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 4 第四皇女と食べ物のこと。

「ねえ、メラニー」

「何ですか? ちい姫様」

「メラニーは、お肉を食べたことって、あったりする?」

「お肉?」

「そうよ、お肉! オークの串焼きとか、ドラゴンのステーキとか。そう言う(たぐい)のお肉料理よ」

「一度もありませんわね。……だいたいそんな物、本当にこの世に存在しているのですか? 姫様がいつも読まれているそちらの本に書かれているだけの、架空の食べ物なのでは?」

「ええっ。そうなのかしら?」



昨日の夜から、侍女のジネットが休暇を取って実家に帰っているので、調理場入り口から注がれるジネットの視線を気にすることも無く、こうしてメラニーとのお喋りを楽しんでいたのだけれど……。



「牛肉のステーキでしたら、うちの旦那が他国へ行った時に食べたって聞きましたよ。後で旦那に直接、姫様が聞いてみては如何ですか? とは言っても、仕入れに行っているので今は居ませんけどね」

「ねえ、メラニー。今、牛肉のステーキって言った?」

「ええ、言いましたよ。旦那が食べたのは、ドラゴンでは無く()()()ステーキです」

「牛肉って、もしかして、牛のお肉のこと?」

「それはそうですよ! じゃあ、逆に伺いますけど、牛肉が牛の肉で無いのなら、他のどんな肉だって仰るんです?」



メラニーは大笑いしている。



「だって……。牛って、ミルクを分けてくれる、あの牛、よね?」

「もちろんそうですよ!」

「牛って、食べられるの?」

「ああ、そう言うことですか……」



メラニーは剥いていたジャガイモとナイフを作業台に置いて、椅子を引っ張って来て私の前に座った。



「ちい姫様、この国で起きることや、この国の常識が、他の全ての国々でも同じように起こったり、どの国でも常識だったりはしないんです」

「そうなの?」

「ええ、そうですよ」

「でも、家庭教師の先生はそんなこと、私に教えてくれないわ」

「それは……。私が思うに、姫様がずっとこの国から出ること無く過ごしていかれると、きっとその先生は思っていらっしゃるからだと思いますよ」

「それって、どう言うこと?」

「聖女様では無い姫様は、将来きっとこの国の貴族のご令息と結婚されて、この国の中で幸せなご家庭を築かれる。それでしたら、この国の常識だけあれば充分なのです」

「……メラニーの言いたいこと、難しくてよく分からないわ」



メラニーの話によると、このグルノー皇国は他の国々に比べると、非常に特殊な国なんですって。

聖女様が割と多く居るとか、魔獣が全く居ないとか、それから男女比の話は知っていたけれど、どうもそれだけでは無いみたい。



「この国では、人間だけで無く、何故か家畜にも、明らかな()()()()があるんです」

「しゆうすうさ?」

「はい。雄と雌の数の差です。この国では、雄に対して、圧倒的に雌が多いんです」

「それって、駄目な事なの?」

「駄目かどうかは……。ちょっと私にも分かりません。ただ、他所の国では牛を食べます。鶏も食べます」

「卵を産む、あの鶏?」

「そうですよ。聞いた話では、大抵食用になっているのは、雄牛や雄鶏らしいですね。私も詳しくは知りませんが」

「雄牛や雄鶏? ミルクが出ない牛だったり、卵を産まない鶏ってことね?」

「そうですね」

「じゃあ、この国で牛肉や鶏肉を食べないのは、雄が少ないからって言うことなの?」

「ただでさえ少ない雄を食用にしてしまえば、新しい命が生まれなくなる。あくまでも()()()()()()()()()()()、そう言うことらしいですよ」



驚いたわ!

牛肉や鶏肉を食べるだけではなくて、国によっては、山羊も羊も兎も食用になるらしい。

山羊はミルクを分けてもらうため、羊は毛を刈るために家畜として育てているのだと思ってた。

兎は……この国では野生にしかいない。



「じゃあ、牛肉の串焼きがあるかもしれないってことね?」

「串焼きが何かは分かりませんけど、オークやドラゴンよりは、その可能性は高いでしょうね」

「そうなの……」



そもそも、このグルノー皇国には、お肉を食べる習慣は無い。

海でも、川でも、湖でも、豊富に魚は釣れる。そういった魚を使った料理は沢山ある。

野菜やきのこ、果物も種類が多し……。

お肉を食べなくても、食生活で困ることは何も無いからね。



「と言うことは、他国へ行かない限り串焼きを食べることは叶わない(つまり他国へ出れば串焼き食べ放題!)ってことね?」

「そうですね」

「そうなのね! 良いことを聞いたわ! ありがとう、メラニー!」

「どういたしまして」



メラニーは椅子を片付け、作業に戻っていった。

今日のお夕食には、きっとあのジャガイモが使われるのね! どんなお料理が出てくるのか、とっても楽しみだわ。



メラニーと話して分かったことは


1. グルノー皇国に居る限り、お肉を食べるチャンスは無い!

2. お肉にはいろいろな種類がある!

3. メラニーの旦那さんは牛肉のステーキを食べたことがある!

(ただし他所の国で)


つまり、今後私がお肉を食べるためにするべきことは


1. グルノー皇国から他国へ行く方法を探る!

2. メラニーの旦那さんに会って、ステーキが美味しかったかを聞く!

3. ……。は、特に無いわね。



  ◇   ◇   ◇



その日の夜遅くになって、ジネットが実家から戻って来た。

ジネットは私の寝る支度を手伝ってくれながら、今日あった出来事を話し始めたわ。



「ついに姉の結婚が決まったんです!」

「まあ、おめでとう。お姉様って……一番上の?」

「ええ、そうです。同じ伯爵家の次男の方が婿入りして下さることになったので、これでどうにかシャルハム伯爵家も存続の危機を免れそうです」



ジネットはシャルハム伯爵家の三女。

御多分に漏れず、シャルハム伯爵家も三姉妹。やはり、グルノー皇国には圧倒的に男性が少ないのね。

そんな厳しい状況にも関わらず、婿入りしてくれる次男坊を見つけ出してきたジネットのお父様のシャルハム伯爵に、私は心の中で勝手に拍手を送りたいと思います!ぱちぱちぱち。



「じゃあ、次はすぐ上のお姉様で、それから、その次がジネットの番ね」

「そんなに簡単な話だったら良いのですけどね……」

「他所の国の中には、男性の方がずっと多い国もあるらしいわよ」

「それって、絵本の中のお話だったりしませんよね?」

「あら?……そうだったかしら?」

「他所の国ですか……。私がもしも聖女様だったら、他所の国にも行くチャンスもあったかもしれませんね」

「そうね。でも、もしジネットが他所の国に派遣される程の聖女様だったとしたら、別の意味で結婚は難しいかもしれないわよ」

「ああ、確かにそうですね。と言うことは……私が聖女様でもそうで無くても、結婚への道はどちらにしても険しいってことじゃ無いですか!」



ジネットはがっくりと肩を落としちゃった。

この国には結婚をしない女性は沢山いるけど、ジネットは結婚したい派みたい。



「では、ルイーズ様。おやすみなさいませ。良い夢が見られますように」

「ありがとう、ジネット。おやすみなさい」



ベッドの中で一人考える。

この国に居たらお肉が食べられそうも無い私と、この国に居たら結婚できなさそうなジネット。

これって、もしかしたら最高の組み合わせだったりしない?

ジネットを誘って、他所の国へ行けば良いのよ!


ふふふ。なんだか楽しくなってきたわね。

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