45 第四皇女と手紙の束。
「ルイーズ様。お手紙がいくつか届いておりますよ」
「まあ、誰からかしら?」
お祖父様とジョルジュとの話を終えて、ちょっと沈んだ気持ちで研究室から自室へと戻ると、ジネットが私宛の手紙の束を手渡してくれたわ。
もうお分かりかと思うけれど、全てお父様の手で開封済みよ。相変わらず私宛に送られて来るお手紙を全て先に確認されています。
以前、ラファエルお兄様と一緒に開発した “魔法のインク” は、結局お父様のお許しが頂けなくて……。
あのインクに関しては、ラファエルお兄様の協力がないと私一人では作れなかったし、別の人の魔力を込めて新しいインクを作ることはもう諦めたわ。どのみち内緒のお話をするような友人は今もまだ私には居ないしね。
だから現在でも、私とお兄様の魔力入りのインクの2種類しか存在していないのよ。
と言っても、私が持っていたお兄様のインクも、お兄様にお渡ししていた私のインクも、両方とも今はお父様がどこかに保管されているみたい。
もう5年以上前の話だから……。あのインクから、魔法の力は消えてしまっているかもしれないわね。
「ええと。こっちは全部お茶会の招待状ね。それと、ドゥガン商会のアーレグさんからだわ」
「ルイーズ様が参加する必要のあるお茶会の招待状には、いつものように封筒の端に丸印が付けられているそうですわ。それ以外に関しては、お断りする旨の内容が書かれたお手紙を秘書官の方が後程お持ちになるそうなので、署名をしてすぐに戻すようにと言付かっております」
「そう。分かったわ」
社交デビューしてからというもの、こうしたお茶会の招待状が私のところにも頻繁に届くようになったの。
もちろん全てのお誘いをお受けすることは不可能なので、家同士の関係とか、人の繋がりとか、その裏にある思惑とか、そういったことを全て考慮した上で、参加すべきお茶会と、そうでもないもの、それから参加しない方が良いものをお母様が厳選されてから、こうして私のところに招待状が届けられるのよ。
「えっと、アーレグさんからのお手紙は……」
アーレグさんは、以前ジョルジュが私の作ったハンドクリームをお母様のご友人方に勝手に売り捌いた時に、お父様が紹介して下さった、皇都レンファスにあるドゥガン商会の息子さんです。
例のハンドクリームは、ドゥガン商会の協力の元、ラファエルお兄様が中心となって新しい商会を立ち上げて、レンファスの中心街にお店を出して販売しているのよ。
そのお店では、ハンドクリーム以外にも、香水、練り香水、それから石鹸、化粧水など、主に女性向けの商品を取り扱っているわ。どれも品質も香りも素晴らしいって評判なのよ。
扱っている商品は店頭で販売しているものの他に、貴族のご婦人向けに素材やパッケージにこだわった高級感のあるものも用意したの。
そちらに関しては、お店に出向いて買い物をしない高位貴族の方に向けたラインナップよ。
これが面白いくらいに儲かるのですって。ジョルジュが言っていたわ。
前にも言ったと思うけれど、得られる利益は4等分にして、私と、ラファエルお兄様と、ジョルジュと、それから残りは救護院の支援に使うものとで分配しているのよ。
そうそう! 毎月の収益は、ジョルジュの提案で半分を現金で受け取って、残りの半分を商業ギルドに口座を開設して預けることにしたの。
ジョルジュの話では、グルノー皇国の商業ギルドに口座を開設して預けたお金は、大陸にある他所の国の商業ギルドに行っても、どこでも自由に出し入れができるそうなのよ。
ラファエルお兄様も、留学中はハーランド王国の商業ギルドに足を運んで、都度お金を引き出していたのですって。
この時はまだお兄様はご自身の口座をお持ちではなかったから、お父様が留学するお兄様のために口座を用意したらしいのだけれど、すごく便利だったとお聞きしたわ。
因みに、この国には冒険者ギルドはないけれど、同じシステムが冒険者ギルドにもあるそうよ。
だからグルノー皇国以外の6国では、冒険者は冒険者ギルドに、それ以外の人は商業ギルドに口座を開設することが多いのですって。
話が逸れちゃったけれど、今日届いたアーレグさんからのお手紙の内容はは、先月の大まかな売り上げ品目の報告と、私のギルド口座への入金のお知らせと、それから、お客様から店舗に寄せられた商品に関しての感想や意見ね。
「ふうん。頭や髪の臭いを軽減するための香水かぁ……」
「新しい商品の依頼ですか? 確かにこれからの季節は汗を多くかくので、髪の臭いは気になりますね」
「……そうね」
貴族であっても、入浴設備のない屋敷が少なくないと聞くわ。
このお城には王族専用の入浴設備と、それとは別にお城で働く人たちのための入浴設備があるけれど、一般の家庭では水か湯で身体を軽く拭くだけだとか。
だとしたら、髪は簡単には洗えないってことなのよね?
