49 第四皇女と付き合いの長い侍女。
「とっても良い香りですね!この美味しそうなお菓子は何ですか?」
今日は弟のジョルジュとで次に販売する予定の化粧水の打ち合わせをしている研究室まで、ローラがわざわざケーキを運んで来てくれています。
最初はメラニー以外の料理人が作るお菓子に対して懐疑的だったジョルジュも、今ではすっかりローラが作ってくる目新しいお菓子の虜のよう。
「殿下、そちらはリンゴとアーモンドのケーキです。生地に甘く煮たリンゴを混ぜて、上に薄くスライスしたアーモンドをたっぷりと乗せて焼き上げてみました」
「アーモンドとリンゴ! それは、絶対に美味しい組み合わせですよ!」
ローラは特に触れなかったけれど、ケーキの上面に振りかけられた真っ白な粉砂糖が、凄く私好みだわ!
遠慮というものを全く知らないジョルジュは、ケーキを切り分けようとしているローラに向かって「自分用には大きく切り分けて欲しい!」と、ちゃっかり頼んでいるではないの。
「うわぁ、美味しい! これ、本当に最高の組み合わせだ!」
「お褒めの言葉をありがとうございます、殿下」
ジョルジュはリンゴとアーモンドのケーキを相当お気に召したようで、あっという間に取り分けて貰った1つ目を平らげてしまったわ。あんなに大きく切って貰っていた筈なのに。
ローラが満面の笑みを浮かべながら、ジョルジュのお皿に追加のピースを、さっきのよりも更に大き目に切り分けています。
ローラったら、ジョルジュに甘過ぎるのではないかしら?
そんな2人を横目に、ジネットが私に声をかけてきたの。
「ルイーズ様。あの……。少しお聞きしても、宜しいですか?」
「何かしら?」
「ヴィルヘルム皇王陛下からは、その後、何か、お話はありましたか?」
「お父様から?」
「はい。えっと、ルイーズ様とザルツリンド王国へ向かう従者の人選に関してです」
「ああ、専属料理人のこと? それなら、何度かお父様にはローラを一緒に連れて行きたいってお願いはしているのだけれど、まだ何も……」
「えっと、そうなのですが、そうではなくて……」
いつも私に対しても割とはっきりと意見を言うジネットが、こんな風に言い淀むのは珍しいわ。
お城の料理人のメラニーから「姫様の専属料理人の1人としてザルツリンド王国へ連れて行って頂きたいのです」と言って紹介されたのが、メラニーの末娘のローラだったのよ。
もう半年くらい前になると思うわ。あれから、ローラは空き時間に新しいお菓子を試作しては、時々こうして私のところへ運んで来てくれるようになったの。
それをジネットもいつも一緒に試食しているのだけれど……。ローラと何かあったのかしら?
「ルイーズ様。私も、ルイーズ様とご一緒したいと思っています!」
「ん? どこへ?」
「もちろんザルツリンド王国へです!」
「本気なの? だって、ザルツリンド王国って言ったら、あの “竜国” よ?」
「存じておりますわ!」
「でも、ジネット。貴女、あんなに竜を怖がっていたのに?」
ジネットは、ザルツリンド王国からの “親書” を届けに来た竜騎士が乗って来た竜を内緒で見に行った時、酷く怖がって全然竜に近付くことができなかったのよ?
最終的にジネットは腰を抜かしてしまって……。
竜騎士様にお城の入り口まで抱えて運んで貰っていた姿は、まだ私の記憶に新しいのだけれど……。うーん、本当に大丈夫?
