48 第四皇女と新しい料理人。
「凄いわ! どれもこれもとっても美味しい! ねえ、ジネットも、そう思うわよね?」
「はい、ルイーズ様! 私はこのプルプルとした冷たいものが特に好きですわ! ねえ、ローラ。このデザート、ジェリーと言ったかしら?」
「そうです! ジェリーは使う果汁や果物の組み合わせを変えれば、もっといろいろな味が楽しめるんです!」
「それって凄く素敵! 聞いた話では、ザルツリンド王国の夏は気温が高くなる日がとても多いそうよ。冷たいデザートが頂けるのは凄く嬉しいわ!」
◇ ◇ ◇
あれは確か……。ザルツリンド王国からの “親書” が届けられてから、少し経った頃だったかな。
いつも私の我儘に応えて美味しいものを作ってくれている料理人のメラニーが、休憩時間の合間に1人の料理人を連れて私の部屋を訪ねて来たの。
「姫様。今日は、姫様に是非紹介したい料理人を連れて参りました」
私のことをずっと “ちい姫様” と呼んでいたメラニーは、私の身長は相変わらず小さいままだけれど、いつの頃からか、私に対する呼び方を “ちい姫様” から “姫様” に改めていたのよね。
「娘の、ローラです」
「娘? メラニーの? 料理長とメラニーって……。子どもがいたのね?」
「ええ。ここにいるローラの上にも娘が3人」
「そうなの? 全然知らなかったわ……」
ローラと名乗ったその料理人は、私よりも少しだけ年上に見えたわ。
私の知る限り、メラニーはずっとこのお城の料理人をしているので、料理長がメラニーの旦那さんだってことは知っていたけれど、娘が4人もいたなんてことは初耳よ!
「皆、姫様よりも年上ですし。3番目の娘とローラはこのお城の料理人ですよ。1番上の娘は、小さいところですが自分の店を切り盛りしています。次女は結婚してもう料理人は辞めてしまいましたけど、それまではこのお城で一緒に働いておりました」
「そうだったの? 凄いわ! メラニーの家族は全員が料理人なのね!」
お城の料理人であるメラニーは、基本的にはどんなお料理でも作れるらしいのだけれど、メラニーが得意としているのは断然デザートなのよ!
メラニーが作る新しくて美味しい焼き菓子や生菓子は、小さい頃から私の大好物♪
だったのだけれど……。
最近では、お母様がメラニーの作るお菓子の虜になってしまったせいで、メラニーはお母様が主催するお茶会用のお菓子作りで大忙し!
今やお母様の開くお茶会には、メラニーの作る美味しいお菓子を楽しみして来られるお客様もかなり多いと聞くわ。
グルノー皇国の王妃主催のお茶会ともなると、私が中庭のガゼボでちょこっと開くものとは違って、もちろん招待するお客様の人数も多いし、かなり大規模で、格式も当然だけど高いわけ。
そうなると絶対に失敗は許されないので、打ち合わせにも、材料選びにも、仕込みにも、凄く凄く時間が掛かるわ。
そうなると、小さい頃のように、私が育てたとびきりのイチゴを急に調理場へ持って行って「今からこれを使って何か美味しいお菓子を作って!」なんてメラニーにお願いするわけにもいかず……。
「ローラも大抵の物でしたらなんでも器用に作りますが、特に、お菓子作りが得意なんです!」
「そうなの?」
「ええ。ですから、これからは私に代わって姫様のためのお料理やお菓子を、娘のローラに作らせてみては頂けないでしょうか?」
「メラニーの、代わり?」
「姫様! どうか私の作った焼き菓子を、試食してみて下さい!」
緊張した顔をして早口でそう私に告げたローラが、部屋に運び入れたワゴンに乗せてきていたお菓子は全部で3種類。
その中には、私が丹精込めて育てている大好きなジャンボイチゴを綺麗にカットして、タルトの上部全面にまるで真っ赤なお花が咲いているみたいに敷き詰めた、あの “イチゴのタルト” もあったわ。
「これ、メラニーとローラの2人で作ったの?」
「いいえ。母からレシピを教えて貰い、私が全て1人で作りました!」
「そう、なんだ……」
いつの間にかお茶の用意をしてくれていたジネットが、1人分のイチゴのタルトを切り分けてくれたので、強張った表情のままのローラの視線を一身に浴びながら、私はタルトを口に入れてみたの。
「あ、美味しい! いつもメラニーが作ってくれていた “イチゴのタルト” と見た目はそっくりだけど、少し違うのね! もっとタルト生地が……。何だろう、香ばしい?」
「はい! 生地にアーモンドを細かくすり潰して加えてみました!」
「アーモンド? ああ、そうなのね! この感じ、私、凄く好きよ! とても美味しいわ♪」
「姫様、こちらのチョコレートケーキもお試し下さい! それから、シフォンケーキも!」
ローラは私の「美味しい」のひとことに安堵したのか、やっと表情を和らげた。
ローラが作ってきた他の2種類、濃厚で大人っぽい味に仕上げられたチョコレートケーキも、とろけるような優しい甘味のクリームが添えられたふわふわなシフォンケーキも、どちらも驚くほど美味しくてビックリ!