ああ。だから尚更、臭いを誤魔化すために香水や練り香水が売れるのね……。
入浴設備がなくても、髪を簡単に綺麗にできる方法が何かないかしら。ちょっと考えてみても良いかも!
「……あら? これ、グレーテ叔母上様からのお手紙だわ!」
グレーテ様は、お父様の妹で元聖女様。
現在は、隣国リスカリス王国の王弟であられるシャール殿下のところに嫁がれています。
「ああ、やっぱりね……。今年はお里帰りは無理だそうよ」
「グレーテ様は、昨年もレンファスにお戻りになられていらっしゃいますからね。流石に毎年は難しいでしょう……」
「うーん。そうよね。残念だわ」
グレーテ様は5年ほど前にリスカリス王国へ嫁がれて、3年前と、昨年の2度、このお城にお里帰りをされています。だいたい2年毎かしら。
グルノー皇国の皇都レンファスと、国境を接しているリスカリス王国の王都でも、移動には馬車でどんなに頑張っても10日以上はかかるそうなの。
グレーテ様がお里帰りされる時はこのお城での滞在期間は約1ヶ月。それもお一人ではなく、毎回シャール殿下もご一緒されるので……。まあ、ご公務もあるでしょうし、毎年は無理よね。
「お手紙には『リスカリス王国へ是非とも遊びにいらっしゃい!』って書いて下さっているわ」
私だって、行けるものなら今すぐにでも行きたい!
ザルツリンド王国から来ている婚約話の件も、グレーテ様に相談にのって頂きたかったのに……。
「ああ、そうでした! ルイーズ様、ラファエル様から “手紙鳥” も来ておりますよ」
そう言ってジネットが、小さな封筒を咥えた綺麗な青い小鳥を私に差し出したわ。
“手紙鳥” は、配達料金を支払うと、鳥が指定の場所まで飛んで、その手紙を届けてくれるというハーランド王国では一般的な魔導具なの。
この青色の手紙鳥は、ハーランド王国のご友人が面白い物が大好きなお兄様に結婚祝いとして贈って下さった特注品なのですって。
ラファエルお兄様がお城の見取り図を “手紙鳥” に覚えさせたので、城内であればどこへでも手紙を運ぶことができるそうよ。
ただし、お兄様以外の人が鳥を飛ばすことはできないので、こうして手紙を受け取った私は、後でお兄様のところまで歩いて “手紙鳥” を返しに行かなくてはならないのだけれど……。
ハーランド王国でも、手紙を受け取った人が近くの魔導具屋に鳥を返却しに行く必要があるそうだから、私がお兄様のところまで行くのは仕方がないことだわね。
因みに、もし鳥の返却が遅れたり、鳥を返却しなかった場合は、手紙を送った人が魔導具屋に罰金を支払わないとならないそうよ。
そういえば以前、ハーランド王国に留学されたラファエルお兄様が私宛に送って下さった “手紙鳥” のことを覚えているかしら?
あの時私のところに届いた鳥は、国境を越えるため返却できないから、お兄様が魔導具屋で予め買い取ったもの。
今もこのお部屋の窓辺に置かれた鳥籠の中にちゃんと居るのだけれど……。
私が大事にしている七色の “手紙鳥” は、私の魔力を少し食べさせると、首を傾げたり、目をパチパチさせたり、それから、とっても綺麗な声で歌うのよ!
でもね。留学から戻られたお兄様にお礼を言ってその話をしたら、お兄様がすぐに私の鳥を確認しに来られたの。
お兄様は「こんな仕様があるなんて話は聞いていない!」って驚かれて……。
魔力を込めると、ピイと鳴いて、ちょっと首を動かすだけの筈なんですって。変よね? 違いすぎるわ。
「ルイーズ様。ラファエル様のご用事は何でしたの?」
「えっと。『明日の午後、お茶会をするので是非おいで!』って書いてあるわ。それに『焼き菓子をよろしく!』ですって。これだと、私にお茶会に来て欲しいのか、お茶会用に焼き菓子が欲しいだけなのか分からないわね」
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