「私はルイーズ様が居られないのなら、他の方の侍女をしてまでこのお城に残るつもりはございませんし、かと言って、ルイーズ様はご存知だとは思いますが、実家にも、もう私の居場所はありません」
もちろん、それは知っているわ。
ジネットは、シャルハム伯爵家の三姉妹の末っ子なの。
シャルハム伯爵家も男児に恵まれず、ジネットの一番上のお姉さんがどこぞの伯爵家の次男さんを婿養子として迎えたのよね。
城勤めをすることになったジネットが私の侍女となって、私たちが初めて顔を合わせたのは、ジネットが17歳の時だったわ。
その1年後位だったかしら、ジネットのお姉さんが結婚をしたのは。
それを機に、ジネットは実家のシャルハム伯爵家を出て、お城で暮らすようになったんだったわね。
ジネットは今年で27歳だから……。もう10年近くも前の話よ。
うわぁ、私たちもいつの間にか随分と長い付き合いになっていたのね。
「ジネットが私と一緒にザルツリンド王国へ行ってくれるなら、私としては凄く心強いわ!」
「陛下は、お許し下さるでしょうか?」
「お父様が駄目だと仰ったら、ジネットは一緒には行ってくれないの?」
「いいえ。荷物に紛れ込んででもお供致しますわ!」
「ふふふ。この調子だと荷物は凄く多くなりそうだから、ジネットが隠れられそうな場所は、きっといっぱいあるわね!」
「できれば、荷物に紛れ込む以外の方法で向かいたいですわ」
◇ ◇ ◇
「ルイーズ。ザルツリンド王国へ行く話だが、出発は来月末に決まった。先ずは、馬車でリスカリス王国を目指す」
数日後。私はお父様の執務室に呼び出されました。
いよいよ、ザルツリンド王国へ行く話が本格的に動き出すようです。
「リスカリス王国ですか? “聖なる森” を抜けるのですね?」
「そうだ。“聖なる森” を抜け、国境を越えてリスカリス王国に入る。そこまでは、我が国の “皇国聖騎士団” が馬車を護衛する」
「国境を越えるまで、ですか?」
「国境を越えた場所で、ザルツリンド王国側の騎士たちが待っているそうだ。護衛はそこで交代する」
皇国聖騎士団とは、一応、グルノー皇国の精鋭部隊です。
とは言っても、以前お話ししたと思いますが “聖なる森” と “聖女の結界” に守られているグルノー皇国には魔獣はいません。
その上、この国は日頃から平和で争い事が起きないので、皇国聖騎士団員たちが武力を行使しなくてはならない場面に直面することは「ない」と言っても過言ではないでしょう。
つまり彼らは、訓練は積んでいても、実践経験はないのです!
“聖なる森” を抜けてリスカリス王国へ入ってしまえば、いつどこで魔獣に遭遇してしまうか分からない状況に晒されることになります。
実践経験のない聖騎士団の方たちでは、どんなに頑張って魔獣と戦ったとしても、結果は火を見るよりも……。
「そこから先、お前を守る役目はザルツリンド王国の者たちに任せるしかない」
「それってつまり、飛竜騎士団の方たちってことですね?」
「いや、ザルツリンド王国には竜騎士以外にも騎士は多くいると聞くぞ。迎えに来ているのが竜騎士とは限らないのではないか?」
「あらら、そうなのですか?」
「なんだ、随分と残念そうだな?」
「だって、飛竜に乗れるかもしれないと、ちょっとは期待しますよね?」
「……。ルイーズ。自ら危険に近付くようなことを、呉々もしてくれるなよ!」
「えっと……。もちろんですわ!」
お父様は、いつだって心配し過ぎだと思うの。
乗ってみないことには、飛竜が危険かどうかなんて、私に判断できっこないわよね?
「そうだ、ルイーズ。ザルツリンド王国へお前と共に行く者についてなんだが、余り大勢連れて行くことは難しいぞ」
「そうですか」
「ザルツリンド王国へ入って1年間は、お前はあくまでも第二王子の婚約者候補という立場だ。何人もの侍女や従者をザルツリンド側に受け入れて貰うわけにもいかん」
「では、ザルツリンドへ向かうのは私1人と言うことでしょうか?」
「流石にそれでは困るだろう?」
「はい。できれば、ジネットとローラの2人とは一緒に向かいたいと思っているのですが」
「ジネットとローラ? なんだ、たったの2人で良いのか?」
「だって、お父様、大勢は無理だと仰いましたよね?」
「10人、20人は無理だと言いたかったのだが……。2人か。2人だけで、大丈夫なのか?」
「もし出戻ることになった時に、少人数の方が目立たなくて良いと思いますわ!」
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