「ねえ、ジネット。貴女も食べてみる?」
「えっ! よろしいのですか?」
「だって、そんな表情でずっと見つめられてたら……。私1人では食べ難いわ」
どうやらメラニーは、お父様のところにザルツリンド王国から “親書” が届いて、私かヘンリエッタお姉様のどちらかが、いずれザルツリンド王国へ向かうことになるらしいという噂話を耳にしたようなの。
こういう話って、どこから漏れるのでしょうね?
「もしも姫様が選ばれてこの国を離れることになっても、私は姫様と一緒にザルツリンド王国へ行くことはできません」
「ええ、分かっているわ。それは、そうよね」
どんなに私がメラニーと、メラニーが作ってくれるお菓子が大好きだったとしても、メラニーは今やお母様の主催するお茶会には欠かせない料理人だし、愛する旦那さんを残してこの国を離れることなんて、絶対にできっこないわ。
「ですが、ローラでしたら、姫様に同行することも可能です! もしも姫様がローラの腕を買って下さるのでしたら、ローラを姫様の専属料理人の1人としてザルツリンド王国へ連れて行って頂きたいのです」
「私の、専属料理人?」
「はい!」
「ジネット。もしも私が行くことになったとして、料理人を連れて行っても良いものなのかしら?」
「……さぁ。私には分かりかねます」
「姫様。私はこの国の外を自分の目で見て、舌で知りたいのです! グルノー皇国以外の土地に暮らす人々がどんなものを、どんな料理方法で、どんな味付けで、どんな風に食べているのかを。他所の国の料理を自分でも食べてみたいし、自分の作るものを他所の国の人たちにも食べて貰いたい!」
ローラの気持ちも分かるわ。
私だってお肉を食べてみたい。だからこの国を出たい気持ちもある。だって、この国に居てはお肉は絶対に食べられないもの!
だけど、お父様もお母様も今回のザルツリンド王国からのお話に対して、あからさまに「否」とは言わないまでも、前向きな感じはしないのよね。
このお話が来ていなければ、私はアデルお姉様のように公爵家か侯爵家の何方かと結婚して、きっとずっとこの王都レンファスで暮らしていたと思うの。
なのにメラニーも料理長も、ローラが私の専属料理人としてグルノー皇国を離れてしまっても、本当に平気なのかしら?
「ローラもメラニーも、それに料理長も、本当にそれで良いの?」
「私も旦那も料理人です。ローラの気持ちも理解できます。できることなら、その望みを叶えてやりたいとも思っています」
「……そうなの?」
「それに、この娘は例え今回姫様の専属料理人になれなかったとしても、遠くない将来、自分の力で国を出て行くと思いますよ。そういう娘なんです」
◇ ◇ ◇
そんなことがあってから、私とジネットは時々ローラが作って持って来るお菓子を、今日みたいに一緒に食べて、それに対して感想を言いあったり、もっと別の工夫をしたものを食べてみたいとか提案したりして過ごして来たの。
今までに何度かお父様には「専属料理人をザルツリンド王国へ連れて行きたい!」ってことと「できれば専属料理人はローラが良い!」と伝えてはいるのだけれど……。
残念ながら、はっきりとしたお返事はまだ貰えていません。
でも、出立までもう2ヶ月を切ってしまっているし、そろそろ誰が私と一緒にザルツリンド王国へ向かってくれるのかくらい知りたいわ。
流石に、私1人だけで向かうってことは……ない、わよね?
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