始めたわ。

私も何かローラを手伝いたかったけど、多分、私が手を出すと余計な手間を増やすことになるだろうから、少し離れた場所から見守るだけにしたの。



「ルイーズ様。私の気のせいかもしれませんが、近くで、水の流れる音が聞こえるような気がするのですが……」



ジネットが立ち上がって、辺りをキョロキョロ見回し始めたの。

そうね! 確かに、水の流れるような音が聞こえて来るわ。



「その先を少しだけ行ったところに、綺麗な小川が流れていますよ」

「そうなの?」

「今から新鮮な水を飲ませるために、馬たちをその小川まで連れて行こうと思っているんです。良かったら、食事が出来上がるのを待っている間に、一緒に見に行ってみますか?」



私とジネットとのお喋りが聞こえていたみたいで、私たちが乗っていたのとは別の馬車の御者が話しかけて来たわ。



「見てみたいわ! ねえ、ジネット。ちょっとだけ行ってみましょうよ!」

「お待ち下さいね、ルイーズ様。あの、ヒセラ様。ルイーズ様と小川を見に行って来ても宜しいでしょうか?」

「見るだけでしたら構いませんよ。ですが姫様、呉々も足を水に浸してみようなんて気を起こしませんように!」

「そ、そんなこと私は考えていないわよ!」



思わずそう答えたけれど……。むむむ。子どもの頃からの付き合いだけあって、ヒセラ、完全に私の行動パターンを熟知しているわね。



今回リスカリス王国までの馬車を走らせてくれている御者たちは、4人とも普段は聖教会の馬車を走らせている人たちなのですって。

聖女様の一行を乗せて何度もこの “聖なる森” を抜けた経験がある人たちが選ばれたらしいの。

だからこの一本道にも詳しいのね。



小川は、本当にちょっと歩いた先にあったわ。

御者は両手に馬の手綱を持って、じゃぶじゃぶと小川に入って行くの。馬も慣れた様子で御者の後ろをついて行くのよ。水飛沫が上がって、馬たちはとても気持ち良さそう。羨ましいわ。

もちろん私は、小川になんて入らないわよ。



「小川の水はとても綺麗だし、ここの空気もなんだか凄く澄んでいるわね。ジネットもそう思うでしょ?」

「そうですね。流石は “聖なる森” ってことでしょうか?」

「あら?」

「どうかされましたか?」

「ねえ、ジネット。あそこに、何か居るわ!」



小川の上流の岩影に、白っぽいモコモコした何かが動いているのが目に入ったの。

んんん? 何かしら?

よく目を凝らして見てみると、なんだか動物っぽいかんじよ。猫?

警戒しつつ少しずつ私たちが距離を詰めていっても、そのモコモコした何かは全然逃げる素振りを見せないのよ。

もしかして……弱っているのかしら?



「ルイーズ様。これ以上近付いては駄目ですわ! もしかすると、危険な生き物かもしれませんし」

「でも、ジネット。良い? ここは “聖なる森” の中なのよ。だったら、あの白いモコモコが魔獣ってことは絶対にないわよね? “聖なる森” に魔獣は居ないって言っていたじゃない?」

「それは、そうですが……。もし悪い病気でも持っていたら困ります。それに、随分と汚れています」

「でも、見て! 小さいわ。まだ生まれたばかりかもしれないわよ。あのままにしておくと……。すぐに死んでしまうかもしれないわ!」

「ですが……」

「取り敢えず、もっと近付いてみましょう。ね、あれが何なのかを確認するだけだから!」

「本当に? 確認だけですよ!」



  ◇   ◇   ◇



「それで、ルイーズ様はジネット様の忠告をお聞きにならずに、その “毛玉” をここまで連れて来ちゃったのですね?」

「毛玉? ふふふ。そうね確かに “毛玉” だわ!」

「ルイーズ様。笑い事ではありませんよ!」



ローラの言うところの “毛玉” は、私は余り猫の品種に詳しくないから分からないけれど、おそらくは長毛種の猫だと思うの。

もしかすると、私たちよりも少し前にここを通過した誰かの落とし物かもしれないわね。

休憩中の馬車から勝手に抜け出して、そのことに気付かずに馬車は出発してしまった可能性もあるかも。



「だって、弱っているみたいだし。あのまま放っておくのは可哀想だわ。ローラ、ちょっとで良いからパンをあげてみたら駄目かしら?」

「パンですか? それは構いませんが……。かなり弱っているみたいだし、パンなんて食べられるかしら? ミルクがあれば良かったのですけど」

「ルイーズ様。何か食べさせるなんてやめましょう! もしヒセラ様に見つかってしまったら……」

「私がどうかしましたか、ジネットさん?」

「ヒ、ヒセラ様?!」



ヒセラが私たちのすぐ後ろに立っていたなんて、私、全然気付かなかったわ。ヒセラったら、上手に気配を消し過ぎよ!



「パンを、水でふやかしてから食べさせてみては如何です?」

「水で、ふやかす?」

「そうですわ。柔らかくなれば少しは食べやすくなるでしょう?」

「そうね! やってみるわ!」

「姫様。もしもその猫が元気になったとしても、ザルツリンド王国へ一緒に連れては行くことはできませんよ」

「……分かっているわ」

「猫でしたら、上手に鼠を獲ります。大丈夫。元気にさえなれば、すぐに引き取り手は見つかりますわ」

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